「月姫の物語はその奥に秘められた寓意があると言われています。これこそがこの遺跡にかかった魔法を解く鍵なのです・・・・」
「どんな魔法がかけられているのですか?」
「荒涼たる水晶の大地はこの水晶森のまさにこの場所から世界に広がったのです。赤茶けたさびと冷たく張り詰めた水晶の世界・・・無機質に凍った時間の始まり・・・」
「それがかけられた魔法?・・・」
「かけられた魔法というより魔法をかけた結果、今の世界になったということでしょう・・・おそらくなにか別の目的で魔法をかけたのですよ・・・」
「・・・・ではこの魔法が解ければ、魔法をかけたわけもわかるのですね。」
「そうです」
「でもいったい誰がこんなことをしたのでしょう?」
「大昔の偉大な魔法使いアンリ・ポワンカ・レ・・・我々のようにキャトラン・ドーレ
であって唯一魔法の力を使いこなせた者」

ポウ・ポーは複雑な想いにかられて言葉もでませんでした。しばらくの沈黙の後、宣教師が思い出したかのようにポウ・ポーに言いました。

長い夢物語に付き合ってもらいましたね。ポウ・ポーあなたは蛍水晶を採りに来て迷ってしまったと言いましたね。それならばこの遺跡の中に広がる「ティファレットの庭」には沢山ありますよ。」
「ほんとうですか!・・・でもこの広さ・・・さがせるかな?」
ポウ・ポーは部屋にあるスリッドの窓の漆黒の広がりを見ながら言いました。
「大丈夫、今日は新月なので水晶探しにはちょうど良いでしょう。中庭を歩けば輝いていますよ!それでは・・・」
宣教師は歩き出しましたが振り向くと「今日ここで会った思い出に・・・」と言いながら昆虫の薄翅よりも繊細な金属で折り上げられた一角獣を手渡しました。
「月姫のお話しのように、水晶へと導いてくれますよ!」そう言い残して闇の中に戻っていきました。

 不思議な出会いでした。秘密めいた多くの言葉がばらばらのジグソーパズルのようにポウ・ポーの心の中で反響していました。なにかが起こりそうな予感がポウ・ポーの心をせきたてました。とにかく蛍水晶のある中庭に出てみよう。ポウ・ポーは一角獣を握り締めてその部屋を出ました。

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