第33話 『真実』





S・D症とは、この世界では不治の病として扱われている。
ログスの見解としては、
遺伝性のある悪性腫瘍を持つウイルスであり、
かつ先天性もあるという、通常では考えにくい病である。

潜伏期間というのがあり、
それは10年から40年というかなりあいまいな期間であり
とあるきっかけで発病すると、一気に死に至る病でもある。

見た目の症状としては
膠原病の一種でもある強皮症に近いものがあり
クレセアと、今回のレナの条件から見るに
アルコールが発病のきっかけを作っていると考えられている。

発病すると、筋肉や皮膚等が硬直するが
意外にも治療法は簡単だという。
まずは、腫瘍の広がりを抑える意味もある
免疫を体内に注入し、
その後、普通では判断しにくい腫瘍を取り除く
という手段であり
その腫瘍が硬直の直接の原因だという。

しかも、元を早期に発見できないと
免疫で広がりを抑える事は可能だが
手術後に再び発病する可能性もあるという。
そのため、元を先に取り除いた後、
全体に広がっていると思われる腫瘍を取り除く。

簡単とは言うが
免疫の効果は数時間程度のもので
その後は腫瘍が再び広がってしまうらしく
逆にいえば、免疫がないと腫瘍を抑えるのはほぼ困難ともいえる。


そして、ディルは
その元を取り除く事が最大の仕事になる。
白装束に着替えたあと、一瞬目を閉じた。

いろんなモヤモヤをかき消すように
頭を数回振ると、目を開け
レナの待つ手術室へ向かった。


そこには今回は補佐に回る
ロストル先師、クレイルの二人と、サポートが数名
手術台に寝ているレナを囲んで待っていた。

『お願いします』

一礼すると
メインになる指定席にディルは移動する。
手術台での手術は、2年前のクレセアの時以来になる。
緊張していないといえばウソになる。
心の準備が完全に出来ている状況でもない。
かすかに体が震えているようにも見える。

しかし、目を閉じて一呼吸をすると
それも止まり、メスを受け取る。

ロストル先師は無表情だが
クレイルは明らかに不信顔である。


『はじめます』

すでに免疫が注入されており
まずは切開し、元を取り除く作業から始まる。
心の準備は出来ていなかった。
しかし、この手術の想定は
あの時からずっとイメージしていた。

ログスの教えとして
手術とは、経験でも、知識でもない。
という事がある。
手術とは、イメージである。

その時、
どういう状況で、
どういうことになっているかを
常に想定し、対処をイメージする。

人がそれぞれ違うように、
同じ病でも対処の方法も異なるものである。
経験はパターンを作ってしまい
知識は先入観を持たせてしまう。
イメージする事は
それを活かせる医術師として最低の心がまえなのである。


『患者の体力から診て、2時間は持たない。
お前の判断が、命を左右する』

ロストル先師がディルに伝える。
それを意外にも冷静に受け取る。

腫瘍の元はある程度決まった部分に存在している。
もちろん例外を想定しつつ、手術は続く。

-・・・ない
・・・
ここじゃないのか?-

その例外が起こった。
それは主に肝臓部に存在する。
腫瘍は見られるものの
それは元とは思えない。

2年前のクレセアの時と、実は同様であった。
それがディルに焦りを起こさせる。
クレセアの時は心臓部に元が存在していて、
その時は全てを取りそこなった。
心臓部となるとベテランでも相当気を使う事になる。
まして、ディルは本格的な大手術を
この2年ほぼやっていない。
さらには

今回も・・・。
嫌な予感というよりは、2年前のクレセアが
今のレナとダブって見えてしまった。
ディルの体がその瞬間完全に止まった。


『・・・?
おい、何やってんだ?』

クレイルの声は届いていなかった。
そこに見えるのはレナの格好をしたクレセアだった。
いや、クレセアの格好をしたレナだろうか・・・?


『痛っ!』

足元に痛みが走る。
補佐をしているクレイルが
ディルの足を思いっきり踏んだのだ。

『2年前と同じだな。
兄貴には、この女は助けられない・・・』

今度は届いた。
現実に戻されて、一瞬クレイルの方を見るが
すぐレナに戻す。

『余計な私語は慎め。
・・・
ディル、まさか元を見失ったるわけじゃあるまい?』

ディルは首を振り
心臓部にメスを持っていく。


2年のブランクがあるように見えないその捌きは
不信顔だったクレイルをも納得させた。

『先師とクレイル補佐は、
転移している部分を頼みます』

峠は越えた。
しかし、転移している腫瘍も
同じく2時間で取り除かないと、振り出しに戻ってしまう。
それ以上に心臓への負担が大きいため
油断は決して出来ない。


『おい・・・
そこだけじゃないかもしれねぇ』

クレイルがディルの方にメスを動かし
それをその患部に向ける。


-これは壊死している可能性もある-


元ではないととはいえ
臓器機能としてなくなっている部分がある場合
別の病を伴う場合がある。
これ以上の大掛かりな切開作業は命にも関わる。
しかし、絶対できない時間というわけでもない。


『ディル、お前の判断で決めろ。
迷いは命取りだ』

ディルの方を見ずに
その雰囲気だけで状況をロストル先師は把握していた。

『オレは・・・』

腕は動かしているが、二人に指示はしない。
それには、さすがにクレイルがキレる。

『何迷ってんだ!
その女も、結局はあの2年前の女と同じか?』

『そうじゃない』

『なら、
さっさと、指示をしろよ!
そんなんだから、女一人助けられんだろうがよ!』

『黙れ!』

クレイルの言葉で一瞬力みを入れてしまう。
それはミスというものではないが


『お前ら。
ケンカなら終わってから好きにやれ。
こんな程度でミスするのは絶対許されん事だ。
ディル。
お前はこの2年、何をしてきたんだ?』

ロストル先師の言葉で二人は我に戻った。
クレイルはそれでもいらついた表情を続けたが
ディルは、一呼吸おいた。

『摘出を行ないます。
サポートをよろしくお願いします』

ロストル先師は相変わらず顔色を変えなかったが
クレイルはいらついたままだったが
半分安心したようにも見えた。


『こんな判断も出来ないようなら
この先、誰であろうと生かせる事は出来ないだろうな。
・・・
だけどな
お前がログスの籍を抜こうが、
不始末な医術を披露するなら
ここで足を洗った方がいい』

ロストル先師は最後にそう言うと
サポートの一人と交代し、先に手術室から出て行った。

言葉の意味を考えようとする気は無かった。
それが、ワザと言っていたとディルは感じていたからである。
自分が足りないもの。
それを遠まわしにロストル先師は教えてくれたのだと
そう思い込む事で、最後までレナだけに集中した。




ちょうど2時間。
クレイルが先に手術室から出てきた。

ディルはレナと共にそこに残ったままである。


ロストル先師が先に出てきた事もあり
別室にいた、アンとレビンが手術室の前まで移動していた。

『成功したの?クレイル?』

アンが出てきたばっかりのクレイルに尋ねるが

『"先生"に聞けよ』

とだけぶっきらぼうに言うとまた別室に消えた。

『どういうことや?』

やや嫌な予感をしたレビンは
手術室に向かおうと足を踏み出すが
アンに静止させられる。

『心配ないわよ。
クレイルはディルとはあまり仲がよくないからね。
・・・困った兄弟なのよ。
理由は、後継者がらみのこともあるんだけど・・・』

あんが話している途中で
手術室のドアが開いた。

そこからベットに移しかえたレナを押すようにディルが出てきた。
それを見てレビンも安堵の表情をした。

『アン。
悪いけど、下りの準備をしていてくれないか?』

『下り?
って確かに、ここにずっと彼女は置いて置けないとは思うけど
そんなすぐに出る必要も無いじゃない?』

『オレは・・・他人だ
長居する理由は無い。
・・・
レビンの方は用事は済んだのか?』

気の抜けるような声にレビンは一瞬戸惑ったが
それほど大変な手術だったのだと、感じ取る事ができた。

『用事・・・
ああ。もうおわった』

レビンの変な間に不思議な顔をしたが
レナを先ほどレビン達が待っていた部屋に連れて行った。

レビンはディルに問われて、一瞬考えてしまった。
ログスに連れて行けとは言ったはずだが
そこに用事があるとはディルには言っていないのである。

勝手にディルが解釈したのだろうと深く考えなかった。


また別の部屋から女性があらわれた。
女性というより、薬品のにおいが強烈なため
別の誰かがやってきたのが分かった。

『手術は終わったようね。アン』

『母さん。今までどこに?』

薬品の匂いがするこの母親だったが
レナの手術には立ち会ってはいなかった。
役職がアンの上司にあたる薬剤精製士というもので
薬剤物理学士であるアンと共に
薬品についての研究をしている。
影の功労者といえるべき役割で
クレセアの免疫を保存し、活用させる技術を保っていた。
通常の医学では保存があまりきかないものでも
彼女の研究で、それを可能にしている物も多数ある。

『どこにって、あなたも手術には立ち会えないでしょ?
ディルが私を見て、変な感情にならないように潜んでいたのよ』

『・・・ディルじゃ無くてクレイルですよね?』

『二人共よ。
ディルは私のことを好んでないみたいだし、
クレイルは逆みたいだけどね』

真顔で話す母親に半分アンは呆れていた。
後継者問題のきっかけを作ったのは実は、この母親リファンなのだが
今は、その事には触れないでおく。

『それにしても
よくここに戻って来れたわね、ディルは』

『どういう意味?』

『あの子の完璧すぎる部分を少しずらしたのは私なのよね。
2年前のあの時もね』

『2年前って?
ちょっと・・・真面目に?』

アンは2年前のクレセアの手術前に
リファンがディルに何かした事を察知した。
しかし、それは推測でしかない。

『まぁ、それは終わった事。
それでも、立ち直って帰ってくれたことには感謝しなきゃね。
あの女の子に』

『・・・。
ディルは、ここに留まるつもりは無いと思うよ』

アンには、リファンがワザと仕掛けた事を感じ取っていた。
挫折を経験させる事で
さらに一回り成長させるという狙いがあったのかと。
しかし、それにしてはやる事がえげつない。
おそらくクレセアの手術前にリラックスさせる目的で
"何か"飲ませたのだろう。
とても親のする事じゃないと、アンは想像した。

『それでいいのよ。
あの子には、こんな所で留まって欲しくないのよ。
それだけの技量はあるのだから。
後は、精神。
いずれ、行くべき場所のためにもね』

それ以上リファンは言わなかったが
アンには何を言おうとしているか、分かっていた。

『あ、そうそう。
ディルが戻ってきたら、先師が呼んでいると言っておいてね』

そしてそのまま手術室の方に消えていった。


『お前らホントウに親子か?』

二人の会話を聞くしかなかったレビンが
最後にため息混じりにそうつぶやいた。




その後戻ってきたディルはアンに言われて
ロストル先師のいる部屋に向かった。
アンとレビンは先にレナを連れてレスに下る準備をしに行った。

ロストル先師の部屋は手術室の横の廊下を通り、一番奥にある。
その間には室数は少ないものの病室がある。
そこでは、レナ同様の患者が入院生活をしている。
しかし、そこに人がいるとは思えないほどひっそりとしていた。


先師の部屋をノックし、一礼して入る。

そこは、まるでどこかの図書館ようなつくりで
来客用のソファーと自分の机以外は本と書類のみという
とても病院の一部屋とは思えない雰囲気を出していた。

『座れ』

ソファの奥の机に座っているロストル先師はディルを見ることなく
何かの書類を書き込んでいる。
それはディルがここを出て行く前の光景と何一つ変わらない。
そういう親を見て育ったディルには、何も抵抗感はなかった。

『2年ぶりの手術はどんな気分だった?』

意外な言葉が返ってきた。
今日の手術中もそうだったのだが
ロストル先師は誰よりも寡黙で
余計な話はほとんどしない人だった。
そこは変わったのかもな。
と、ここに帰ってきてから思うようになっていた。

『手術そのものは、初めてでしたが
全く行ったことはない技術ではありませんでしたし
補助が優れていましたので』

『・・・。
ディルもおべっかを使うようになったか。
まぁいい。
話はいたって単純だ。

私の後を継ぐ気は無いか?』

ロストル先師が自分に気を使っていることは
まだログスを名乗っている時から感じていた。
しかし、2年前に縁を切るように出て行った今更
ここに戻るつもりは考えにも無かった。

『そうか。
それでいい。
・・・。
ところで、魔剣はまだ持っているか?』

『あります。
というより、これが無ければここに来る事すら出来なかった』

『ゴーレム関連でその剣を渡したこともあるが
その真意はわかっているだろ?』

『魔城に行けという事・・・ですか?』

『・・・。
その剣を持っていれば
いずれ魔城関連の人物に目をつけられる。
そして、お前の性格上その剣を捨てることは出来ないだろ?
お前はこの剣を持ったことで何かを知ったはずだ』

・・・?
ガンプに目をつけられたことはハッキリしている。
しかし、それ以上のことは無い。
この剣が、魔城にあるものだということぐらいのことだ。

なかなか口を開かないディルをみかねて

『その剣が無くて、ここまで生きてこれたのか?
その剣はお前に何を与えた?』

・・・。
ようやくディルは意味を理解した。
それと同時に魔剣を取り出すと立ち上がり
ロストル先師の机に置いた。

その瞬間ようやくロストル先師は手を止め
ディルの方を向いた。

『この魔剣は私の師匠に当たる人物が持っていた剣だ。
いずれお前はその人物に会うことになる。
自分で医術を極めていこうと思うならな。
その時に、この剣をその男に返して欲しい』

『勝手なことを言わないで下さい。
確かに今日まで、この魔剣を通じて
ロストル先師に育てていただいた事には感謝します。
ですが、その剣に関しては、私はこれ以上干渉したくありません。
何よりも、この剣に頼らなくても、もう一人でやっていけます』

一方的に言い終わると一礼をし
背中を向け部屋を出ようとした。
しかし、この言葉は本音ではなかった。
だが、ログスとの縁を完全に絶とうと決めていたディルにとって
この魔剣を手にしておける気持ちにはならなかった。


『そのままでいい。最後に聞いておけ。
魔城にある一つの町に"活廻寺"という場所がある。
そこはこの世界最高峰の医術技法がある場所だ。
いや、医術というより生命術に近い。
行くだけの技量があれば一度行ってみろ。
その時・・・いや、
なんでもない。それだけだ』

ディルはなんとなく言いたいことを理解した。
だからこそ何も言い返さず、部屋を出て行った。
こうしてディルにはもう一つ目的が増えることになった。



ディルはそのあと
特に挨拶もせず自分の家を出ていった。
先に待っていたアンに連れられレビンとレナと共に
ログレスの入り口に到着する。

『今度来る時は
ちゃんと連絡しないとは入れないからな』

アンが寂しそうに言うが

『・・・今回も連絡したんだがな』

と、ワザと冗談を言った。

『ログスじゃなくなっても、ディルはログスの一人だからね。
少なくとも私は・・・』

言いかけたところで軽くディルが抱擁する。

『心配するな。
心配なのはクレイルらのほうだ』

真顔でそう言うとアンから離れ
そこに止めて置いた小型のレッドフェアリーに向かった。


『・・・やっぱり心配だよ』

苦笑いしながらもアンは
ディル達が見えなくなるまで
そこで見送っていた。




小型とはいえ、登りよりかなり快速で
レッドフェアリーは港を目指して飛ばしている。
天候も珍しく雪一つなく快晴である。


『そういえば、港の方は大丈夫なんだろうか』

思い出したようにディルは遠くに見える港の方を見ていた。

『それよりもレナはこのまま乗せておくのか?』

『・・・いや、レスで見てもらったほうがいい。
状況が状況だけにそこも安全とは思えないが
城にいる分は問題ないと思う』

『そうか。ならええ』


そしてレスあるノイズの城が近づいてきた。
ところがそこの様子がおかしいことに気がつく。

『なんや?すでにここにピースが来たんか?』

『いや、違うようだ』

城の裏門に着くと、そこにいた自衛兵に状況を聞いた。

『ノイズ国王が殺された?
・・・すでにここにもピースが来てるのか?』

『い、いえ。
というか状況を整理しますと
殺されたのは、国王様と、クイン様・・・と
先ほどクロバ様の遺体も・・・』

『どういうことなんだ?
ヴィルさんか誰か残っていないのか?』

話しているうちに
自衛兵軍長代理のテルとキールがやってきた。

『ディルさん・・・。
マイルに会いましたか?』

とテルが妙な切り出しをする。

『マイルって誰のことです?
俺たちは手術を終えたレナを
ここで休ませようと着たばっかりなんだが』

『ということは入れ違い・・・ということですね。
マイルはディルさん達を呼びに
ログレスに向かったはずなんですが』

『とにかくノイズ国王の居場所に案内してくれ。
話はそこで聞こう』

ディルが慌てて城に行こうとするが

『レナはどうするんや?
連れて行くか?』

レビンがレナを背負いながら聞いている。

『・・・悪いけど一緒に連れてきてくれ。
どっちも大事だ』

かなり焦っているのか
レビンの方を向かずそのまま走り中に入っていった。

『全く、誰がいるかわからんというのに』

ため息を一つしてレナを背負いながらレビンも城に入った。



会議室には、殺されたままのノイズとクインが
そのままにしてあった。

ディルは二人の脈を取り
止まっていることを確認してうなだれる。

レビンは会議室の横にあった休憩室にレナを寝かせ
その現場にやってきて事情を聞いた。



『・・・
なんか変やないか?』

『変?』

『悲鳴が聞こえた時にキールがこの部屋に来て、
その時にはこの死体の二人しかおらんのやったろ?
で、その前あたりにクロバって奴も別の部屋で殺されたんやろ?
で、そのあとこの城から出て行ったのは、そのマイルっていう奴やな。
・・・おかしくないか?』

『クロバの遺体を確認したが
死亡時刻は推測でしかないが
ノイズ国王より先だと思う・・・。
変といえばマイルって人の行動か』

それを聞いてキールがハッとする。

『そうだ!
マイルは誰の命令で勝手にログスを呼びに外に出たんだ?
テルは俺が呼ばせたと思ってたらしいし』

テルも同様に

『マイルを外に出した自衛兵にも聞いたけど
やけに冷静な判断をしていたって言ってたしな』

『そのマイルって奴は今はどうでもええ。
問題は、この二人を殺した奴が
どうやってキールが来る前に部屋を出たかということやろ。
それともマイルって奴はスキル使いか何かか?』

『いいえ。
マイルは新人で
スキルの基礎すら持ってませんでしたから』


『・・・ここには隠し通路とかあるんか?』

レビンの言葉でキールがまたハッとした。

『隠し通路はありませんが隠し扉ならあります』

そう言うとテルが先に動き
本棚の所にある隠し扉を登場させた。
テルとキールの二人で扉を開く。


!!


『こ、国王!!』

二人は隠し扉の中にある檻の中で
倒れているノイズを発見した。
ディル達もそこに近づく。

『じゃ、この国王は誰だ?』

ディルの言葉にレビンがまた考える。

『マイルの他にいなくなった者はおらんか?』

キールが3度ハッとする

『テル、そういえば
エルロールとジャルの二人もいないって言ってたよな』

『ああ。
てっきりマイルと一緒に行動していたと思ってたからな』


『ん?・・・
ここはどういうことだ?』

騒ぎを感じて閉じ込められていたノイズが目覚めた。
それを見てテルとキールは
ノイズが入っている檻を隠し部屋から引っ張り出した。


『どうやらオレは、ファラウェイズにはめられたらしいな。
・・・にしてもなんでこんなまわりくどい事をしたんだ?
それにこの3人はおそらく・・・』

『マイル達でしょうね』

ディルが無念そうにつぶやいた。


『うむ・・・ディル君。
こっちの方は心配しないでくれ。
檻の中にいるが、こうして生きているからな。
それよりも港の方が心配だ』

『そうですね。
・・・それといってなんですが、一つお願いがあります。
今日手術した一人の女性を保護して欲しいんです』

『あの時に倒れた子かい?
心配しなくてもいい。きちんと護衛させておく』

セリフとは裏腹に、ノイズは軽く頭をかく。

『・・・。
レナについては心配すんなや。
お前はさっさと港に行って治療してこいや』

ノイズの状況を見て
レビンが口を開いた。
ディルは一瞬驚いたが、軽く一礼する。

『そういえば、港の状況はどうなっているのか分かりますか?』

これには、何時の間にか会議室を抜け出していた
キールが戻ってきて伝える

『港は、ピースが持ち込んだと思われる"軍車"等で
破壊行為が行われている模様で
怪我人等は分かりませんが
こちらからの応援のレッドフェアリーも同様にほぼ壊滅だそうです』

『キール。
ということは息子たちは・・・』

『今のところわかりません。
ですが、港で応戦しているとの話もあります』

『どちらにしても怪我人が出ているのには変わりなさそうだ。
それでは俺は急いで港に向かいます。
ノイズ国王、レビン。
あとは、よろしくお願いします』

言葉を言い終わる間もなく
ドアも閉めず会議室を飛び出していった。



『・・・で、
"部外者"やから聞いておくが
ここがまだ政府支配下だった頃、
確かファラウェイズがここの地域を取り仕切っておったよな?
・・・
政府側は確か・・・』

レビンの切り出しにノイズは目を丸くする。
それと同時に部屋に残っていたテル達に外に出るよう合図を送る。


『君はいったい・・・?』

『まだここが4つの国だった頃、ここに来た事があるんや。
ま、そんなことはどうでもええ。
今回のピース兵というのも
以前の支配しておった政府どもの残り火やろ?』

ノイズは何かを覚悟した表情でゆっくり頷く。

『君は、レビン君といったね。
おそらく君が思っている事が、ここで行なわれようとしている。
そういう事をしてもおかしくない奴がいるんだ。
そいつはバーディス・ジョカーという
俺の元上司にあたる男だ』

『・・・ということは、あんたも元々』

『ああ。
俺も昔この地に派遣された、HKの一人だった・・・。
だが、おれはこの地に来て変わった。
いろいろあって、今は国王という器を乗っけられているが
本当なら今すぐバーディスの奴を止めに行きたいのだ』

『・・・。
ま、立場的に今すぐは出来ないわな。
というか、ここがどうなろうとあまり興味はあらへん。
やけど気になるんは、この女の方や』

『・・・。
こいつもファラウェイズ
いや正式な血を受け継いでいるのは、このクインだ。
その夫である、クロバが、異常に権力を取り戻したがっている。
・・・おそらく、奴が今回の裏の黒幕だろう』

ノイズが一度ため息を吐く。
それを見てレビンはさらに怪訝な表情を浮かべる。

『あんたを閉じ込めたのはクインと、そのクロバということやろ?
で、そのクロバは自分のニセ死体まで作って、メリットはあるんか?』

『・・・
確かに。俺はあんまり頭はいい方じゃないが
いくら俺でもこんな手間のかかるやり方はやらんだろうな。
バーディスと繋がってない限り』

『どういう意味や?』

『バーディスはおそらく俺らを恨んでいる。
裏切られた上、俺らが国を独立させる動きをしたことで
ヤツの地位は落ちていったという話もある。
言ってみれば、逆恨みをしに来たってことだな』

『・・・。
最初にここに来た時に感じとったが
バーディスって奴が、ここに来るって事を想定していたようやしな。
今、ここに住んでおる者にとっては
これ以上迷惑な話もないわ』

檻を触りながら、苦笑いをした。
それにはノイズは何も言えず下を向くしかなかった。


『・・・。
話を戻すが、この女は今まで何をしとったんや?
今までの話から考えると、ファラウェイズにこだわる様子も無いようやし』

『塔を作っていた。
確かにクインはファラウェイズの正後継者であるのだが
この国にいることはほとんど無く、
いたとしてもコールにある"逆転の塔"のところだったな。
まだこの国が独立する前から設計されていた塔らしい。
なにやら、当初の設計者が無くなってから
クインがその後を受け継いだらしいな』

それを聞いたレビンは一瞬動きが止まった。
しかし、またすぐに何か考える仕草をし、何かを悟った。

『クインに何か心当たりでもあるのか?』

『いや、なんでもない』

そうは言ったが
レビンはさらに考え込む。

-おそらく、このクインという奴は
クロバに頼まれて今回行動したと考えてやな
クロバがそのバーディスと繋がっているとして
恨みということは、ノイズ達を苦しめる方法をとるはずや。
また戦いを起こして、クロバが自然に政権を取り戻すとすれば
ノイズ達を消すと考えられるな。
だが、その前にすることはなんや?
港でおびき寄せて子供らを消し
ここに本人が向かってくるのも想定できる。
それは、ノイズ自身も分かっておるようやが
そんな単純な話でもないような気もするな。

それよりも、このクインという奴
じいさんと関係があったのか。
早いところ再会しておきたいものや-




一方で港に向かったディルは
港にあがる雪煙等でその状況は危険と感じた。
しかし、ミディに入る頃にはそれも収まっていた。

『終わったと見てよさそうだな。
だが、状況は・・・』

それでも港に近づくと、それは安心に変る。
人を見つけると、レッドフェアリーから降り、久々の再会をした。

『町の人らは大丈夫なのか?シェル』

『ライトさんが避難させてくれたから心配ないってさ。
それよりも遅いぞ!
あと少しで、俺らもあの世往きだったからな』

ボロボロながらも元気そうなシェルを見て
表情が緩んだ。
しかし、重症なライトや、港の奥で寝ているラウドを見て
すぐにコートからアタッシュケースのような箱を出し治療を開始した。



『なぁディル、レナは大丈夫だったのか?』

一段落が付いて、シェルがディルに尋ねる。
それにはディルは無表情を保とうとするが、自然に笑顔になる。
それを見てシェルが肩を組む。

『さすが、ログスの後継者だけあるな。
それにしてもピース兵も治療するのはディルらしいというか・・・』

『後継者じゃない。
俺はもうあの家の者ではないからな』

笑顔が固まったのを見てシェルは話題を変えることにした。
しかし、その後のディルの表情は硬いままだった。


『ところでディル君。
城に寄ったと言ったが、こちらの情報では国王が・・・』

『ヴィルさん。
それについては問題ありません。
殺されたのは偽者だそうです・・・が
その殺害の目的はわかりません』

それを聞いてヴィル一同一瞬安堵の表情に変った。
それを見たディルは、一瞬考え込んでしまったが
シェルの肩を一度叩きラウドの方に向かい
シェル達と共に怪我人等を監視施設近くの宿舎に移動させた。




ようやく落ち着いた数時間後
ヴィルがシェルを港に呼び出した。

『シェル。
今回のピースの関連に関わること全て
話しておかないといけないかもしれんな』

『兄貴も知ってるぽい事言ってたもんな』

『・・・。
お前でもやはり分かってしまったか。
で、結論を言う。
今回ここにきていると思われるピースらは
独立する前のこのノイズ国を支配下においていた人物だ。
そして、国王の上司でもある』

『親父の上司?
どういう意味だ?』

『国王ことノイズは、かつて政府支配下であったここに
HKとしてやって来てたんだ。
その元上司であるバーディスという者が
今回ピースを引き連れてやってきていると推測している』

ヴィルは一呼吸して続ける。

『ノイズ国王はいつしか、私達側の人間になり
元上司のバーディスをここから追い出した。
そしてそれまでの政権を握っていたファラウェイズも
政府色が強いため脱却の流れになり
現在のような状況が作り出された。
そしていつしか
ノイズ国王は私の父親になっていた』

『ん?・・・
なっていた?』

またヴィルは一呼吸おいた。

『私達は異父兄弟なのだよ、シェル』

一瞬何のことか分からなかった。
しかし、冷静になり考えると
そういうふしがあることを思い出した。
だからといって、そのことで二人の関係が変るわけでもない。
そうシェルは思いたかった。

『まじで?・・・』

それ以上言葉にならなかった。







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D・Tに戻ります。