少額訴訟手続について
2004(平成16)年5月8日
2019(令和元)年7月22日改訂
2019(令和元)年7月22日改訂
第1 少額訴訟手続の概要
民事訴訟法が改正されて,訴額60万円以下(平成16年3月31日以前は30万円以下)の金銭の支払請求事件については,平成10年1月1日以降,簡易裁判所で少額訴訟手続という新しい手続が利用できるようになった。(民事訴訟法368条以下)
第2 少額訴訟手続の基本的内容
1.簡易・迅速な紛争解決の徹底
- (1)少額訴訟手続においては,原則として1回で審理(口頭弁論)を終えることとした(1期日審理の原則)。(民事訴訟法370条)(以下すべて同法)
- ①審理できる事件を金銭の支払請求事件に限定した。(368条1項)
- ②金銭請求事件でも,審理が複雑になると考えられる事件を裁判所が個別に通常の訴訟事件へ移行できるようにした。(373条3項4号)
- ③審理を複雑にする反訴提起を禁止した。(369条)
- ④即時に取り調べができる証拠に限定した。(371条)
- ⑤当事者は,原則として,口頭弁論期日前またはその期日において,すべての攻撃又は防御方法を提出しなければならない。(370条)
- ⑥訴訟代理人が選任されていても,必要があれば,裁判所は,当事者本人等へ出頭を命ずることができる。(370条2項)
- (2)判決に対する工夫
- ①1期日審理の当日中に判決の言渡しをすることができる。(374条1項)
- ②調書判決制度を導入した。(374条2項)
- ③被告の任意の履行が行われるよう,裁判所が被告に対して分割払や支払猶予等を命ずる判決が出せるようにした。(375条)
- ④原告の強制執行の準備の労力を軽減するため,請求認容判決には必ず仮執行の宣言をする。(376条)
- ⑤少額訴訟の判決に表示された当事者に対して,または,その者のためにする強制執行においては,執行文の付与を受けなくても強制執行できる。(民事執行法25条但し書き)
- (3) 不服申立に対する工夫
- ①控訴を認めない。(377条)
- ②同一裁判所への異議のみを認めるが(378条),異議審においても,反訴を禁止した。(379条,369条)
分割払や支払猶予等を命ずる判決を出せるようにした。(379条,375条) - ③異議後の終局判決に対しても,特別上告を除き,控訴を禁止した。(380条,327条)
- (4)一般市民が自ら利用することができる訴訟手続の工夫
- ①訴え提起の要件の緩和
申立の要件を緩和して,訴状には,請求の原因に代えて紛争の要点を明らかにすればよいとした。(272条) - ②利用回数の制限
この手続の利用は同一の簡易裁判所に対して,一人当たり年間10回までと制限した。(368条1項,規則223条) - ア 訴え提起の際に,少額訴訟手続の利用回数を届出なければならない。(368条)
- イ その届出をしない者には,裁判所は,その利用回数の届出を命ずることができる。(参照373条3項2号)
- ウ 相当の期間を定めて命じたにもかかわらず利用回数を届出なかった場合には,裁判所は,訴訟を通常の手続へ移行決定しなければならない。(373条3項2号)
- エ 虚偽の届出に対しては,10万円以下の過料が科せられる。(381条)
- ③少額訴訟手続の教示
- ア 裁判所書記官による手続の説明書の交付(規則222条1項)
- イ 裁判官による期日の冒頭における口頭による説明(規則222条2項)
- ④当事者尋問に対する工夫
- ア 当事者尋問の補充性(207条)を廃止して,裁判所が,まず,当事者本人に尋問できるようにした。(372条2項)
- イ 当事者本人尋問の順序を,交互尋問の原則(210条,202条)を取り入れず,裁判官が一般市民に代わって尋問できるようにした。(372条2項)
- ⑤証人尋問の手続に対する工夫
- ア 証人に宣誓させないで尋問できるようにした。(372条1項)
- イ 交互尋問の原則(202条)をとりいれず,裁判官が一般市民に代わって尋問できるようにした。(372条2項)
- ウ 証人尋問の申出をするときに,尋問事項書を提出することを要しないこととした。(規則225条)
- ⑥不服申立に対する工夫
- ア 同一裁判所への異議が認められたため,不服申立てのための裁判所への出頭は同じ場所である。(378条)
異議手続には簡易裁判所の訴訟手続の特則が利用できる。(379条) - イ 異議審においても,当事者尋問の補充性の廃止や証人尋問手続等での交互尋問の原則を不採用として利用しやすくしている。(379条2項,372条2項)
2.少額訴訟手続利用の選択
少額訴訟手続を利用するか否かについての選択権を利用者である原告及び被告,更に,裁判所に与えた。(368条1項,373条1項,3項)
被告は,最初にすべき口頭弁論の弁論前に,訴訟を通常の訴訟手続に移行させる旨の申述をすることができ,この申述があると通常の訴訟手続に移行します。(373条1項,2項)
参考文献 「書式少額訴訟の実務」 加藤俊明著 民事法研究会発行
以上