頭上にさびた球体の浮かぶ広い空間にポウ・ポーはいました。三角柱の環状列石の落す幾く筋もの長い影は円形のホールにあふれ、暮れてしまった陽の残光がさらに微妙な濃淡を複雑に作り上げていました。
最初から誰かの存在を期待していたわけではありませんでしたが、自分が暗がりに轟々とすいこまれていくような感覚も予期していませんでした。

 誰もいない?・・・ポウ・ポーは急に心細くなってきました。不安の想像が幻視を見せます。自分の影の伸びる先にある三角柱の列石の、その間のやけに暗い隙間に誰かがいて、そしてその無機的な存在はこちらをじっと覗き見しているような?・・・でももしそんなものが本当にいたらきっとその目だけはこの暗がりにあってもくっきりと見えるに違いない。不安は静寂さえも音にかえて聞き逃すまいと耳を緊張させるのでした・・・時間はポウ・ポーの影をすでに忍び寄る闇の中へと同化しつつありました。ポウ・ポーはもう周りを見まわす勇気はありません。ただただそのくらがりに薄れ行く自分の影を見つめることで精一杯でした・・・。
「やっぱりこなけりゃよかたかなあ」
ポツリと言葉にならないささやきが口をついたときでした。
 自分の影の行きつく先そこに立つ列柱の影が、今度は自分に向かって伸びて来るのに気がつきました。明かりが近づいてくるのです。伸びてきた柱の影は今度はポウ・ポーの姿を闇に連れ去り、残された両の目だけが覗き見する透明人間のように宙に浮かんで凝視するのでした。「あっ」誰か来る!・・・

 ついに明かりは、ポウ・ポーを飲みこんだ暗闇を消し、新たに近づく人影を浮き上がらせました。その影は言いました。
「あなたは?どうしてここに?」
「僕はポウ・ポー・・・」ポウ・ポーは水晶狩りにきて迷い込んでしまったいきさつを話しました。
影は、安心したのか手にしたランタンを床に置きました。
ランタンの灯は影から抜け出た背の高いりっぱな衣を着たキャトラン(妖精人)を映し出しました。
「そうでしたか・・・失礼しました。私はセント・ルフォン、宣教師です。」
「宣教師さま?ではここは教会ですか?」
「いいえ・・・ここは古い遺跡です。」
「それじゃここでなにをなさってるんですか?」
「明かりを探しています・・・」
「あかり?・・・」
「今夜は、真っ暗な夜、新月です。だから月の明かりはありません。私は明日昇る月明かりの種を探しているのです。」
「月明かりのたね?」
思いもよらぬ返答に当惑ぎみのポウ・ポーへさらに宣教師は続けました。
「暗い夜を照らし出す方法ですよ」
「魔法の話なのです。・・・実はこの遺跡には魔法がかけられているのです。その魔法を解く手がかりをわたしはもう長い間探し続けているのです・・・」
「魔法?この遺跡に?・・・」
「そうです。その魔法を解くための手がかりが月明かりの種・・・」
「その月明かりの種は・・・見つかったのですか?」
「さあどうでしょうか・・・」
謎めいた会話はつづきます。
「・・・ではその魔法とはどんなものなのですか?」
宣教師は目を細めポウ・ポーを見ながら微笑みました。そして暗い天空に目を移すとまたゆっくりと話し始めたのです。
「一つ御伽噺を聞かせてあげましょう。今宵のように明かりを落した月を再び輝かせようとする月姫のお話し・・・そしてその想いを9人の妖精達が魔法の力で伝え叶えていくというお話し・・・
「わたしの後について来てください」そういうと宣教師は歩き出しました。

・・・宣教師・・・

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