基本的にはギャグまじりのハイテンポまんが。だがラスト前、アイドルになりたかった女と、彼女にアイドルでいてほしかった男の気持ちの両方を巧みに描いて泣かせにかかる場面があり、これがほんとに泣ける。粗削りではあるけれど、並々ならぬ力量を示した1作。(1998.5.17)
平凡で幸せな家庭で、ある日妻に生じた夫への疑念。小さかったそれがやがて大きくふくらんでゆく。
設定自体は珍しくないが、絵・コマ割り・展開と抜群のうまさが光る。途中までよくある話に見せて、決して陳腐な物語には終わらせていない。
ラストはけっこう難解で、真相は結局明らかにされないけれど、明らかにならないまま平穏な日々へ戻ろうとするさまがこのまんがのテーマかもしれない。
ベテラン並みのうまさを感じさせたまんが。(1998.5.17)
これは少女まんがではないかと思うけど、そういうジャンル分けはもう意味をもたないのかもしれない。
9歳にして心に深い傷を負った少女の癒しの物語。子供のつらさ、大人のつらさをしっかり描いて、なおかつご都合主義ではない救いを用意している。現実ときちんと向き合っている姿勢が気持ちいい。「大人も案外いいわよ」というのは同感です。(1998.6.13)
空から落ちてきた天使(だったと思う)を空に帰してあげるまでの小品。樹るうはわりと変なまんがを描く人のようだけど、これはとても素直でよいまんが。(1998.5.30)
けんかした恋人同士の仲直りを描いたおはなし。相当恥ずかしい内容だけど、きれいにまとめたラストと照れながらも初々しい筆致がいい。いや、恥ずかしいんだけど。でもいい。(1998.5.30)
しいたげる男としいたげられる女。突然ある日男が犬になり逆転する立場。恨みを晴らすように男を組み敷こうとする女、なおも優位に立とうとする男。
倒せないはずだと思っていた男が傷つき倒れたとき、女は驚き悲しむ。そして生への希望と失い、はじめて素直になる男=犬。
対立の前半から和解と死への後半。ラストも秀逸。(1998.5.17)
いつになったらアフタヌーンに描くのかと思っていたら、こんなところに。びっくり。内容は大正〜昭和初期舞台の活劇、人とコミュニケーションをとる機械の登場する話。
描線が細くなった。32ページの長尺なんだけど、それでも詰め込みすぎてちょっと窮屈。ネームが多い。
でも、ラフで勢いのある絵とコマ割りは健在。6〜7話完結の中編がこの人にはあってるような気がする。そういうのがとても読みたい。(1998.6.23)
ハードボイルドに見せかけたギャグ。シリアスと見せて落とし、またシリアスと見せて落としのしかけが楽しい。くだらなくも笑えるまんが。(1998.5.30)
ヴィクトル・ユーゴーの大作を実質1ページまんがにしてしまったうえけんの一発。値打ちはストーリーがちゃんとまとめられてるところ。米粒に書かれたお経みたいなまんが。やったもん勝ち。(1998.5.17)
一人暮しの女性のなにもない部屋にある、大きな姿見。いつか鏡の自分に語りかける習慣のついた女性。
不倫の恋に破れたあとの鏡の前のひとりH。果てたあとにやりばのない衝動のまま鏡を破壊しようし、鏡に映る自分に我に返る‥
一つ一つのパーツは平凡ながら、テンポとコマ割りで読ませる話に仕上がっている。あさり風の丸っこい絵柄も好み。(1998.5.17)
電車に蜂の巣ができて刺されて困って、しょうがないから小便でなおそうと車内のみんなに小便を乞うて…妄想系の変なまんが。かくかくした絵もなかなかいい。(1998.5.30)
闘病の苦しみを救われてから、ずっと一緒にすごしていた少年の中の自分。内向きに安定した世界にひびを入れたのは、少年を気にかけていた少女だった。内面と外界とのはざまで葛藤する少年の物語。
構成・コマ割りともにかなりの腕前だし、きれいにおとしたラストもなかなか。ぐにゃぐにゃとして力強い線もいい。次が読みたい。(1998.5.30)
第31回ちばてつや大賞受賞作。
女性主人公で母親が入院中という設定自体に目新しさはないけど、トーンを使わないさっぱりした絵、せりふに頼らないストーリー展開、よく考えられたコマ割り、どれも秀逸。決着をつけずにさらっと終わるラストもいい感じ。気持ちのいいまんが。(1998.5.17)
生物として活力を失った近未来の人類。男には生涯ただ一度のセックスしか許されなかった‥
馬の種付けを連想させる、幻想をすべて剥ぎ取られたセックス描写が哀しい。これが絵空事であると断言できないことが、この漫画が今という時代の空気をくみとることに成功した証しでもある。(1998.7.26)
初めて読んだとき、どこかで読んだまんがだと感じた。次のコマが、次のページがわかるような気がした。
このデジャ・ヴは日がたつにつれ強まっている。このまんが、再録なのではないかと疑念をいだくほどに。今「あれは実は再録だ」とでたらめを言われたら、たやすくだまされるような気がする。
それでもやはり、このデジャ・ヴは錯覚であることを確信している。こども時代の喪失を描いたこの物語が、自己体験と一致しすぎたために生じてしまった既視感。たぶん、そうに違いない。
10年後、20年後、おそらく生きてるうちはずっと、このまんがを忘れることはない。そういうまんが。(1998.5.17)
例によって情けなくくだらないすがわら節の一編。説明のしようがない内容なんだけど楽しい。(1998.5.30)
おくてな中学生のぼんやりした恋愛感情。いささか陳腐なテーマを、腕前だけできれいに料理してしまった佳品。ネームも絵も物語も、ただひたすらうまい。(1998.5.17)
学校に行く意欲をなくした醒めた12才の少女が、中学に通いだすまでの成長物語。まだ未完成な感じは拭えないけど、話の持っていき方や会話でのやりとりなど、随所に光るものがある。これからどう伸びるか楽しみ。(1998.7.26)
バンピ=VAMPYかな。そんな単語あるのか。高校生・中学生・小学生の吸血鬼3兄弟と長男の彼女をめぐるおはなし。
登場人物の性格づけ(いばる長男、反抗する次男、まだ子供の三男)や一枚上手の彼女の位置づけなど、わりとありきたりだけどスラップスティックとしてよくまとまっている。新人なのでこれからに期待。(1998.7.26)
モチーフは呪いでカエルに変えられた王子様がという、アンデルセンかグリム(どっちか忘れた)の有名な童話。力の抜けた絵も含めて楽しく読み進み、オチで脱力。しょうもない‥
肩のこらない楽しい小品。(1998.5.17)
大学卒業してコンビニでバイト、前を向かずに生きてる主人公。想いを寄せていた前向きなクラスメートとの不意の再会。そこに黒服・カラス連れの少女がからんでの人間模様。
冬目景のふっきれない物語。興味ない人にとっては、多分どうでもよいまんが。最終回読後、むやみに床を転げまわりたくなってどうにも困った覚えがある。(1998.5.30)
少年と少女の会話で始まり、少女の妄想で終るまんが。静かに始まって淡々と破綻していく感じがよい。4ページなので才能の一端だけ示して終った感じだけど、これからもっともっと読みたい。(1998.5.30)
森中の池(沼とも湖ともいう)の埋め立てに反対しようと集まった妖精たち。一人加わった人間の幽霊が一肌脱ぐのだけど、生前やくざものだったこの幽霊を描く筆致がやさしい。気持ちよく読める一編。(1998.5.30)
淡々として悲しい物語。説明はしない、読んでください。泣けます。TONOの短編ではこれがベスト。(1998.5.30)
筋立てはやおいものだけど、キューピッドを努める「みにくい」女の子の存在が話をおもしろくしている。想いを寄せる少年の視線の先を知っていて、望みがないのをわかっての告白、そのうえでの少年への励まし。このクライマックスと、それまでの伏線の張りかたがうまい。(1998.5.30)
人の一生は長い道を重い荷物しょって…と言った人がいたかいないか。こういうのをテーマにもってくること自体がこの人の個性。
決して楽ではない人生、こんなふうに眺められたら素敵だなと思う。一見変なタイトルがラストで効いてくる。ちょっと素直でない年頃の少年の描きかたもおみごと。(1998.5.30)
はじめて読んだ二宮ひかるはこれでした。後半の動揺する女の子はどうでもいいんだけど、前半のやたら匂いをかぎたがる女の子の姿がいい。たぶん自分が嗅覚敏感だからそう思うのか。
嗅覚って視覚・聴覚よりずっと記憶に直結してるといつも思う。(1998.6.21)
高所恐怖症のあまり穴掘って住むようになった少年が、穴掘りすぎて落っこちて、落っこちた先が上空だったからずーっと落っこちつづけて‥落ちる悪夢でありそうなシチュエーション。ひねくれた登場人物の会話がおかしい。(1998.7.26)
好きな少年としたくてしょうがない主人公の少女(中学生)と、それがうっとおしくてしょうがない少年。少女のストレートな感情をストレートな設定で描いた好編。
全編にあふれる富山弁も気持ちいいし、結ばれておしまい、にしなかったラストも○。グラビア+まんが誌に掲載されたひろいもの。(1998.5.17)
ギャグ連載の1回分として描かれたもので、コントラストのはっきりしたみずみずしい絵と、たぶん大学生活のある日を描いたリリカルな内容に強烈な印象を受けた。
たぶんギャグとして描いたんだろうと思うけど、困ったことにかなりの好短編。(1998.5.30)
人を殺してしまったハードパンチャーが逃げ回るチャンピオンになったというボクシングまんが。着想はわりとありきたりだけど、罵倒されながら逃げ回るチャンピオンを最後まで描き続けたしつこさに好感が持てる。太い線の独特の絵柄も悪くない。(1998.5.30)
無言劇にして無限ループまんが。コインランドリーの乾燥機の中に裸の女の子が入ってたという発想だけのまんがながら、ドライというよりナイーヴな女の子の描き方がうまい。相手の男の顔が描いてないのはループするためのしかけか、だれでも一緒という象徴か。(1998.7.26)
山川直人の記念すべき復帰第1作。回想として語られる淡々とした物語、決して決め付けない語り口が気持ちいい。
絵的魅力は言うまでもないし、この内容なら満足。この人ももっともっと読みたい。(1998.5.30)
8ページの掌編。息子の手や頭を改造する父親を登場させてショートギャグの体裁はとっているけど、独立期の親子関係をうまく表現したところがおもしろい。(1998.7.26)