第19話 『南の国の海賊』





波も穏やかな11月。

ラウド達が港を出る一ヶ月ほど前に
一人の男が港にある唯一の酒場
「スクエア」に入る。

そこはラウドの行きつけの酒場であり
店主のサガが当然にいる。

『何にする?』

サガが注文を聞くが
その男は何も頼む気配がない。
そしてその男はかけていたメガネを右手ではずす。
その素顔にサガは一瞬驚く。

『・・・。
魔心眼か』

そう言うと黙ってしまう。
だが、この男は口を逆に開いた。

『こんな目をした男を知らんか?』

とサガに一瞬顔を向けると
その男はメガネを再びかけた。
一方でサガは
独特の訛りに別の意味でまた驚いた。

『お前、レジェンドの者か?』

そう言いながら
嬉しそうに一杯の酒を差し出す。

『何のつもりや?』

という男の問いには

『お前と同郷なだけさ。
これは俺のおごりだ。
遠慮せず飲んでいけ』

と言うとさらに酒を差し出す。
しかし、その男は
酒には興味がなさそうに続けた。

『昼間から飲む気にはならへん。
知らんのやったら、用はないわ』

と言うと席を立ち出口に向かう。
それをサガは止める。

『知らんとは言ってないだろ?
まぁ・・・落ち着いて一杯飲んでいけよ』

そう言うとタバコを吹かした。
その男は一瞬戸惑ったが
そのまま出て行ってしまった。

『・・・。
奴の子供か。』

サガはつぶやくようにそう言うと
自分でそのお酒を飲み干した。




そのメガネの男は
そのあとすぐに船に乗り込んだ。
実はというか
この男はレビンであった。
ラウド達よりは怪我が軽症だったこともあり
先にピスカを旅立ったのである。


レビンが乗った船は
北地区では最高級にあたる高速船であった。
設備もなかなかで
約一ヶ月でノイズに着くことが出来るのだが
そこまで給油もせずに航海出来る代物であった。

ちなみにこの世界の船は
色々種類はあるものの
人工的に作られた動力があり
燃料によって動いている。

部屋の事だが
レビンは一人しかいないので
当然に個室を選んでいた。
一つの部屋は6畳程度の広さだが
一人には十分の広さであった。
そこにはベットと兼用になる青色のソファーと
航海中の唯一の情報源となる新聞が
部屋の真ん中にある机に置かれていただけだった。
別に携帯電話という物も存在しているので
唯一の情報というわけでもないのだが
"見る情報"はそれしかないのである。

レビンは早速それに目を通すと
何枚かめくったところで手が止まった。

『スパイダーが来とるのか?』

そうつぶやくと
新聞を机に置いた。


北風が肌に差し込む12月

レビンから遅れる事
約一ヵ月後に
ラウド達はギリギリながらも
ピスカを旅立った。

ラウド達もレビンが乗った
最高級の高速船に乗っていた。
といっても種類が同じという意味である。

船名は『ビッグウェーブ号』
乗員100名というのは
この北地区では多い乗客員数である。
そしてこの船もノイズに向かう。


部屋はディルとラウドは同部屋で
レナが個室である。
条件はレビンのときとそう変わらない。
ただラウド達の部屋には
ソファーが一つ増えただけである。
レナは荷物を自分の部屋に置くと
この部屋に遊びに来ていた。


ラウドは小窓から遠くなっていく故郷を見ていて
ディルは新聞を読んでいる。
レナは勝手にソファーに横になっていた。

『しかしさっきは有名になったよなぁ』

突然窓を見るのを止めると
ディル達のほうを向きつぶやいた。
それにはディルが苦笑いをする。

『もう、あんなことは二度と勘弁して欲しいな』

それにはレナも

『面白かったから
私はまた見てみたいなぁ〜。
でも、
今度は他人としてね』

とラウドを見て笑う。
その反応でラウドは右手で頭をかきながら

『ま、もうこんなことはないと思うけどな』

と、暢気に返した。
更に新聞に夢中なディルを見て
ラウドは続ける。

『なんか面白いことでも書いてるあるのか?』

と言いながら
ディルのほうを覗き込むが

『うわ、細かい字ばかりじゃないかよ』

と言うと
また窓の方に戻った。


少し間があき
静かになったのがつまらなくなったのか
レナがソファーでゴロゴロしながら
ラウドに尋ねる。

『そういえばラウドって
島を出るのは初めてなんだよね?
船酔いしないの?』

と言われると
ラウドも暇だったのか
レナの横に座り込んで

『船酔い?
酒でも飲むのか?』

と、また頓珍漢なことを言う。
ラウドはまじめに言っているのだが
ディルは少し表情が緩み
レナは笑いがこらえれない表情をしている。

『違うよ〜違う。
船って揺れるでしょ?
だから気持ち悪くなったりするんだよ』

と、まだ笑いながらレナは言うと
起き上がり、ラウドの肩を叩く。

『はぁ?酔うのか・・・。
そんな気、全然しないけどな。
・・・。
そういえばさ
ノイズまで一ヶ月かかるんだろ?
航海ってよ、そんなに長いものなのか?』

何で笑われるのか分からないまま
全く航海のことを知らないラウドは
いつものマイペースさでレナに質問をする。

『そうだね〜。
でも一ヶ月は短い方だったりするんだよね。
私はこっちに来るまでに
半年以上もかけてやって来たからね』

半年と聞いたラウドはラウドは
レナの方を向いて固まる。
それを見てレナがまた笑う。

『ラウドといると、本当飽きないね。
ちなみにさ、食べ物なども十分に確保できてるし
こういう大きな船だと
『食物園』と言って
野菜などを作る場所もあったりするんだよ』

と言いながらも右腕を腹に当てる。
それにもラウドは
疑問な顔をしたままである。
それを見てレナは
更にたたみかけようとする。

『あとはさ、こういう航海の始まりにはさ
海賊に絡まれたりするんだよね〜。
海賊ってこういう島の周りにある小島に
砦を作ることが多いからね。
といっても
北地区じゃ、そんなに有名な賊もいないし
こういう高速船を襲えるほどの設備もないから
まず襲われる心配はないけどね』

と、ラウドの顔色をうかがいながらも
やはり顔はにやけている。
だが、ラウドは興味を引かれたようで

『海賊か・・・。
海だからなぁ・・・。
というか
逆に襲ってもらっていいぜ
俺はよ』

というと拳同士をぶつける。
だがそれには

『お前の怪我はまだ完治してないんだぞ』

と、会話に参加せずに
新聞を見ているディルに突っ込まれる。
そして更に続けた。

『だが、あながちその可能性がないともいえないな』

と言うと
新聞の"あるところ"を広げて立ち上がる。
それを覗き込むレナとラウドは
ある記事を見つける。


【南の海賊・北でも強襲】

というタイトル記事で
内容は南地区で活動している
「スパイダー」と呼ばれる海賊が
最近は北地区でも
その活動の幅を広げているといったものであった。

『この海賊団って有名なのか?』

とラウドはレナの方を向くと
レナの表情はこわばっていた。

『有名だよ。
だけど、この海賊団は
南地区で海賊行為を認められている海賊なんだよね』

と言うとソファーに戻って座り
腕を組んだ。

『海賊行為を認めているのか?』

これにはディルが一番驚いた。
そう言うと
レナの反対側のソファに座る。

机に残ったラウドはそのままで

『認められていようが、いないが
海賊は海賊だろ?
そんな奴らが来たら逆に
海賊船の宝を奪ってやるぜ』

と、一人でまた気合を入れていた。
レナはそれを見てため息をつき
ディルもやや首をかしげた。




だが
それから数日が経ち
スパイダーどころか船に出会うこともなく
半月が過ぎようとしていた。

ラウドはこの間
暇つぶしと称して、船内探索していた。
最近はレナも暇だったので
ラウドに付き合う形でついていった。

というのも、
残ったディルは
なにやら難しい本を読んでいたり
アタッシュケースから薬を出して
なにやら調合していたりと
近づけなさそうな雰囲気があったからだった。

『やっぱり一度は操縦してみたいと思わないか?』

ラウドは操舵室付近で
レナと操舵室の様子をうかがっていた。
操舵室は両開き戸になっており
小さな丸型の小窓があるだけで
その中は見ることが出来ない状態だった。

そこから一人の船員が出てくる。
その船員はレナよりも小柄な男で
そしてラウドを見るなり
「またか・・・」という顔をした。

『いくら言っても操縦はさせないって
おとなしく部屋に行ってろよ』

と追い返すように
両手でラウドを向こう側に追い出そうとするが
力が足りないのか全く動かない。

『なぁ、リードだっけ?
力入れてるのか?』

とラウドは小声ながらも
からかうように言うと
そのリードという船員を片手で押し返す。

その動作を繰り返しているうちに
レナは飽きてきて

『私、ご飯食べに一度部屋に戻るわ』

と半分呆れ顔で先に部屋に戻った。
ところがレナがいなくなると
リードの様子が一変した。

『約束が違うじゃないかよ〜ラウド君。
小さい俺が大きい君を押し返すという
「縁の下の力持ち状態でレナちゃんの心を掴む」
という作戦だろ?』

意味を思いっきり間違った作戦なのだが
リードはそんな事には気づかないようで
ラウドに近づくと
拳を軽く胸にぶつける。
しかしラウドは
その作戦を忘れていたようで

『あれ?そうだっけ?
というか
レナには「相手」がいるから無理だと思うぜ』

と、ディルの事を
勝手に「相手」ということにしてからかい
リードの肩を叩くと

『俺も腹減ったからまた後で来るわ』

と言うとそのままラウドも
部屋に戻ろうとする。
だがリードがラウドを呼び止めて
肩に腕をやると
小声で

『今度来る時はよ、
「海賊を捕まえる稽古」作戦をやるからよ
俺がラウドを捕まえる役になる。
ラウドはそれなりに抵抗して
俺に捕まる役をやってくれよ』

と言うと
仕事があるからと言い残し
操舵室に戻っていった。

しかし、ラウドにはこのリードの
レナの気を惹く作戦が
いまいち理解できなかった。
こんなことをしても
レナの気は惹かれないだろう
と思ってはいたが
作戦が成功した時には
操舵室に入れてくれるという
リードとの約束なので
一肌脱いであげようと思っていた。

ちなみにこのリードとは
ラウドが船内探索をしている時に出会った船員で
ある時にレナとこの操舵室前に来た時に
リードがレナに一目惚れをしたらしい。




一方で、部屋に戻ると言っていたレナは
ディルのいる部屋に寄っていた。

『なんか色んな物があるんだね』

ディルのアタッシュケースに入っているものを
横目で見ながら
何かの調合を机で行っているのを見ていた。

『ハンター道具から医療道具まで色々ある』

と言うが
目や腕は調合に集中していて
レナをまったく見てはいない。


そうしているうちに
ラウドが帰ってきた。

『あれ?ここにいたんかよ、レナ』

と言うとラウドは
近場にあるソファーに腰をおろした。

まさにその瞬間だった。


??


『なんか体が重くない?』

レナが言うように
ディルもラウドも体が急に重く感じた。
ラウドにいたっては
起き上がるのが精一杯であった。




一方で
操舵室では1隻の船を発見していた。
しかし発見はしたものの
エンジン音もしなく
マストすらないその船は
完全に無人船という感じだった。

しかし
その船に近づいたところ
船が急に動きにくくなった。
そして更に近づくと
エンジンをフル活動しても動かなくなった。
それどころか船が少し沈んでいるようにも感じた。

操舵室の船長も
体と船の異変に気づいたが
船長室から出てきた頃には
船員達は体の重さに倒れていた。

『何者だ・・・』

船長はただならぬ雰囲気を感じていた。
そしてこの異常は
スキル使いによるものであることもわかっていた。

と、外を見ると無人船から
数人の人影が現われると同時に
その船に一つの旗が上がった。

『ス・・・スパイダーだと』

船長は
その突然の
しかも、周りに島もないこの大海原に現われた海賊に
虚をつかれていた。

その無人船に揚げられた旗は黒色で
ドクロと蜘蛛の巣が白色で描かれていた。

まさしくそれは
南の海賊スパイダーであった。







第18話 『旅立ち』へ先頭へ第20話 『対スパイダー戦〜ピスカノイズ海編』へ





D・Tに戻ります。