・・・てがかり・・・

「この部屋には手がかりが沢山あるのです。まず9枚の妖精の絵、そして絵の描かれていない大きな額
さらに意味ありげな床の模様・・・これらはすべて魔法を解く手がかりなのですが、同時に魔法の正体を封印している大きな謎なのです。
これらの妖精の絵の寓意を一つ一つ見つけ出して全ての謎がとければ魔法は消える・・・
謎が全て解き明かされたときこそ魔法の呪縛から開放され、この遺跡を中心に大陸全土に広がった水晶のつめたい世界がもとに戻ると言い伝えられているのです。」

「わたしは長い間この世界の不思議を見つめてきました。
魔法使いはどうして木々を冷たい水晶に変えてしまったのか?。
今は多くの緑が水晶に変わってしまった。これは記録によると300年も前から始まっているのです。そして今も続いている変化。このままでは私達の住めない世界になってしまいます。
その間なんとかこれを食い止めようと多くのオックルト(神秘魔法)学者が調査をしました。・・・でも何もかわらないままです。
今では多くの文明も錆と化しました。そして何よりも恐ろしいことに水晶の冷たい光は、人々の心の中までも凍み入り空虚な思いを氷のように張り詰めていったのです。この変化を受け入れてきた人々は多くの感情を失ってしまいました。
・・・わたしは宣教師です。人々のこころを導くのがその使命。ところがその私でさえ、自らが信じてきた教えが目の前で凍り付き身動きが取れなくなる姿をほとんどさめた思いで眺めたこともあったのです。
辛く空しい・・・すでに水晶は私のこころの中にまで結晶し始めていたのですね。
それほどに強力な魔法なのです。」
何事にも感動が無くなっていき私の心のありかに最後に残ったわずかな思いが魔法のなぞを解き明かすことだったのです。

「そんな・・・それではその魔法使いはどうなったのです。」

アンリ・ポワンカ・レ・・・わかりませんもうその存在も確かな記録もあかさびの中に埋もれて,今となっては何も見出すことは出来ないのです。言い伝えによれば彼は自然を愛する心やさしい魔法使いだったと言う事です。多くの自然学と完璧なまでの魔法の術をおさめた偉大な神秘の探求者だったと言います。その彼が人々の前からすがたを消した時忽然と水晶の世界が広がってきました。それはかれの魔法の力、すべて彼の仕業だと伝えられています。しかし私には信じられませんでした。彼をしてこれほどまでに世界を変えてしまった目的はなんだったのでしょうか。かれが消えてから沢山の人々が彼を探し、また魔法についても研究がなされました。しかし真実は何もわからなかったのです。本当にこの遺跡の中に眠っている謎だけが唯一の手がかりとなってしまいました。」
それじゃこの遺跡は?」
「ここはかれの宮殿であり神秘を熟視する為の瞑想空間でもありました・・・
妖精はどうして僕なんかを選んだのだろう?オックルトの学者にも解けない謎が僕なんかの手に負えるわけないのに・・・?ポウポーのこころにも魔法が不安という形で忍び込んできました。

私も力をお貸しします。ですから・・・・選ばれたあなたならばきっと道が見つけられるでしょう!
ポウポーはじっと目を閉じて考え込んでいましたが意を決したかのように口を開きました。

「あの・・・実は僕、水晶に閉じ込められたキャトラン(猫人)を見たのです。多分魔法によって閉じ込められたんじゃないかと思います。
「それは琴座のベガのことですね。
ベガ?・・・
そうです。このティファレットの庭はお気づきのとおり、全体が星図になっているのです。半球全ての星座が描かれている
そしてその水晶に閉じ込められたキャトラン・ドーレはちょうど琴座のベガと言う一等星に位置しているのです。

琴座のベガ!?そう言えばあのキャトランはハープを手にしたまま水晶に閉じ込められていました。

琴座にハープ・・・あのキャトランはなんの音楽を奏でいたんだろう?
そう思いがおよんだ時宣教師は一枚の絵を指差しました。そうそれは2番目の絵。

「花の精に届けられたその楽器は生命の音楽を奏でていたのです。」
「それではあのキャトランもこのメロディーを弾いていたんですね。」
「でも今は水晶の中。音楽は閉じ込められています。」

「月姫のはなしの中ではこの音楽が大地に広がることによって樹々は芽吹いたとありましたね
それじゃあのキャトランが水晶から出られればこの世界に広がる静寂に命をあたえられるんじゃないでしょうか!」
「なるほど、そうかもしれませんね。」
宣教師はポウポーの言葉に続けて言いました。
「絵の中の妖精は生命の音楽を奏でています。
その音楽は手にした植物の楽器から妖精を取り巻くように流れ漂います。
やがてそれは一本の布となり彼女を包み込むのです。
妖精はからだに音楽と布の二重螺旋をまとうことになります。
二重螺旋・・・この言葉は重要です。この妖精画の題名にもなってます」
「そうか二重螺旋・・・生命・・・これがキーワードですね。」
「おそらく・・・二重螺旋から私が思い起こせる教義があります。」
宣教師が続けます。
「その昔オックルト・カバリア哲学で言う所の生命を象徴するものはセフィロートの木と呼ばれていました。
そしてそれは二重螺旋状に絡まりあったへびで表わされていたのです!」
ポウポーが思い当たります。
「一角獣が2番目に連れていった場所は『へび使い座』でした。」
「そうだ!そのへび使い座には重要な神話がありますよ!
それは死人を行きかえらせる医術者の物語なのですが
善意とはいえあまりにもおおくの死人を生きかえらせてしまったので最後には冥界の神の怒りによって天に召されへび使い座になったというのです。」
「すると『へび使い座』には生命をつかさどる神話があるわけですね。そしてこの絵は二重螺旋いわゆる生命を象徴している。
まさにこの絵は『へび使い座』のことを言っているのですね。」

「へび使い座・二重螺旋・生命・・・ではこの符合の意味する処は?」
「『セフィロートの木』・・・「生命の木」ですよ!」
「なるほど!古代カバリアで言う所の『セフィロートの木』なるものが実在するのであればあのキャトラン・ドーレを助け出せるかもしれません。」

次回へつづく

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