改正前の遺留分減殺請求権・改正後の遺留分侵害額請求権の実務的な行使方法とその効果

2014(平成26)年6月6日
2018(平成30)年6月15日改訂
2019(平成31)年2月22日改訂

 

第1 改正民法により,遺留分制度が見直しされ,遺留分制度は,遺留分侵害額に相当する金銭の請求が出来るようになります。

  この改正民法の施行日は2019年7月1日です。

 

第2 改正前の遺留分制度

 遺留分減殺請求権の実務的に一般的な行使方法は以下のとおりです。

 

 遺留分減殺請求権の行使期間が、遺留分減殺請求権者が自己の遺留分を侵害されたことを知ったときから1年間と極めて短いため、最初に内容証明郵便で、かつ、配達証明郵便で遺留分減殺請求の意思表示をします。

 

 その後に、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に、遺留分減殺請求調停を申し立てます。(調停前置主義・家事事件手続法257条1項)

 

 仮に、遺留分減殺請求調停が不成立になった場合は、被相続人の最後の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所等に遺留分減殺請求訴訟を提起することになります。(民事訴訟法5条14号等)

 

 遺留分減殺請求権は形成権であり、その効果は物権的に生ずるとするのが判例・通説です。

 

 この立場に立てば、遺留分減殺請求権行使の結果、遺留分を侵害する処分行為の効力は、遺留分減殺者の遺留分を侵害する限度で失効し、減殺された財産は遺留分減殺請求権者に帰属することになります。

 

 従って、遺留分減殺請求訴訟では、遺留分減殺請求権そのものが訴訟物になるのではなく、遺留分減殺請求権行使の結果生じた物権的請求権ないし債権的権利が訴訟物となります。

 

 よって、遺留分減殺請求訴訟においては、不動産引渡請求、動産引渡請求、金銭支払請求、登記手続請求、所有権・共有持分権確認を求めることになります。

 

 そして、判例によれば、遺留分減殺請求者に取り戻された財産部分は、遺留分減殺請求権者の固有の財産となるため、被請求者の手許(てもと)に残った部分(留保財産)との法律関係は共有関係となり、その共有関係を解消するには、家庭裁判所による遺産分割調停・審判ではなく、地方裁判所ないし簡易裁判所による共有物分割請求訴訟によることになります。

 

 なお、被相続人の財産すべてが生前贈与、包括遺贈、ないし、「すべて相続させる」との遺言により遺留分を侵害した場合は、上記の手続により遺留分減殺請求しますが、被相続人の財産の一部が遺産として残っている場合は、遺産分割の調停・審判と遺留分減殺請求訴訟が絡んで非常に困難な事件処理となります。

 

 このように改正前の遺留分制度では,遺留分減殺請求権の行使によって,不動産等が相続人間の共有状態となり,事業承継の障害になったり,共有持分権の分母・分子とも極めて大きな数字となり,共有持分の処分に支障が出るおそれがありました。

 

第3 改正された遺留分侵害額請求権について

 今回の改正により,遺留分を侵害された相続人は,被相続人から多額の遺贈又は贈与を受けた者に対して,遺留分侵害額に相当する金銭を請求することができるようになりました。(改正法1046条)

 この改正により,遺留分減殺請求権の行使により遺産である不動産等について共有関係が当然に発生することを回避できるようになりました。

 

 遺留分侵害額請求権の期間制限は以下の通りです。

 遺留分権利者が,相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効により消滅します。

 相続開始の時から10年を経過したときも時効により消滅します。(改正民法1048条)

 

 なお,遺留分侵害額請求権の実務的な行使方法は,上記第2遺留分減殺請求権の実務的な行使方法と同一です。

 

 

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