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第25話 『ダブルピンチ』
数時間雪道を登ったレッドフェアリーは ようやくしてレスの王城に到着した。 スノーバイクほどではなかったものの 先に降りたラウドとレナは あまり快適とはいえず、すぐにそこに座り込んだ。 『スピードとかに慣れないと 結構きついなこれ』 首を回しながら疲れきっているラウドに対して レナは座ったまま下一点を見つめて何も言わない。 その後にディルとレビンが降りた。 ディルは少し慣れているようで、それほど影響はないようだが レビンは一瞬立ち止まり下を空を交互に見渡す。 最後にドアを閉めてシェルが降りてきた。 ディルも気がついていたが 少し様子のおかしいレナに声をかける。 『ちょっと、レナにはきつかったか?』 そう言って右手で頭をかくシェル。 だが 意外にもレナはケロッとしており 『ん? 最初の頃はちょっと怖かったけど 今は全然平気だよ』 と言うとスッと立ち上がり 『というより、これがシェルの家なの? 本当に王子様だったんだねぇ』 その王城が結構立派な事に少し驚いているようだった。 それを聞いてシェルは まだ疑ってたのか?というような表情をしたが すぐにレナをエスコートするように 王城の方に向かっていった。 それを見てラウドも立ち上がりついていく。 『その仮面は外さんのか?』 残った二人で意外にも レビンがディルに話し掛けた。 ディルは一瞬レビンの顔を見て止まったが 顔に右手をあてると 『ライトさんにも見破られた以上 隠せるものでもないな』 そう言いながらその仮面を引きちぎり 一日ぶりにディルの素顔が登場する事になった。 ただ、レビンはそれに対して何も答えるでもなく 3人の後をゆっくりついて行く。 残ったディルは一度山からの景色を眺めた後 遅れて王城に向かっていった。 また場所は港町ミディに戻る。 港から少し山に登った所にある 別荘とはまた別の監視施設にライトは移動していた。 先ほど見たのどかな海の景色で安心していたのか 上着を脱ぎ、コーヒーを飲みながら のんびり本を読んでいた。 本とは言うが小説などの類ではなく ちょっとした大人の事情の本である。 しかし その時間も一つの通信によって止まってしまう。 嫌な感じがしながらも 渋々通信を繋げる。 『ライト軍長へ報告です! 比較的大き目の戦艦と思われる船が近づいてきています』 それは予想通りというべきの部下からの "嫌な感じ"の通信であった。 -やはり来たのか- そう感じると ライトは一度拳を壁に叩きつける。 『俺もすぐにそっちに向かう お前は町民に指示を与えてくれ』 通信を止めるとライトは すぐに上着を着て、海が見える窓から外を覗いた。 そこには確かにまだ米粒ほどではあるが 船のようなものが見えていた。 それを見たライトは 先ほど使った通信機を使い どこかへ連絡をする。 『こちらミディのライトだ。 ・・・。 あぁ、ガードか。 例のモノと思われる軍艦が一隻こっちに近づいている。 後2時間もしないでここに来る感じだ。 こちらも何とか対応するつもりだが 奴らは俺らの事を無視するだろうから なるべく早めにガードの部隊もミディに向かわせてくれ。 ・・・? あぁ。ノイズ国王というか ヴィル様からきちんと貰っている』 そういうと再び通信を切り さらに別の場所に通信した。 そうして各場所へ連絡を終えると すぐに外に出て港に向かっていった。 -もう、ここは支配地じゃないんだぞ- ガードシルがライトからの通信を受けている間に レスに到着していたシェル達は 城門までやってきていた。 そのガードシルはその城門の中にある軍施設で ライトからの通信を受けている。 城門には二人の門兵がいて シェルが帰ってきた事をすぐに察知した。 『お帰りなさいませ。シェル様』 厳しい顔をした二人の門兵は それほど深くはないお辞儀をする。 だがそれを見たシェルは 『テルに、キールよぉ。 だから"様"はいらないって』 そう言うと軽く二人にちょっかいを出す。 そのちょっかいで テルとキールという門兵の表情も一気にやわらかくなった。 『だから形式ですよ。なぁ、キール』 と向かって右側の男が言うと 『シェル様が否定しても あなたもこの国の王族の一人に変わりないですからね』 と左側の男も返事を返した。 ただ、その事を聞いたシェルは 分かっているのかいないのか微妙な表情で 後ろを向いて4人を中に入るように手招きする。 門兵の二人も分かりきったように 4人を中に通す。 『門もでかいけど城もやっぱりでかいよな』 ラウドは昨日の別荘と比べて、王城の大きさに驚いていた。 単純にだが王城はミディにあった別荘の10倍以上の広さがある。 別荘の大きさだけでも 野球場が数個分の広さだったのである。 一方で レナはディルが素顔を見せているほうに驚いていた。 『やっぱり、素顔の方がいいよ。うん』 妙に嬉しそうに言うが 『まだ、ログレスにいけると決まったわけじゃない』 とだけ言うと先に中に入っていった。 その二人の中にシェルが入ろうとしたが その瞬間に妙な声とともに 背中に大剣を背負った巨体の男が現れる。 『お〜。 帰ったんかシェル』 そう言いながらシェルの肩に腕をかける。 『ガードかよ。 相変わらず元気そうで何よりだな。 オヤジに会いたいんだが今どこにいる?』 それを聞いたガードシルは 肩から腕を外すと雰囲気が変わり 『あぁ、そのことなんだが こっちも用事が出来てな 急いで会議室に来てくれんか』 そう言うと すぐに会議室があるほうに向かおうとした。 『ガードシルさん。 俺たちも同席してもいいですか?』 何故かディルは その会議に同席させてもらうことを提案する。 それにはガードシルも一瞬困ったような表情に見えたが 『時間がないから、ついてきな』 走ってガードシルは会議室の方に向かっていく。 それを見てシェルを先頭にしてディル それに連れられるようにラウドと やや遅れてレナもついて行く。 レビンもため息を一つして レナの後をついて行った。 -? やはりレナの様子がおかしいわ- レビンは薄々レナの様子が変な事に気がついていたが 本人が何も言わないので ここまでは特に話そうともしなかった。 だが 『無理して走らんでも 奥の部屋が会議室みたいや』 と言うと レビンは走るのをやめて歩き出す。 それを見たレナも一瞬止まって レビンと共に歩く事にした。 それを振り返りはしなかったが ディルも分かったようで ディルも足を止めて歩き出した。 結局シェルとラウドだけが ガードシルに走ってついていく形となった。 ガードシルがドアを開けると 長机の奥に3人が座っていた。 『ノイズ国王! シェル・・・様を連れてきました!』 やや突っかかった感じで報告を入れるガードシル。 それを見て 今日はきちんと正装をしているノイズは うっすらと笑う。 『ガードもシェルも空いている席に座れ。 焦ったってしょうがないだろ? ・・・? 後ろにいるのは・・・ おぉ、ディルか 元気だったようだな』 そう言いながら 手で空いている席を指差す。 『すまないが、重要な会議上 部外者は一度出て行ってもらえんないか?』 その指を指す国王に対してその右に座る 大臣ことヴィルがディル達に話し掛けた。 『兄貴、ちょっと待てよ。 俺らにも用はあるんだ。 それに、大事なお客様だぜ』 と間髪いれずにシェルが言葉を返す。 それを聞いて半分諦めた表情のヴィル。 そしてヴィルも空いた席に座るように手を動かす。 その様子を見て 最後にレナとレビンも部屋に入った。 その様子をノイズの左側に座る ファラウェイ"ズ"を受け継ぐクインが 何も言わずに見ていた。 『シェルの話は後回しになるが とりあえず、シェルとガードは港に向かってくれ』 会議が始まったと思いきや いきなりヴィルから港に戻るようにシェルが言われる。 これには事情の分からないシェルは 当然口を挟む。 『何だ? 俺に帰ってきてもらうと都合でも悪いのかい?』 半分冗談風にシェルは返したが 3人の表情が変わらない事を見て 気を引き締めなおす。 『まだはっきりはしていないが ピースがおそらくこの国にやってくる。 政府の非公式ながら ピース関係者の文章が俺のところに送られてきた』 ノイズはそう言うとため息を一つした。 この【ピース】とは 世界政府(L/U)が派遣する平和維持防衛軍隊で 現在の"世界6大属団"の一つになっている。 ただこのピースは 少々ややこしい属団である。 以前ピスカで行われたトレジャーイベントでの特別賞が ピースへの無条件入隊権利だったのだが 普通に入隊するには入隊試験などが行われる。 そして配属となるのは世界政府の直属ではなく HKSというホーリーナイト(HK)の 上位クラスの部下になることとなっている。 このHKSとは 世界政府との繋がりではなく 魔城にある組織で結成された 世界警察のようなものである。 だが、HKはそれに所属していなく 委託業務な感じであり この"魔城の組織"に認定さえしてもらえれば 誰でもHKになることが出来る。 そして、その組織に従うと言う条件で HKSなどの別部隊に昇格できたりするシステムである。 ただ、今現在ではややこしい話なので ピースが世界政府による指名で HKSの部下として活動している ということさえ抑えておけば 話が繋がってはいくはずである。 『ピースが関係してるのか? それは面倒だよな』 ラウドが住んでいたピスカにもピースは来ている。 そして何度も言っているが 世界政府は南地区の組織である。 この北地区の人にとっては あまり好かれる属団ではないのである。 『面倒だけじゃない。 奴らは、自分達の都合で武力で解決したりもする。 今回こちらに向かっているのは まさしくその武力解決型のピース部隊だ』 ヴィルは言葉を選ぶようにラウドに言い聞かせた。 しかし、これにはディルが疑問を抱く。 『文章だけで・・・ それだけの情報が得られるのモノなのですか? 確かに、ここは独立してから まだそう年数は経ってはいないですけど』 だが、この質問には誰も答えようとはしなかった。 何かの核心をついたようである。 『まぁ・・・ こちらの話はそういうわけで 港に戻ってもらいたいわけだが そちらの話とはなんなんだ?』 ノイズが話をそらすように あっさり話題を切り替えた。 ディルもそれ以上は突っ込むつもりもないし 何より切羽詰っているような状況なわけで 自分の要件も早めにすませたいとも思っていた。 『俺達はログレスに行きたいんです』 このディルの言葉に 一瞬妙な顔をしたノイズだったが 『今日はちょうど、クインもいることだし あとは条件次第だな』 と、チラッと横目でノイズがクインを見た。 しかし クインは何も言おうとはしない。 『オヤジ達は話をはぐらかすしさ・・・ 俺はとにかく港に戻るけどよ ディル達はログレスに行かせてくれないか? クインさん』 クインが何も言わないことに シェルが言葉を返す。 そしてようやく 『しかし 見たところ、あなた達は健常者と見ますが?』 この場合の健常者の意味が正しいかはさておき どうやら普通の状態ではログレスには行けないようである。 それにはディルがゆっくり言葉を返して 『S・D症患者がいます。 俺はそのためにここに帰ってきました』 ディルのその言葉にレナは一瞬ドキッとしたが それがその言葉だけが原因じゃない事を悟った。 だが表向きはディルの言葉に合わせて相槌を打っていた。 クインはレナの相槌でS・D症患者である事は把握したが 『今のこの状況を考えてもらえば理解できませんか? 進行している病人でない限りは 安全な場所でピースが去るのを待って頂くのが懸命です』 このクインの言葉には ディルはくってかかる。 『いつからログ"ス"は病院になってしまったんです? ・・・ ログ"ス"は医者じゃない!』 それには 『あなたがいた頃と、今は状況が少し変わっているのよ。 あなたがどう言おうと 私たち一般の人から見れば医者と変わらないのよ』 とクインも引く様子はない。 その様子にノイズが何か言おうとしたが その前にヴィルがノイズに何かを話して その行動も無くなる。 その状況も関係ないのか ガードシルだけは先に部屋を出ており 別室にいる自衛兵たちを集結させていた。 『ここは、テルとキールお前らがリーダとなって しっかり国王達を"ガードシル"!』 ・・・。 「ガードしろ!」という意味で使う ガードシルの口癖に近い 親父ギャグを超えたギャグらしい。 この言葉が最北の地のレスの自衛兵達を 寒くさせる事は言うまでもない。 だが 自衛兵達も慣れているのか 号令を出すとそれぞれ配置についていった。 そして ガードシルが会議室に戻ると ディルとクインがやや対立する形で 緊迫した空気が流れていた。 『というかさ、ディルも少し落ち着けよ。 そのピースが厄介だから ディルのほうは後回しにした方がいいだろ?』 と その空気にも動じずラウドがディルに言葉を返すが ディルはラウドを睨んだかと思うと 『俺には、ここに帰ってくるわけじゃない! 時間はこっちだって!! ・・・』 とディルが声を荒げた時である。 先ほどからやや調子のおかしかったレナが 急に膝から倒れた。 『オイ!レナしっかりしろ!』 近くにいたシェルがレナを起こそうとするが レナは気を失っていた。 そしてすぐにディルの方を向きその事を目線で伝え ディルもすぐレナに駆け寄り状態を確認する。 -まさか・・・これは。 筋肉が硬くなっている・・・。 発病し始めている。 S・D症が- その状況を見て ノイズがクインに口を開く。 『クイン。 俺たちにも専属医はいる。 ここは俺からも頼む。 これ以上・・・』 と言っている途中で クインが何も言わずに部屋を出た。 その状況で ラウドとガードシルは呆然としており シェルはヴィルに話し掛けられており レビンは何かいらついている様子であった。 ほんの少ししてクインが部屋に戻ると ディルにある紙を渡した。 『この子のログレス行きを許可するわ。 今回はあなたと国王の顔を立てておくだけという 特別処置という事を忘れないでね』 そう言うとレナに近づき 『だけどログレスにいけるのは付き添いの一名のみ 患者のこの子とディル君は人数に入っていないから あと一人加える事は許可するわ』 レナの頭を軽く撫でると そこから離れた、 ディルもレナから離れ立ち上がると クインの言葉にすぐ反応するように 『待ってくれ・・・ 俺が人数に入らないとはどういうことで・・・』 言いかけたところで 『ロストル医術師からの命です。 万が一あなたが帰ってきた時 どうしてもログ"ス"に戻る状況になった時は 無償で入れてくれと言われています』 そのクインの言葉に ディルは一瞬顔を強張らせたが すぐに落ち着いた。 『ラウド、勝手な事ばっかり言って悪いが ログレスには連れて行くことは出来ないようだ』 そう言うとレビンの方を向く。 そのレビンは相変わらずいらついた状況で そのままディルに近づくと 『時間が無いんやろ、互いにな』 なぜかディルに当たるようにそう言うと ログレスへの行き方をクインに尋ねる。 『会議室から右に行くと 小型のレッドフェアリーが置いてある車庫があるわ ディル君は小型なら運転できるわよね?』 クインが答えながらディルのほうを向くと ディルは軽くうなづいた。 そしてすぐさまレナを背負い会議室を出る。 それを追うようにレビンも出て行った。 そうして会議室には ラウドとシェルとガードシル ノイズにヴィルとクインが残った。 そこにガードシルの部下の自衛兵が急いで入ってくる。 『ん?準備が出来たのか?』 ガードシルがそう答えるが その自衛兵は相当急いでいたようで 首を軽く振るがそのあとの言葉がすぐには出てこない。 ようやく落ち着くと 『準備は出来ましたが ミディからの連絡が入りまして 港にピース軍の軍艦が一隻到着し そこから軍車が数台上陸し その軍車により 町の一部が破壊された模様です! 町の者はライト軍長らが非難させていた模様ですが 自衛兵が数名負傷しており ほとんどライト軍長一人で対抗している状況です!』 これには一同が驚きの顔をする。 『オイ、待てよ。 ライトさんには国王からの通達を渡しているはずだ』 ガードシルも信じられないといった感じで その自衛兵に聞き返す。 『それが、ほぼ一方的に軍車を町に上陸させっ! ゲホッ』 その自衛兵はあまりにも急いでいったために 言葉が完全に詰り咳き込んでしまった。 『今から行って間にあうか・・・』 ヴィルがポツリとつぶやいたが シェルはそのヴィルとノイズの方を向き 『今から飛ばせば2時間もかからない! それまでライトは持ちこたえるさ。 行こうぜ、兄貴!』 そう言うとシェルは部屋をすぐ飛び出した。 それにつられる様に ガードシルとその自衛兵もついて行く。 『なんだか知らないけどさ 武力で解決する奴らなんだろ? ちょうど最近負けっぱなしで そろそろ戦っておきたいんだよな。 ・・・ というか俺はよ シェル達が行った場所がわからないから 案内してくれない?』 ラウドは純粋に 戦いのある場所に行きたかっただけだったのだが そればヴィルにはシェル同様に"誘い"に見えた。 というよりは そもそも当初、ピースとは話し合いを前提としており ヴィルが城への案内役として 港に向かう予定になっていた。 しかし 今向かった所で ヴィルにできる事はなくなっていた。 『とりあえずついて来い』 それだけ言うとヴィルも部屋を出て ラウドもついて行った。 ラウド達は会議室から左の部屋に向かっていた。 進んでいくと鉄の扉があり ヴィルがその扉を開ける。 そこには先ほど乗ってきたレッドフェアリーが エンジンがかかった状態で10台程度置かれており 一台以外はドアが閉まっていた。 『あの開いているフェアリーに乗り込め』 そう言うと部屋を出ようとしたが それをラウドが止める。 『シェルが待ってんだろ? どこに行くつもりだよ』 と当然のように ラウドはヴィルを無理矢理一台のフェアリーに連れて行く。 『ラウド、すまないな。 関係ない事まで巻き込ます形になって』 このシェルの「すまない」には ヴィルを連れて来てくれたことに対する意味も含まれていたが ラウドには分かっていなく 『戦いなら任せとけよ』 というとニヤリとして 先にヴィルを乗せさせて 最後に自分が乗り込んだ。 ヴィルは硬い表情のまま何も話さなかった。 そして 約10台のレッドフェアリーは レスから港町ミディまで最高速度で向かう事になる。 行きは登りだったので4時間程度かかるが 帰りは下り坂となるため時間も相当短縮する事ができた。 先にシェル達と逆の方向に向かったディルらは 同じく鉄の扉をあけると 除雪機のようなものが前方についている以外は 本当のスノーモービルに ただ屋根をつけたような乗り物が3台置いてあった。 『何も無ければ30分でつく』 そうディルは言うと 先に真ん中あたりにレナを 小型のレッドフェアリーに乗せ 自分は運転席に乗る。 レビンはレナを支える形で一番後ろに乗った。 そこにいた自衛兵が外の扉を開くと 一気に加速してさらに北に向かって行った。 |