第30話 『ログ家』





シェル達がレスからミディ港へピースと"交渉"するために向かったその時
港に向かう多くのレッドフェアリーとは逆に
さらに山に向かう小型のレッドフェアリーがあった。


S・D症により全身が硬直したレナを救うべく
ディルとレビンが乗り込んでいた。
小型のレッドフェアリーとはいえ
かなりの速さが出るものの
山に向かうほど雪が降りしきり
道という道も見えにくくなる。
よって、距離にすれば数十分の場所であるログレスを目指していたが
それは1時間以上かかる結果になってしまっていた。


運転するディルに、寝かせているレナ
それを見守るだけのレビンのメンバー。
そして、この2人はほとんど無駄話をしない。
そのためその場はエンジン音だけが響いていたのだが
それ以上にミディ港での出来事がその場を重くしていた。




『一つ聞いていいか』

その中ディルが重たい口を開いた。
しかしレビンは特に返事をすることはなく
勝手にしろといった表情に見えた。

『2年前・・・
どうやってログスに行くことができたんだ?』

これは港でも同様な質問をしかけていた。
ただ、その時は無理だと決め付けていたため
特に深く聞くことは無かった。
しかし、ログレスに向かうにあたり
ふと、そのことを思い出したのである。

『聞きたければ、長髪の王子か女看護士にでも聞けや』

答えてはいるが、それはどこか適当で
実際ディルのほうを向かず
気を失っているレナのほうを見ていた。

『長髪の王子?
・・・
シェルが絡んでるのか?』

一瞬考え込むが、
シェルがレビンを知っているような話を聞いたことは無かったので
そのことはおいて置く事にした。
それよりも女看護士のほうが気になった。

-女看護士?・・・って
あぁ。アンのことか-

以前ディルが話していたように
ディルの生家であるログスは
医者ではなく医術師であり
その役職も普通の医療関係とは異なる。
で、アンの本職は薬剤物理学士という。
いわゆる薬剤士なのであるが
細かいことを言えばそれとは異なるらしい。

それはディルの性格そのもので
看護士でもないアンのことを看護士とレビンが言ったことに
一瞬不思議な表情をしたのである。
恐らく状況が状況でなければ
アンは看護士じゃないと言い返したに違いないだろう。


会話はただそれだけで、また重苦しい空気が流れる。
レビンの表情は早くしろという風に見える。
だが、雪はさらに勢いを増し
レッドフェアリーはさらに速度を抑えなければならなくなった。




レスから出て1時間たったことだろうか。
速度が遅くなり続け、ついには停止してしまった。

これには当然レビンは怪訝の表情になる。

『ここからがログスの領域だ。
ここからは歩いていくしかない』

言われてみれば確かに周りの風景は変わっていた。
レッドフェアリーの前には
数メートルとはあると思われる塀が広がっており
その奥は人がすんでいると思わせるように雪道が整備されていた。
というより、周りと比べて雪が降っていないようにも見えた。


『悪いけどレナと一緒に降りてくれないか』

レビンは当然のように従うとレナを背負った。

-なんや・・・
というかこれが人間の体か?-

レビンはやっとのことでレナを背負った。
レナはほとんどの部分が硬直しており
まるでマネキンを背負っている感覚になっていた。

ディルは塀の端側にレッドフェアリーを止めると
すぐ整備された雪道に走り出した。
それをレビンが追いかける。


塀の中はまるで別世界であった。
山頂近くであるのにほとんど寒さを感じず
雪の量も極端に少ない。

『ここログレスの一体は大きな施設になっている
言い換えればこの塀の中はドームの中にあるということだ』

質問したわけではないが、怪訝な顔をしたままのレビンに答えるように言った。
というよりもディルはまだレビンがこの地にきたことを信じていなかったため
初めて来た人のように説明した。


走りながら次は魔剣を取り出した。
その魔剣が出たことに合わせるように何かが動き出した。
その音は異常に大きい。
何かの岩石があちこちで落ちているような音である。

『ここには魔城の置き土産が眠っている。
時々だが許可なしでここにやってくる人がいるらしく
そういう人を排除するするために
2体のゴーレムがこの入り口を見張っている。
レットフェアリーを降りたのもそのため。
ゴーレムは機械音に最もよく反応するから』

なら、何で魔剣で反応するんや?
そういう表情をレビンはしたが

『認証が確定するまでは俺らのほうに来るだけ・・・!』

言いかけたところでそのゴーレムがその場に登場した。
ゴーレムの名に恥じないその巨大な人型の岩石のような体で
先ほどの塀の高さをゆうに越える長身だった。


『なにしとんのや?』

魔剣を持ったまま立ち止まっているのを見かねたレビンが
苛立つように言った瞬間
ゴーレムの大きな腕が2人めがけて突進してきた。
それを2人はギリギリで交わしたが、その腕は地面を大きく叩きつけた。
その音は何かの機械が墜落したような衝撃音となり
その風圧を肌で感じる勢いだった。

『なにやっとんのや!
さっさとこいつら静めろや!』

恐らくレビンはレナを背負っていなければ
ディルをぶん殴っていただろう。
それぐらいの怒りをディルにぶつけていた。
一方のディルは、一瞬何が起きているのか?
という表情をしていた。


『腹にある核に魔剣を指しなさい!』

どこからか女の声がした。
ディルはその声でハッとしたのか
、すぐに魔剣を伸ばすと
ゴーレム腹の部分のすこし色が違う部分目掛けて剣を指した。

『そういうことか・・・』

まるで今わかったかのように
ディルはもう一体のゴーレムの腹の核にも剣を指す。
その瞬間2体の動きが止まり、ゆっくりとその場を離れ始めた。


その状況を唖然と2人がみていると
入れ替わるように一人の女がそりのような乗り物を引っ張って現れた。

『事情はクイン様の通信によって存じております
とにかくこれにお乗りください』

その女性は顔が見えないほど大きいフードをかぶっており
そりを自転車の前半分ような物で引っ張っている乗り物にのっていた。
それをディルだけがなぜか呆れ顔でみていたが
すぐにそりにやっと乗り込むと
その乗り物はさらに山を目指した。


『ディルから話を聞いていると思いますが
あのゴーレムと言う物は、魔城の物でして
魔城のモノにしか制御することが出来ないようになっています。
今回の場合は魔剣でしたので
剣を核に指すことで認証されたということになります。
あと、一度認証されれば
ここから出るまではゴーレムに襲われる心配はなくなります。
あと、この乗り物は"オレンジアーロ"と言いまして
名前の通りオレンジ色をしています。
あと、この乗り物はレッドフェアリーと同じ動力ではありますが
これも認証を受ければゴーレムには襲われません』

レビンは聞いているのかいないのか分からないが
マネキンのようなレナの方を見ている。
ディルはなぜかばつが悪いように、下だけを見てうつむいている。




数分走ると銀世界にさらに白く見える建物が見えてきた。

『準備はほぼ出来上がってますので
ついたらそのまま手術に入らせていただきます。
ところで、ディル君。
彼女の容態は今はどのようになってますか?』

ディル君?
その言葉にまた妙な顔をしたディルだったが
そりに寝かせているレナの腕を触り

『コウは一定期に入った・・・と思う。
シンは不動だが、一部安定している。
ジョウは危険な状態だ。
キュウはシンと同様だが、こちらの方が不安定だ』

専門用語なのかわからないが
ディルはその女にそういうと足のほうを見ていたりする。
フードの女はそれに答えることなくただログスに向かった。


オレンジアーロはそのまま建物入り口まで乗り込んだ。
そこには2人の看護師と見える人物が立っており
慌しくそりにいるレナを台に乗せると
すぐに建物の奥に入っていく。

『どうぞ中のほうへ』

フードの女はレビンにそういうと
ディルには残るように指示した。
レビンはディルにかまわず建物の中に入っていく。
ディルは言われなくても残るつもりのようで
そりから降りようともしなかった。


『まるで他人行儀なんだな』

下を向きながら苦笑いをする。
それを聞くなりその女はフードを取った。

『言いたいことは色々あるけど、
とにかく、よく帰ってきたよ、ディル』

その女もディル同様に白金の髪で
顔立ちのいい男役の似合いそうな容姿である。

『別に帰ったわけじゃない。
・・・。
ところで、アン。
聞きたいことがある』

アンがやや安堵の表情をしているのにもかかわらず
ディルの表情は硬いままである。
当然レナのこともあるが、そのこと以上のことがあるようであった。


『話なら、私が聞こう』

その場に建物から一人の男が現れた。
薄い水色の医服を上下に着ており、
メガネをかけているせいで硬そうな表情がより引き締まって見える。
彼はログス医術先師と呼ばれ
医療関係でいう教授クラスの人物ではあるが
実際の手術も彼が優先に行っている。
何より、彼はディルの父親である。

ちなみアンはディルの妹にあたる。
ここではログス以外の人物が携わっていることはないのである。
もちろん例外はある。
それは、ログスに嫁くことであった。


『ロストル先師・・・』

ディルは彼の前では一度も父親と呼んだことはなかった。
それはそういう教育を生まれた時からしてきたからではあるが
今は、縁を自分から切っているため
なおさら呼びにくくなっている。

『アンはさっさと準備の手伝いをしてくれ。
私は"この男"と話がある』

医術先師もまたディルのことを息子とは呼ばない。
彼も幼い頃の教育により息子だろうが
部下は部下、他人は他人という性格であった。


アンが奥に行こうとした時ディルも中に入ろうとした。
それを先師の腕がディルを掴む。
だが、それをディルは振り払うと

『・・・俺がここをいなくなってから
誰かここにやってきたのですか?』

やけに不自然な敬語で先師に返す。


一つため息をした先師は
薬指でメガネを押し上げると

『ああ。だかその話は別の話。
それよりも、2年前の話を私がお前にきちんとする義務がある』

『俺の"腕の"話ですか?
結果的に今回、レナを救うことが出来るかもしれないけど・・・』

噛み付くように返してくるディルの間を置くように
先師はまたため息をする。


『あの女は望んでいたんだ』







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