クーリングオフ及び消費者契約法による取消について
2017(平成29)年 7月 7日改訂
2019(平成31)年 3月26日改訂
2019(令和元)年 6月8日改訂
2023(令和5)年5月2日改訂
第一 クーリングオフ及び消費者契約法による取消について
一般に契約が成立した場合,売主が約束と違う商品を納入したなどの債務不履行,または,契約が詐欺または強迫によって行われたことを理由とする取消,または間違って契約をしてしまった錯誤を理由とする取消等一定の理由がないと,契約をなかったことにすることができません。
しかし,一般の消費者が業者の言うがままに契約をしてしまい損害を受ける事例や,内職ないしモニターに応募した人たちが業者の甘言にのってパソコン等の高額商品の購入契約をしてしまうという事例が多数あり,それらを救済するためにクーリングオフ制度及び消費者契約法による取消の定めがなされております。
第二 消費者契約法及び消費者取消権は以下の通りです。
- 一 消費者契約法の目的・性格
消費者(個人のみです。法人は適用外です。また個人でも事業として又は事業の為に契約の当事者となる場合は除かれて適用外です。消費者契約法2条1項)が事業者との契約で被害にあわないようにするとともに,被害にあった場合の救済方法を規定したものです。
消費者契約法は,平成28年5月25日に改正され,一部を除き平成29年6月3日から施行されました。
更に、消費者契約法は,2022(令和4)年に一部改正され,2023(令和5)年6月1日に施行されます。 - 二 事業者の情報提供・説明義務(消費者契約法3条)
努力義務です。違反しても直ちに損害賠償義務は発生しません。 - 三 消費者取消権(消費者契約法4条)
民法では,詐欺や強迫による取消し,錯誤による無効の規定がありますが,要件が厳格に定められており,それを立証することが裁判上困難な場合が多いです。
また,後でのべるクーリングオフをすることができる期間は8日間ないし20日間と極めて短いので,クーリングオフ期間が過ぎてしまうことが多いのです。
そこで消費者契約法は消費者取消権を創設しました。- 1 消費者取消権の要件 (消費者契約法4条)
- ○2019(令和元)年6月15日に改正消費者契約法が施行されます。
- ○2023(令和5)年6月1日に改正消費者契約法が施行されます。
- ① 事業者が消費者に重要事項(契約締結の判断に通常影響を及ぼすべきもの)について事実と異なることを告げた場合(不実告知)(消費者契約法4条1項1号)
- ② 事業者が物品,権利,役務その他の消費者契約の目的となるものに関し,将来におけるその価額,将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項について断定的判断を提供した場合(断定的判断の提供)(消費者契約法4条1項2号)
- ③ 事業者が消費者にある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について消費者の利益となる旨を告げ,かつ,当該重要事項について消費者の不利益となる事実を故意に又は重大な過失によって告げなかった場合(不利益事実の不告知等)(消費者契約法4条2項)
- ④ 消費者が事業者に対して住居等から退去するよう要求したにもかかわらず,退去しなかったため,やむなく契約の申込みまたはその承諾の意思表示をした場合(困惑類型)(消費者契約法4条3項1号)
- ⑤ 消費者が事業者の店舗等から帰りたいと要求したにもかかわらず,事業者が帰させなかったため,その場から立ち去るためやむなく契約の申込みまたはその承諾の意思表示をした場合(困惑類型)(消費者契約法4条3項2号)
- ⑥ 勧誘することを告げずに退去困難な場所へ同行し勧誘した場合(消費者契約法4条3項3号)(新設)
- ⑦ 威迫する言動を交え相談の連絡を妨害した場合(消費者契約法4条3項4号)(新設)
- ⑧ 当該消費者が,社会生活上の経験に乏しいことから,進学,就職,結婚,生計その他の社会生活上の重要な事項や,容姿,体型その他の身体の特徴又は状況に関する重要な事項につき,願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら,その不安をあおり,裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに,物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該願望を実現するために必要である旨を告げること(消費者契約法4条3項5号)
- ⑨ 当該消費者が,社会生活上の経験が乏しいことから,当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き,かつ,当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら,これに乗じ,当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること(消費者契約法4条3項6号)
- ⑩ 当該消費者が,加齢又は心身の故障によりその判断力が著しく低下していることから,生計,健康その他の事項に関しその現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら,その不安をあおり,裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに,当該消費者契約を締結しなければその現在の生活の維持が困難となる旨を告げること(消費者契約法4条3項7号)
- ⑪ 当該消費者に対し,霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として,そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり,当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること(消費者契約法4条3項8号)
- ⑫ 目的物の現状を変更し原状回復を著しく困難にした場合(消費者契約法4条3項9号)(新設)
当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意見表示をする前に,当該消費者契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部若しくは一部を実施し,又は,当該消費者契約の目的物の現状を変更し、その実施又は変更前の原状の回復を著しく困難にすること。 - ⑬ 当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意見表示をする前に,当該事業者が調査,情報の提供,物品の調達その他の当該消費者契約の締結を目指した事業活動を実施した場合において,当該事業活動が当該消費者からの特別の求めに応じたものであったことその他の取引上の社会通念に照らして正当な理由がある場合でないのに,当該事業活動が当該消費者のために特に実施したものである旨及び当該事業活動の実施により生じた損失の補償を請求する旨を告げること(消費者契約法4条3項10号)
- ⑭ 過量契約の勧誘(消費者契約法4条4項)
- ⑮ 媒介の委託を受けた第三者による上記①ないし⑭に該当する勧誘(消費者契約法5条)
- 2 消費者取消権の行使期間
追認できるときから1年間または契約時から5年間(消費者契約法7条) - 3 消費者取消権の行使方法
理論上は口頭でも可能ですが,取消の意思表示をしたという事実を立証するために,書面で行うのがよいです。できれば内容証明・配達証明郵便がよいです。 - 4 消費者取消の効果
取消された契約は,初めから無効と見なされます。(民法121条)
事業者及び消費者に原状回復義務が発生します。
- ① 事業者の消費者に対する代金の返還
- ② 消費者の事業者に対する商品等の返還(消費してしまった場合,残っている分だけ返還すればよい。)
(改正債権法施行日以降は,給付を受けた当時その意思表示が取り消すことができるものであることを知らなかったときは,当該消費者契約によって現に利益を受けている限度において返還の義務を負います。(消費者契約法6条の2))
- 5 消費者取消権の例外
株式若しくは出資の引受,又は基金の拠出がなされた場合,消費者契約法による消費者取消権は原則行使できません。(会社法,消費者契約法7条2項)
以下のような場合には,消費者取消権が発生します。
- 四 他の法律との関係
- ① 消費者契約法に規定がないが民法・商法に規定がある場合は,民法・商法の規定を適用します。
- ② 消費者契約法と民法・商法の規定が競合する場合は,消費者契約法が優先して適用されます。
- ③ 消費者契約法と民法・商法以外の他の法律の規定が競合する場合は,他の法律の規定が消費者契約法よりも優先します。
第三 クーリングオフについて
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一 クーリングオフとは,売主の債務不履行や買主の錯誤無効という法律的な解除理由が全く無く,すなわち何の理由がなくとも,一旦成立した契約を一定期間内に解消することができる制度です。これは頭を冷やすという意味からクーリングオフと言われています。
事業者が,不意打ちで訪問してきたために契約してしまったり,複雑な取引であるのにそれを理解できないまま契約してしまった場合には,クーリングオフすることができます。
この場合は,申し込みの撤回や契約の解除をするという意思表示を記載した書面を法定期間内に発送すればよく,法定期間内に相手方に到達しなくてもクーリングオフの効力が発生し契約は無効となります。 二 また,クーリングオフ期間が過ぎても,消費者契約法により,消費者が重要事項について事実と違うことを告げられたり(不実告知),将来における不確実なことについて断定的なことを告げられたり(断定的判断の提供),業者が消費者に不利益なことを故意に告げなかったり(不告知),また,訪問販売に来た営業社員が自宅に居座ったり(不退去),または,消費者を営業所などに閉じ込める(監禁)のような不適切な方法により契約をさせた場合は,それが民法上の詐欺または強迫ないし錯誤に該当しない場合であっても,それらの行為から解放され追認できるようになったときから1年(最長でも契約から5年間)内であれば,消費者契約法により契約を取り消すことができ契約を無効にすることができます。
三 クーリングオフは書面でしなければなりません。
電話ではクーリングオフはできません。四 クーリングオフは,クーリングオフをすると書いた文書をクーリングオフ期間内に発送すればよいとなっています。
その期間内に事業者に到達する必要はありません。
ただし,できれば,内容証明・配達証明郵便でクーリングオフを行う旨の文書を出したほうがよいでしょう。
内容証明・配達証明郵便を利用すれば発送日,配達日,及び,文書の内容の証明が一番簡単だからです。五 クーリングオフ妨害があった場合
事業者が不実のことを告げ消費者がそれを事実と誤認した場合や事業者が消費者を威迫したため,消費者が困惑した場合を「クーリングオフ妨害」として,その誤認や困惑が解消された日から法定の期間内であれば,クーリングオフできます。- 六 クーリングオフ期間
(クーリングオフ期間の起算日は,民法の初日不算入の原則と違って,契約日を含みます。但し,海外先物取引は契約日の翌日から起算します。)
- 1 訪問販売 法定の契約書面を受領した日から8日間
(特定商取引法) - 2 電話勧誘取引 法定の契約書面を受領した日から8日間
(特定商取引法) -
3 割賦販売・クレジット取引 クーリングオフ制度告知の日から8日間
(割賦販売法) - 4 マルチ商法 契約書面交付の日から,契約書面の交付よりも商品の引渡が後になる場合は,最初の商品引渡の日から20日間
- 5 現物まがい商法 法定の契約書面を受領した日から14日間
- 6 海外先物取引海外先物契約締結の翌日から14日間(熟慮期間)(海外商品先物取引規制法8条)
- 7 宅地建物取引 クーリングオフ制度告知の日から8日間
(宅地建物取引業法37条の2) - 8 ゴルフ会員権取引 法定の契約書面を受領した日から8日間
(ゴルフ等会員権契約適正化法12条) - 9 投資顧問契約 法定の契約書面を受領した日から10日間
(金融商品取引法37条の6) - 10 保険契約 法定の契約書面を受領した日から8日間
(保険業法309条) - 11 預託等取引契約 法定書面を受領した日から14日間
(特定商品等の預託等取引契約に関する法律8条) - 12 業務提供誘引販売取引 契約書面交付の日から20日間
(特定商取引法58条) - 13 有価証券取引・デリバティブ取引
(金融商品取引法37条の6)
契約締結時交付書面受領してから10日間
- 1 訪問販売 法定の契約書面を受領した日から8日間
七 クーリングオフの起算点
クーリングオフに関する説明文も含めて,法定の記載事項を満たした契約書面を受領した日から起算されます。
契約書面の記載が不完全だったり,虚偽の記載がある場合は,書面交付義務が履行されていないため,そもそもクーリングオフの起算日がまだ発生していません。
そのため,不完全ないし虚偽の記載のある書面の交付を受けた場合には,その書面の交付を受けてから8日間が過ぎてもクーリングオフができます。- 八 クーリングオフの効果(特商法9条)
- 1 消費者は,事業者から損害賠償や違約金を請求されません。
- 2 商品の引渡や権利の移転があった後でクーリングオフがなされた場合,商品の引き取りや返還の費用は事業者の負担になります。
- 3 消費者がすでに施設を利用したり役務の提供を受けていても,その使用料金などの請求はされません。
- 4 事業者は,受領した金銭があれば,返還しなければなりません。
- 5 消費者は,原状回復請求ができます。
- 6 以上のクーリングオフの効果について,予め消費者に不利な特約を定めても,その特約は無効です。
-
九 クーリングオフの例外(特商法26条)
以下の取引についてはクーリングオフ制度の適用はありません。- 1 店舗販売
(但し,マルチ商法,特定継続的役務,投資顧問,預託契約などはクーリングオフ制度があります。) - 2 御用聞き・露天商
- 3 自動車の販売・リース
- 4 葬式・都市ガス・電気の供給
- 5 居酒屋・あんま・マッサージ・海上タクシー
- 6 カタログショッピング
- 7 ネットショッピング
- 8 テレビショッピング
- 9 ラジオショッピング
- 10 証券取引
- 11 携帯電話の通信取引
- 12 プロバイダ契約
- 13 不動産の仲介契約
- 14 旅行契約
- 25 消耗品の使用・消費の場合
- 1 店舗販売
指定消耗品(健康食品や生理用品,医薬品でない化粧品等)に,あらかじめその商品が指定消耗品に該当していること,開封したり使用するとクーリングオフができなくなることを書面で伝えた場合は,クーリングオフができません。
ただし,そのような書面による告知がない場合はクーリングオフができます。
また,セット商品の一部を使用・消費した場合でも,残部についてはクーリングオフができます。
参考文献
- 1.改正法対応 消費者契約法・特定商取引法・割賦販売法の法律知識
藤田裕監修 三修社 - 2.図解・イラストによる金融商品販売法・消費者契約法早わかり
松本恒雄監修 BSIエデュケーション - 3.図解でわかる改正割賦販売法の実務
小山綾子著 経済法令研究会 - 4.改正消費者契約法対応Q&A消費者取引トラブル解決の手引
名古屋消費者問題研究会 新日本法規出版株式会社発行 - 5.改正特定商取引法のすべて第2版
村千鶴子著 中央経済社 - 6.実務論点金融商品取引法
松尾直彦・松本圭介編著 金融財政事情研究会 - 7.金融商品取引被害救済の手引五訂版
日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編 民事法研究会 - 8.Q&A資金決済法・改正割賦販売法
渡邊雅之/井上真一郎著 金融財政事情研究会 - 9.よくわかるクーリングオフの仕方
村千鶴子著 日本法令 - 10.第4版特定商取引ハンドブック
斎藤雅弘・池本誠司・石戸谷豊著 日本評論社 - 11.詳説改正割賦販売法
中崎隆著 金融財政事情研究会 - 12.Q&A市民のための特定商取引法
村千鶴子著 中央経済社 - 13.改正割賦販売法の要点解説Q&A
右崎大輔著 中央経済社 - 14.詳解特定商取引法の理論と実務(補訂版)
圓山茂夫著 民事法研究会 - 15.改正特商法・割販法の解説
日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編 民事法研究会 - 16.改正法完全網羅 特定商取引法・割賦販売法
日本司法書士会連合会