短編感想(その他)[3]


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ラストマウンド/松本剛+春場州太夢(モーニング1999年31号)

 リアリティという点でちょっと気になった点が。199勝ちょうどで引退というのはお話として作った感じが出てしまってどうだったか。198か7で止めておいたほうがそれらしかったと思う。おんなじ意味で、3年間未勝利よりは3年間で2勝とかのほうがありそうではある。まあ、199勝で0勝というのがわかりやすいのは確かだから、別によいのだけど。こんな細かいことにこだわるほうがどうかしてるし。
 じゃあリアリティという点で198勝したピッチャーが3年間未勝利でクビになってテスト入団して投げ続けてというのがどうかとなると、これはあるのである。程度の差はあれ知名度の差はあれ、こういう話はいくらでもある。プロ野球に限らずある。どうしてそこまでしてやるかなんて、そんなことおれにはわからん。その人にはその人の理由があるのだ。
 ラストも含めて、もう少し言葉を減らしたほうがいいと思うけど。でもこういう野球まんがは好きです。

 でもって松本剛。今回は246ページ上3コマの描写、これにつきた。そう、こんな顔をして次の一球を待つときが、野球を見ているとあるのである。‥まんがの感想じゃなくて野球の感想だな、これ。(1999.7.1)

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STRAY DOG/荒川弘(少年ガンガン1999年8月号)

 骨太でうまい。情にも正義にも頼らずに物語として成立している。でもっておもしろい。デビュー作としては文句なしの部類。
 こんな感想を読む前に、まず読むべし。立ち読みでもいいから、ってガンガンを立ち読みするのは大変だけど。読んだ人、読んでないけど感想を読もうという人(いや、でも、ネタばれなんでほんとに読んでからにしたほうがいいです)は続きをどうぞ。

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ぼくらのポストマン/神田晶(少年ガンガン1999年8月号)

 強くて郵政省と職務(のみ)に忠実な郵便配達のおっさんが主人公。黒っぽい絵柄は完全にシリアスで(大武ユキを達者にしたような感じ)、内容とのギャップがえらくおもしろい。最強サラリーマン的物語設定はわりとよくあるけど、シリアスに迷わず最後までギャグに徹したところが吉。(1999.7.17)

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私の愛したコロッケじじい/朔ユキ蔵(快楽天1999年9月号)

 ホームレスのおっさんと出会ってしまった少女。埒外の存在に、その醜悪さゆえに興味を持つ。興味がやがてほんの少し、情に変わる。昔話だと醜い男は呪いが解けて王子様になったりするがそんなことはなく、少女を助けようとした男はただ殴られ蹴られる。ぼろきれと化した男を少女はただ抱き上げる。無償の愛は尊い、などという薄っぺらな話ではない。そも愛に無償もへったくれもねえのだ。(1999.8.2)

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99夏あたし15歳/村上かつら(スピリッツ増刊Manpuku!1999年9月号)

 まんがというのはフィクションだから、描かれていることは絵空事であるし、登場人物はすべて架空の人物である。展開されるのは、それを読んでいるワタシとは基本的にカンケーのない物語である。
 であるのに、読んでいるワタシと登場するアナタの気持ちがほんとうにシンクロナイズしてしまうことがある。性別も年齢も立場もぜんぜん違うのに、ワタシはただまんがを読んでいただけのはずなのに、なんでこんな気持ちにならにゃならんのだと思うくらい。
 それはそこに描かれていることがどれだけホントウに近いか、ということにかかっている。登場するアナタのことが、起こるできごとがどれだけ身近に感じられるか。そしてそれはまるで友達の打ち明け話のように、ワタシのこころを揺り動かす。
 幼なじみに彼女ができて、そいつは屈託なくいままでどおり話しかけて、でもわたしはほんとうはそいつが好きで、心が痛い。何回も何回もまんがにされてきたそれだけの話なのだけど、それは当事者たちにとっては決してそれだけの話ではないのだよということを、このまんがは読むワタシに教えてくれる。参りました。(1999.9.5)

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流れ星の夜/宇河弘樹(ヤングキングアワーズ1999年10月号)

 昭和初期者からダークSFまでいろいろ試してる作者の、魔法使いが空から落ちてきて‥というこれは所謂ハートフルファンタジーというやつ。けっこうギャグで押してきて、それならときどきはさまれたセンチコマはないほうがいいのにとは思うけど、ストンと落としたラストは鮮やか。
 この手の明るい短編が、個人的には一番好きではあるけれど。でもいろいろ試すのは意欲的でいいと思うしいろいろ読めて楽しいのでどんどんやってほしい。んでもってできれば単行本にまとまるとうれしいなあ。(1999.9.5)

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未確認の愛情/犬上すくね(ヤングキングアワーズ1999年10月号)

 夜間学校=定時制の先生とつきあってる大学生。2人でファミレスにいるところにあいさつしてきた女の子が、ふたりになった帰り道にからんでくる。曰く、自分はあの先生の生徒で美容師で先生が好きで、腕もあって今度独立して店持って先生が仕事やめたって養っていける、あんたみたいにぽーっとしてるだけの男よりずっと先生のこと思ってるのに、気持ちを打ち明けることもできない、うんぬんうんぬん。
 後日、先生と食事のあとでたばこを吸おうとして、男はベランダに出て吸うことにする。ヘビースモーカーのくせに先生の前では一本も吸わない女の子のことを思い出して、「ただのへなちょこな存在」に過ぎないおのれに思いをいたして、そして‥
 この「‥」の部分がミソのまんが。「おれはなんてだめなんだろう」でも、「おれはなんて幸せなんだろう」でも断じてない、もやもやごちゃごちゃして言葉にならない想い。だれにでも身に覚えのあるそういう思いを、言葉で定義するような野暮はせずに、きれいに絵にして見せる。上手い。(1999.9.5)

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サダオの毎日/相沢トモコ(別冊ヤングマガジン創刊号)

 まじめでばかちんな新聞配達少年が、配達中の新聞をひょいと取っていった女を追いかけて、逃げるのを追いかけて、えんえんと逃げて追いかけて‥というただそれだけの話。相沢トモコはこういう勢いがついてどんどん本線から外れていっていってしまう人達を描かせるととっても上手い。キャラが生き生きとバカで、読んでて楽しい。
 いまのところ、長編より勢いにまかせて描ききれる短編向きの作風だという気もする。どんどん描いてほしい。また長編も読みたいけど。(1999.9.5)

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西瓜festival/木村ひかげ(少年エース1999年12月号)

 引っ越しにまつわる子供の思い出という定番ねたに、一緒に遊んだ不思議な子供という味つけをして、なおかつけれん味なく描いた率直さに好感。でもそれよりなにより、絵です絵。好みすぎて上手いんだか上手くないんだかよくわからんくらい(たぶん達者だと思う)。
 今回は12ページでやや絵本風にまとめてあるけど、本気でまんが描いたのを見てみたい。ぜひ。ほんとに。(1999.11.02)

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手長足長/みなぎ得一(コミックガム2000年1月号)

 日本神話のぱちもんで、顔だけはアニメ顔で、絵も描きこみもやたらに過剰で、アクションは派手で。手長女と足長男の夫婦怪物と、彼らをかつて封じた神様の再戦という今回の読切も、あいかわらずこればっかり描いてる作者の、この作者にしか描けない世界。
 今回ページ数が足りなかったのかオチがあっさりしすぎている気もするけれど。いろんな意味で閉じたまんがだから、その気になって入っていかないと読み飛ばしてしまうのだけど。いっぺん読んでみても損はねえと思います。才能であるのは間違いないし。(1999.11.28)

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回游魚/高木律(コミックビーム2000年2月号)

 ストーリーは天才少女のかなしい物語なのだけど、ストーリーに意味がないわけではないけれど、その意味はむしろ全体の雰囲気の構成要素としての意味が強い。定かならぬ時代背景、空飛ぶ路面電車、前時代的なコンピュータ、白黒の効いた独特の絵。不思議なまんが。むしろ同人誌で見かけそうな。こういうの載っけるからビームはごく一部の人にしか読まれず、そしてごく一部の人に強く支持されるのだ。
 こういうまんがを描く作者がほかにどういうのを描くのか、とても興味がある。次回作読みたい。(2000.1.15)

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デリバリー/斉藤猛(別冊ヤングマガジン2000年No.6)

 盛り場の電話ボックスなんかにベタベタ貼ってあるシール。電話かけると女の子がやってくるわけだけど、やってくるには足がいるわけで。ほんとにこんなふうにワーゲンバスなんかで配達してるかは知らないけど、このまんがではそうしていて、主人公はその運転手にして無口な男。
 しゃべくる女の子たちを載せて運転し、携帯で業務連絡を受け、彼女たちを送り出しまた迎えて載せ、家に送り届ける。無駄口はたたかず。家に帰って彼女たちの他愛もないおしゃべりで聞いたことを実践しようとして首を傷め、翌日は首にコルセットを巻いて運転する。いつもどおりの顔でいつもどおりに。
 こういう視点を見つけ出すのは才能。直接的な心理描写も独白もいっさいなしに、彼女たちの仕事ぶりと待つ男の顔をクロスさせて男の内心を描き出すのも才能。ユニークなまんがだしまんが家だと思う。(2000.1.22)

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私は貝に/目黒三吉(少年エース2000年3月号)

 「いつからかどうしてなのかわからないけど/山本さんはいつも貝を持っている/ワイングラスになみなみと海水を注いだその中に」
 変なまんが家(失礼)による変な人の変な話。いささかいってしまっている少女とそれに振り回される狂言回しの友人。おかしな少女のおかしさの裏にあるかなしさをほの見せてただの変な話では終わってないけど、クライマックスにもう2ページくらい、というより全体に倍くらいページが欲しかった感じ。もっといいまんがになれたのに惜しいなあ、という印象です。傑作未遂。(2000.1.27)

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温かな日/夏蜜柑(快楽天2000年3月号)

 近親相姦ものにしてなおかつ純愛もの。タイトルはたぶん、誤字ではないんだと思う。
 世の中に女なんてたくさんいるよというのが真実であれば、世の中にはそのひとしかいないんだというのも真実なのだ。それは期間限定の真実だと人はそしるかもしれないけど、その人のそのときは限られた時間なのだから、それはやっぱりその人にとっては真実なのだ。‥そういう話。状況は特殊でも、描かれている心情は特殊なものではないから。(2000.1.30)

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なんでやねん/三谷裕希(ヤングマガジン2000年9号)

 ブレーキの壊れたダンプカーというか。ダンプカーという感じではないか。むしろ選挙カー。なんでやねん。
 ばかな前振りはおいといて、いっしょうけんめい話をコントロールしようとしてやっとこうなったのか、はなから埒外逸走を狙ったのかはわからないけど、かなり破調のギャグまんが。壊れてるのではなくはずれてる感じの。シリアスな描き込み絵を交える手法はそんなに珍しいものではないけど、コマから絵からおはなしからあっちこっちへ逸脱してて、なんつうか、思い切りがよくて気持ちいいっす。
 余計な心配だけど、次、どうすんだろう。ぜんっぜん違ったまんがだったりすると意表をついてておもしろいのかなあ。この線をつきつめていくとすごいことになるかもしれないけど、それは茨の道でもあるような‥見てみたくもあるのだけど。(2000.2.6)

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TAFFY/西村竜(ヤングキングアワーズ2000年4月号)

 恋する乙女を体現せんとばかり、友人の視線も気にせず言葉にも耳を貸さず、目を輝かせて猪突猛進、あげくに玉砕するおぽんち娘。彼女を冷たく見守る友人二人。舞台は一貫して喫茶店、作者お手のものの日常まんが。
 三人それぞれの個性がうまく描きわけられてるのだけど、なにがミソかって描かれてるのがばか娘ではなくっておぽんち娘なこと。あるいは笑われる女の子であって笑い物にされる女の子じゃないこと。しょうがない友達に対するしょうがないなあという感情が、きれいにすくい取られているのです。上手いなあ。
 商業誌も二作めで描き慣れてきたみたいだし、これからどんどん描いて載せてほしい。楽しみ楽しみ。(2000.3.3)

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楽園に行こう/志村貴子(まんがタイムファミリー2000年4月号増刊・まんがタイムナチュラル)

 ものが見えるということと、かしこく行動できるということは別のことで。主人公は女性で大学生で教育実習性で。部屋にいりびたる男のおさななじみがいて、こいつ振られるとうちに来やがるなというのはわかるけど。こいつがわたしのことどう思ってるかも、わたしはどうなのかもわからない。教育実習で生徒たちに抱いていた幻想が砕けて、えこひいきして女子生徒に脅されてもうこりごりで、生徒のみにくさも自分のみにくさも見えて先生になるのはやめて。さてどうしようか、とりあえず南の島かな。
 わからないさまをそのまんま描くから、この作者のまんがは実に感想の書きにくいまんがなのだけど。そのまんま描いてるものは、そのまんま読むのがたぶんいいのだ。醒めてるのと感情のないのとは違うし、引いて見られるのと強いのとは一緒じゃないし。そんなこと考えながら。(2000.3.12)

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復活/笠原倫+中村ジン(ヤングアニマル2000年No.6〜No.7)

 スポーツ実録ものっておもしろくなりえないのかな、といままで思ってたけど。そんなことはなかったのだと悟った次第。
 必要なことはいくつかあって。例えば登場人物を美化しないこと。実在の人物と物語をねじふせるだけの腕力が、作画者にあること。物語そのものにひきつけるものがあること。そして読み手がその物語に興味を持ちえること。
 盛田そのものはそんなに思い入れのある選手ではなかったのだけど、この前後編にはほんとに引き込まれた。傑作だと思います。(2000.3.26)

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ドカントラベラー/熊谷カズヒロ(少年エース2000年5月号)

 まんがが読めなくなって、男女席を同じくできなくなって、子供はこどもらしくないといけなくなって。そういうパラレルワールドで暮らす少年の前にいきなり落ちてきた少女。別の世界から飛ばされてきて戻れなくなって、でも亜空間に飛ぶことはできて。少年は少女に、とりあえず自分の家にかくれないかとさそって。
 なるほどなあ、この作者が少年まんが描くとこうなるんだなあ。メリハリのある絵と童顔な顔がすっごくはまってる。おはなし自体はプロローグっぽくあるので、これを発端とした連載があるかもと思うと楽しみ。期待します。(2000.3.26)

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俺は逃げる/朔ユキ蔵(快楽天2000年5月号)

 好きにならなければ失恋することもない。心を乱されることもない。だから少年は好きにならないようにする。好きといわれたことを信じないようにしようとする。でも少女はそういう少年の心を乱しとらえることが目的だったのだから。だから‥
 最後のページ、少女の表情に勝利者の笑みを読み取ったのは読みすぎかもしれないけど。(2000.4.2)

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PHANTOM PAIN/道満晴明(快楽天2000年5月号)

 男が空腹のあまり忍び込んだ女の家。偶然から一緒にくらすことになったふたり。裸を売る生業の女は、それから幸運が舞い込んだように仕事が回りはじめて、だけど男の体は戦場で、おそらくガスに冒されていて。
 ファンタジーでありラブストーリーであり。ラブストーリーのバックボーンとしてのエロとして、エロに必然性が与えられていて。だからこれはエロまんがであるし、同時に全くもってエロまんがではないのだ。ふたりのHシーンがあるわけではないから。それには理由があって、それでもよくって、だけどやっぱりということが、ぜんぶ描かれているから。
 ラストはたぶん、ハッピーエンドといっていいと思う。男は幸せだったろうし、女はそう感じてもらおうとしたんだし。おとなの童話。(2000.4.2)

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さくらなは〜と/大石まさる(ヤングキングアワーズ2000年5月号増刊・アワーズ2001)

 中学生のじたばたする気持ちがじたばたと描かれてます。騒々しい景色は騒々しく、静かな景色は静かに。雪の積もった翌朝、高台から見る白い町。それを見に、そして来ているはずの少年に会いにいく少女。純愛ものです。
 お約束どおりといえばそうだけど、そういうものを描こうとしてるんだからそれでいいと思う。こういうきれいにまとめた短編を読むと、短編上手の人にはやっぱりたくさん短編描いてほしいと思う。いろいろ難しいのは承知のうえで。(2000.4.10)

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銀符(エイジス)とその守護者/おがきちか(ヤングキングアワーズ2000年5月号増刊・アワーズ2001)

 勧善懲悪‥ではない。途中まではそう見えるけど。結果として勧善にはなってもそれはたまたまだし、悪人を倒してもそれは悪魔にそいつの魂売るためで、ちっとも懲悪ではない。そういう姉弟のおはなし。
 よいことしたいのに呪われた宿命でというのでもなく、どうせおいらは嫌われものといじけるのでもなく、自分たちが嫌われ者であることを知ったうえでの気負うところのない名乗りは、奇妙にすがすがしい。そのうえで困った人は助けたい弟と、善いやつなんてどーでもいいという姉がいて。どーでもいいといいながら結果的に悪くない気持ちで、でもそーいうのめんどくさいから(かな)単純に悪人ばかりがよくて、そういう姉を弟がからかったりして。いいコンビだし、自分の立ち位置に気負わず立ってる感じが気持ちよいです。
 同じ設定で続きが読んでみたくもあります。このコンビで1話限りというのはちょいともったいない感じがして。(2000.4.10)

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朝を眠る/石川聖(ヤングチャンピオン2000年9号)

 カケアミとはちょっと違う。カケアミと点描のあいのこのような、奇妙に現実感を欠いた絵。でもっておはなしもふわふわと足に地のつかない感じで、かみ合わないせりふと現実的でない・ふざけているようにも見える展開で、不意に登場人物の切実なものを垣間見せて。で、実はそういうはなしなんだという安易な展開は拒んで、あくまで変な話を全うする。くせものですな。
 これを「これは自己喪失のおはなしだ」と言っちゃあいけない、ような気がする。そう言わせないがためのしかけが周到になされているから。そのしかけも含めて全部のみこんで、読み終わって「ふむん」とつぶやく。そうすることにします。(2000.4.23)

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たゆたうことば/夏蜜柑(快楽天2000年6月号)

 やさしいおはなし。ラブストーリー。少女まんがの文法、なのかもしれない。
 こういうふうに耳の不自由な人を登場させることに批判はあるかもしれない。でも−聴覚のあるわたしには結局はわからないかもしれないけど−個人的にはいいのではないかと思う。なぜならこの主人公は、聴覚のある人と同じで、同じように描かれているから。
 ラストの言葉は聞こえたかもしれないし、ほんとは聞こえなかったのかもしれない。でもそれはどちらでもいいのだ。大事なことは聞こえたかどうかではないのだし。(2000.4.30)

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MATCH/村上達也(モーニング新マグナム増刊2000年No.14)

 主人公はボクシングジムの経営者の弟でトレーナー。かつて世界戦でボクサーを煽りそして死なせた過去があるけど、懲りてない。こいつだというジムのボクサーを見つけて、世界をもう一度狙う気になる。だけど次の試合、そのボクサーは咬ませ犬としてのマッチメイクだった。負けてもいいから致命的なダメージを回避しろ、主人公はボクサーに指示する。そして。
 絵はちょっと遠藤浩輝を連想されるような、細い線を積み重ねていく感じの絵。でもっておはなしはいいと思う。主人公のトレーナーにせよ、相方のボクサーにせよ、そうして生きていくしかない、それを反省もしないし悔やみもしない、懲りない、そういうしょうがない男のさまが生き生きと描かれていて。もしかするとこれがデビュー作で、それでこれなら文句なしでしょう。次が楽しみ。(2000.5.3)

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南の島の冬/スズキユカ(コミックバーズ2000年6月号)

 童話、なんだなあ。容赦のない、原初の童話。
 南の島にやってきた王子様とその一行。通訳として雇われた、島人から役たたずと言われる暑がりの男。畏れ多くて王子様とまともに話せない従者たち、孤独な王子、そこに現れた男はごくふつうに口をきく。敬語もつかわず。
 「夜は冷えるよ」男の掛けた毛布とかけた声。それは王子にヒステリー様の状態−暑い島で寒さに震える−ぼくにかまって−を引き起こし、男は島人にますます白眼視されながら王子のために奔走し、王子と一緒にそこにいる。そして起こるアクシデント。
 読み返して、展開とセリフがしっかりつながっているのに驚く。計算され構成された物語。そしてとてもよくできた、たぶんわすれられないおはなし。(2000.5.14)

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二十歳の水母/松本剛(別冊ヤングマガジン2000年No.10)

 8歳のときに離婚した両親。それから毎年1回夏に、娘は画家の父親を訪ねる。父親は娘をモデルに絵を描く。毎年1枚、20年で20枚。
 言ってみればそれだけの話ではあるのだけど。読み飛ばしてしまうひとは、たぶん読み飛ばしてしまうんだろうけど。このひとのまんがの魅力を直接的に語る言葉を、やっぱりまだわたしは持ってないです。読まないとわかんない、という言い方は、読まない人にとってはなんの伝達力もないのはわかってるけど。
 オリジナルは「赤い花咲いたら」以来なのかなあ。原作付きでも読めるのはうれしいけど、でもやっぱりオリジナルがいい。この人の絵が最大限に生きるのは、この人の物語だから。(2000.7.2)

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君と暮らせたら/記伊孝(別冊ヤングマガジン2000年No.11)

 動物学者の父親が突然家につれてきたチンパンジーをめぐるおはなし。飼い主旅行中につき連れてきて面倒見て、脱走してホームシックで、やがて飼い主のもとへ帰っていく。それだけの話なんだけど、「また会えたらいいね」的ラストともども、あえてさらりと描いてしめっぽくしなかったところがいいなあというか。好みです。
 正直、これからうまくなる余地はあるとは思うけど、ここからうまくなったらかなりいい感じになりそう。最初見たとき「お」と思ってひきつけられた絵は、土着的なさべあのまみたい、というと変かなあ。これまたけっこう好み。(2000.7.22)

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