弁護士法人のメリット,デメリット

平成20(2008)年3月10日改訂
令和3(2021)年1月20日改訂

 

  弁護士法の改正により,平成14年4月1日から弁護士法人が設立できるようになりました。

 それまでは,一人事務所であれ,複数の弁護士のいる事務所であれ,法律事務所はすべて個人の弁護士の運営でした。

 それが,弁護士法人として法律事務所を運営できることになりました。

 私は,平成14年4月2日に弁護士法人を設立しました。

 弁護士法人の名称は,「弁護士法人武田法律事務所」です。

 山形県弁護士会では,初めての弁護士法人でした。

 東北6県だけでなく全国的にも相当に早い時期の設立でした。

 現在は当事務所もいれて山形県弁護士会では4つの弁護士法人が設立されています。

第一 弁護士法人のメリットは以下の通りです。

1  法律事務所の継続性

 弁護士は,人間である以上,若い弁護士でもいずれ年をとり,仕事が出来なくなります。

 弁護士個人としては,それでやむを得ないのですが,弁護士と顧問契約をしている企業や,弁護士に依頼して事件が継続している依頼者,そして,弁護士に雇用されている事務員は,その弁護士が,健康を害したり,年をとったりして弁護士業務ができなくなったり,死亡したりすると,顧問弁護士として別の弁護士を探したり,別の弁護士を探して事件を依頼したり,新たな就職先を探さなければならなくなります。

 また,その弁護士が法律事務所の建物を借りている場合には,建物賃貸借契約を終了させて法律事務所を撤収して建物を明け渡さなければなりません。

 コピー機械やパソコンをリースしている場合は,リース契約を終了させてリース物件を返還しなければならなくなります。

 そのような不都合を避けるために,複数の弁護士が共同で法律事務所を運営しているところもあります。

 しかし,法律的に言えば,顧問契約や事件の委任契約そして,事務員との雇用契約,それから事務所の建物の賃貸借契約や備品のリース契約等は,あくまで,個人の弁護士との契約になり,その弁護士が弁護士業務が出来なくなった場合は,その都度別の弁護士と顧問契約や委任契約や雇用契約や賃貸借契約などを締結し直さなければなりません。

 複数の弁護士と顧問契約や委任契約や雇用契約等をしていれば,その内の弁護士の誰かが仕事が出来なくなっても,残った弁護士が継続して業務を行えますが,残った弁護士もいずれ仕事が出来なくなるときが来るので,そのとき別の弁護士と契約をやり直す必要があります。

 弁護士の場合,弁護士になるための司法試験の合格率が相当低いので,弁護士の子供が司法試験に合格して親の法律事務所を引継ぐことが(顧問契約や委任契約そして雇用契約等を引継ぐことが)なかなか難しいのです。

 そこで,弁護士法人を設立して,企業との顧問契約や依頼者との委任契約そして,事務員との雇用契約や家主との賃貸借契約等を弁護士法人の名前で行えば,その弁護士法人が存続する限り,弁護士法人を構成する弁護士に移動があったとしても,契約を締結し直すことは不要となり,法律関係の継続性と安定性が保たれます。

 すなわち,顧問企業も依頼者も事務所の事務員も,事務所の建物の家主なども,それぞれの法律関係が継続的に安定します。

 特に,法律事務所の事務員の雇用が安定することが非常に重要だと思います。

 事務員がその法律事務所で安心して働けるからです。

 これは,会社の代表取締役や取締役が替ったとしても,その会社との取引や雇用等の法律関係が変わらないことと同じなのです。

 弁護士法人の社員(弁護士に限ります。)は,一人でも大丈夫です。

(最近の法律改正により,司法書士や土地家屋調査士の法人の場合も,社員が一人でも大丈夫になりました。)

 もし,社員(弁護士)が一人の弁護士法人で,その社員(弁護士)が死亡した場合は,その社員(弁護士)の相続人の同意を得て,新たに社員(弁護士に限ります。)を加入させて弁護士法人を存続させることができるようになっています。

2  主たる事務所の外に従たる事務所開設が可能

 弁護士は,一つの法律事務所しか開設できません。

 弁護士は,二つ以上の法律事務所をつくれないのです。

 これは,会社が,本店だけしかつくれず,支店や営業所を別の場所に置けないということと同じです。

 しかし,弁護士法人は,その弁護士法人の主たる法律事務所の外に,従たる法律事務所を開設できます。

 弁護士法人が,従たる法律事務所を弁護士過疎地域などに設置すれば,弁護士の国民に対する法的サービスの提供をより実現できることになります。

3  賠償能力の強化

 社員たる弁護士が複数いることは,無限責任を負う社員たる弁護士が複数いることになり,弁護士法人の行う業務に関して賠償能力が強化され,依頼者保護が厚くなります。

 ただ,この点は弁護士賠償責任保険で賠償することとして危険の分散を図るのが一般的であり,弁護士法人も同様です。

4  共同化,専門化,総合化

 複数の弁護士が社員となって法人をつくることが考えられるので,共同化,専門化,総合化が図られると言われています。

 ただ,弁護士法人化がそれらの促進要因にはなるとは思われますが,大都市部に巨大法律事務所が次々と出来ているが,それらの巨大法律事務所はあまり弁護士法人を設立していないようであり,共同化,専門化,総合化は,必ずしも法人化することが不可欠ではないようです。

5 ワンストップサービス

 弁護士と隣接法律専門職種等とによる総合的法律経済関係事務所(ワンストップ・サービス)を推進することに弁護士法人が有益との指摘もあります。

 しかし,総合的法律経済関係事務所(ワンストップ・サービス)の場合,弁護士法人と他の法律専門職種との会計的統合や共同の形式等の問題があるようです。

6 基盤強化

 複数の弁護士が参加することにより,業務運営基盤が拡大・強化され,構成員の弁護士が様々な活動をする基盤が整うメリットがあります。

 弁護士が様々な公益活動や社会的に意義のある訴訟事件などを手弁当で遂行する場合や政治活動等をやる上で経済的基盤も含めて重要なメリットだと思います。

 ただ,これも法人化しなければ出来ないというわけではありません。

7 事業主の福利

 私が,個人で法律事務所を運営していたときは,勤務弁護士も事務所の事務員も全員が,厚生年金と厚生健康保険に加入していましたが,私だけは事業主なので,厚生年金や厚生健康保険に加入できずに,国民年金と国民健康保険に加入していました。

 それが,弁護士法人を設立したことにより,私も弁護士法人から給料をもらう立場になったことから,厚生年金と厚生健康保険に加入できました。

 これは,私にとって大きなメリットでした。

8 経営の合理化

 個人と法人の経理が峻別されることにより,法律事務所の合理的な経営がより可能になります。

 この点もメリットは大きいと思います。

 弁護士が個人で法律事務所を経営している場合は,弁護士報酬等の売上金から,貼用印紙や郵券等の売上原価と,事務員の給料や旅費,光熱費,弁護士会費等の販売費及び一般管理費を控除し,その他の経費を控除した残額すべてが,弁護士の所得となります。

 ところが,弁護士法人の場合は,その社員たる弁護士も,弁護士法人から役員報酬として給料を支給されるので,売上原価,販売費及び一般管理費等の費用を控除した経常利益や法人税等の税金を控除した税引後当期純利益の数字により,弁護士法人の損益計算が明確化されます。

9 節税のメリットはあまりない。

 弁護士が個人で法律事務所を経営している場合は,上記のように,弁護士報酬等の売上金から,貼用印紙や郵券等の売上原価と,事務員の給料や旅費,光熱費,弁護士会費等の販売費及び一般管理費を控除し,その他の経費を控除した残り全額が,弁護士の所得となります。

 それに,所得税がかかります。

 それに対して,弁護士法人の場合は,弁護士法人から支給される社員たる弁護士に対する役員報酬には所得税が課税され(源泉徴収される。),弁護士法人の当期純利益に対しては,法人税が課税されます。

 そして,現在は,所得税も法人税もその税率があまり違わないので,弁護士法人を設立しても節税効果はあまり期待できません。

 法人の場合は,当期の損失を翌期に繰り越せます(7年間繰越可能)。 しかし,弁護士が個人経営で白色申告の場合は損失の翌期への繰り越しは出来ませんし,個人経営でも青色申告の場合は損失を3年間だけしか繰り越しできません。

 ただ,弁護士法人が損失を計上することは,あまり考えられないので,そのようなケースでのメリットもないようです。

第二 デメリット

1 弁護士会費の増加

 弁護士は弁護士会に必ず加入しなければならず(強制加入),加入すれば弁護士会費を負担する義務があります。

 それは,個人の弁護士として必ず負担します。

 ところが,弁護士法人を設立した場合も,弁護士法人が必ず弁護士会に登録して加入する必要があり,弁護士個人としての弁護士会費の負担の外に,弁護士法人として別に弁護士会費を負担する義務が発生し,いわば二重の弁護士会費の負担となります。

 この弁護士会費の二重負担は結構大きい負担です。

2 その他のデメリットはあまりないようです。

 

 なお,この文章を作成するにあたり,高中正彦氏著の「弁護士法概説(第3版)」(三省堂)を参考にさせて頂きました。有り難うございました。

前のページへ戻る