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■第二章 「蝉の羽」 校異

■ページ数は19巻本『川端康成全集』該当分のものです。

■下線部が異同部分を指します。 < >内が19巻本『川端康成全集』からの引用になります。
  「;」印は改行を表します。

■246ページ

日まわり <蝉の羽>

 <一>

■247ページ

○その背に上の子の里子はくつつくやうに<くつついて>

当然のことなのだが、<ナシ>やれやれと信吾は思った。

○「なんだか、この子の方が、里子よりしつかりしさうですね。」と言つた。<ナシ>

■248ページ

○「わかるさ。影響するね。」 ; 「生まれた時からですよ。」<「生まれつきですよ、里子は・・・。」>

○信吾は声を殺したが、ふるへてゐた。; 「止せつ。」<「よせつ。」>

○「止せ<よせ>と言ったら止せ。(略)」

○「(略)房子のところの模様も知りたいし。」と言った。<ナシ>

■249ページ

○「(略)お祖父さんに<おぢいさん>叱られたところ。(略)」

○保子が房子に言ったのが、信吾はなほいやだつた。なにか自分に拒絶させられ、人生に絶望させられたやうに感じた。<ナシ>

○これがまた信吾の気にさわつた。房子どういふつもりなのか、信吾にはわからなかつた。<ナシ>

○菊子が抱いて来た。<改行>房子がブラウスから下を持ち上げて、乳を飲ませた。

■250ページ

○  <二>

○その家の女の子が帰つて来て、<帰つて来た。>

○信吾は女の子に路をあけようとして向こうを見ると、二三軒先きにも日まわりがあつた。<改行>向こうのは一本に三輪の花をつけてゐた。

■251ページ

○花は女の子の家の一輪の半分ほどしかなく、茎も低かった。女の子の家のは花が<ナシ>茎の頂についてゐた。

○「みごとなもん<もの>だらう。」

○信吾は人間の脳を<,>連想したのだらう。

■252ページ

○夏の日も薄れて、夕凪だつた。<改行>しべの円盤のまはりの花弁が、女性であるかのやうな<やうに>黄色に見える。

○「(略)さつき電車のなかでも、頭だけ洗濯か修繕かに出せんものかしらと考へながら帰って来たんだよ<考へたんだよ>。」

○首をちよんぎつて、と言ふ<といふ>と荒っぽいが、

○「(略)三本並んで<ならんで>煙を出してるのさ。(略)」

■253ページ

○「(略)それで房子は、わたしがうちに<ナシ>ゐる方がいいか。(略)」

○菊子は困つて、<困つた。>頬が赤くなり、(略)。

○  <三>

■254ページ

庭は荒れた芝生だが、<芝生の荒れた庭だ。>

○青い萩の葉のすきまから、ちらちら<ちらちらと>見えるので、

■255ページ

○「三匹<三羽>もいたのか。(略)」

○「(略)ざるそばが一つ出てたが<出たが>。」

○夢に色があつたのか、覚めてから色があったことにしたのか、よくわからないが、<よくわからない。>

■256ページ

○しかし、三年も後に夢に見るほど親しい間柄ではない。<改行>夢のそばの出てゐたのは、(略)。

○(略)、信吾は夕方の今はもう思ひ出せないが、信吾は<ナシ>夢で一人の娘に触れたのだつた。

○触れたことはたしかに覚えてゐるが、<覚えてゐる。>

■257ページ

今は<ナシ>それだけしか覚えてゐない夢だ。

○信吾の家は、今の<ナシ>この家か、前にゐた家か、よくわからない。

■258ページ

○もうこの年では、親しかった人は多く死んでゐるので、<死んでゐる。>夢に死人の現はれるのが当然かもしれないと、信吾は思った。<当然かもしれない。>

○また、今朝の夢のなかたつみ屋と相田との顔や姿は、まざまざと思ひ出される。<見えた。>

○相田の酔ひで赤い顔は、実際にはなかつた顔だが、毛穴のひろがつたのまで思ひ出される。 ; してみると、信吾の記憶は夢によって新によみがへり、新にかたまつたことになるのだらうか。<ナシ> ; たつみ屋や相田の姿が、(略)。

○道徳的な反省をするほど<するほどには>覚めないで<,>眠つてしまつた。

■259ページ

○ 4 <四>

■260ページ

○里子もしんねりといこぢで、大人が負けて油蝉の羽を切つても、<まだ>ぐつついてゐた。

○房子は毎日<,>保子に愚痴をこぼしているらしいが、(略)、まだ肝腎の話を切り出せないのかもしれない。<改行>保子は寝床にはいつてから、(略)。信吾は大方聞き流しながら、房子がなにか言ひ残しているやうに<言ひ残していると>感じられた。

■261ページ

○親の方から相談に乗り出してやらねばと思つてゐても、嫁に行つて三十になる娘は、親もさう簡単には割り切れないし、<割り切れない。>二人の子持ちを引き取るのも容易ではないし、<容易ではない。>

○「さうですよ。わたしだつて<,>菊子にはやさしくしてゐるつもりですよ。」と保子が答へた。<改行>房子は答へを必要とする言ひ方ではなかったのに、(略)。

○「このひとが、わたしたちに<,>たいへんやさしくしてくれますからね。」

○幸福そうに見える嫁を好いて、不幸に見える娘を憎む<きらふ>やうに聞えた。

○信吾にとつては、菊子が<ナシ>(略)。信吾には肉親の重苦しさがなほ頭に<ナシ>かぶさつて来る。

■262ページ

○やさしくすると言つても、信吾のエゴイズムに過ぎない。それを孤独のほのかな明りと、信吾はあまやかしてゐる。<信吾の暗い孤独のわづかな明りだらう。>

○菊子にやさしくすることに、ほのかなあまみが差して<さして>来るのだつた。

○房子の言葉で、信吾はちよつとした秘密を突かれたやうにいやだつた。<信吾はちよつとした秘密を突かれたやうだ。>

○里子の蝉のことといつしよに、桜の木の下で信吾は、房子の<その時の>言葉も思ひ出した。

○「(略)。房子が赤ん坊を寝かせつけると、里子もそこへ行つて、母親の背にくつついて<ナシ>寝ちやふんだからね。(略)。」

○「可愛いい<可愛い>ですわ。」

○「えつ?<ええ?>」と信吾は振り向いた。; 「もう知れてるのか。おどろいたね」 ; 信吾は実際ちよつとおどろいた。<ナシ> ;

■263ページ

○会社の女事務員と信吾がダンス・ホオルへ行つたのは、一昨夜である。<改行>今日は日曜だから、(略)。

○修一がよく英子と踊りに行くらしいので、信吾は行つてみたのだ。英子が修一の女だとは、信吾は思つてゐないが、<ナシ>(略)。

○しかしあたりの乱雑なさまを見ると、春信を思ひ出してゐるのなどは、たしかに喜劇的人物<ナシ>でをかしかつた。

○「ほんたうですか。おともさせて下さい。」 ; と、菊子は言つた。<ナシ>

■264ページ

○踊りに行つたのを知られてもいいが、修一の女といふ下心があるので、信吾は突然菊子に言ひ出されて少しまごついたらしい。菊子は言って悪かつたと思つたらしい。<ナシ>

○「わが家のニュウス<ニユウス>ですからね。」

○「なにがニュウス<ニユウス>だ。(略)。」

○「どうも、ブラウスとスカアトと<,>ちぐはぐらしいんだな。」

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