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第15話 『クレセア』
川の源での戦いが終わって 山登りは続く。 実はこのピスか山は 標高が10000Mという常識はずれな山であった。 ラウドはそのことを知らないが とりあえず高い山だという認識はあった。 認識しかないというのは つまりは頂上にはいったことがないということでもある。 当然普通の常識で考えれば 5000Mを超えれば空気も薄くなり、 気圧なども下がってくるはずである。 しかし今いる時点では そんな雰囲気を微塵も感じさせない感じであった。 説明はしていなかったが、 この山の山頂は雲に隠れていて見えていない。 というよりもその雲が晴れることはなかった。 だから山頂がどんなところかは 地元の者でもほとんど知る人はいない。 もちろん世界遺産に登録されており こういうイベントがない限りは立ち入り禁止であるから 山頂に登った人のほうが珍しい。 そろそろ3合目辺りに着いた辺りで、 長い一日が終わろうとしていた。 ラウドはディルの他にレナとレビンを一応仲間に加えて 4人となって行動していた。 歩くペースは人それぞれで 先頭はラウドとレビン。 といってもレビンは 仕方なくついているという感じである。 その二人から少し遅れてレナがいて、 やや後ろにディルがいた。 意外にもこの中では ディルが一番体力がなかったのである。 それにディルは小道具が多かった為 余計に体力を消耗していた。 レナに至ってはさすがに盗賊団の一員らしく まだ元気なように見えた。 まだ木が生い茂る周りを色々見渡してたり、 高山植物に近い花々を見たりしている。 ディルはレナにその花々の説明を聞かされはするが 登るのが結構精一杯な為 ほとんど聞き流しに近かったが レナが空元気である事を感じてもいた。 いきなり仲間を失ったのだからそうなるのも当然だと思い ディルも気力を振り縛って話を聞く努力をした。 『これは「ツクモグサ」で・・・あれは』 レナは自称お花博士というぐらい植物関係には詳しかった。 『これって、絶滅したと思われている「マイコマクサ」だよ。 これを仮に売ったら・・・ 一輪でも「10万ホルン」はくだらないよ』 マイコマクサという花を見ると そこに立ち止まってしまった。 ちなみに「ホルン」とは紙幣単位の一つである。 さらに余談ではあるが 世界共通紙幣単位は「ダイア」と呼ばれているが ここピスカ地方ではホルンという単位を使用している。 レナがあえてホルンで単位を言ったのもそのためである。 「1ダイア」は「2ホルン」であるが あまり覚える必要もないことである。 ディルはその話を聞いて ふと以前に出会ったクレーブのことを思い出していた。 -クレーブはスキルポーションではない 何かを探しに来ていたと言ったが もしかすると、こういう希少なものも集めていたのかもしれないな- そう思い出すと、今の自分がまた歯がゆく感じてきた。 そんなディルを不思議そうにレナが眺めていた。 『お前ら、道に迷っても知らないぞ!』 先を行くラウドの一言で 我に帰ったディルは再び歩き出した。 しかし、ラウドは道と言っていたものの、 実際道という道は無いに等しく ただ3000Mという高さにでも 悠然と生えている木々の間を歩いていた。 お花博士のレナの薀蓄はまだ続いているようだが 先を行くラウドはレビンに質問攻めであった。 『何でスキルポーションを一人占めしようとしてるんだ?』 しかしレビンは特に言うことはないというように黙っている。 『まぁ、俺は七秘宝さえ見つかれば スキルポーションだか、アクセスポイントだかはどうでもいいしな』 何も話してこないレビンに絡むのが飽きたのか 独り言のようにぶつぶつ話をしていた。 ところが七秘宝というキーワードが レビンに引っかかってようで 『お前は、ほんまに七秘宝探す気か?』 相変わらず前を向いたままだが反応を見せた。 『ん? レビンも馬鹿にするのか?』 以前グローバーの"体格のデカイ男"こと ゴードンに笑われたことを根にもっているのか 少々喧嘩腰である。 だがレビンの反応は冷静だった。 『本気やったら別にええわ』 少し何かを考えたようにさらに続けた。 『お前・・・確かグローバーのやつに麓で絡まれたとき 聖剣潰しがどうのとか言っとったな』 少し驚いた表情をしたラウド。 というのも、あのときの会話で周りの者が聞いていたのは 七秘宝のことだけだと思っていたからだ。 実際レビンはゴードンがラウドに絡んでいたとき その近くにはいた。 ただ、それは自然に話が聞こえてきた程度だったのだが。 『ガンプのことを知ってるのか?』 聖剣潰しというキーワードで、 ガンプを知っていると直感したラウドだったが レビンはそれを聞くと少し口元が緩んだように見えた。 『会ったことはないけどな』 と言うとまた黙り込んでしまった。 その後もラウドはガンプについて問いとめるが レビンが答えることは無かった。 -レビンも聖剣潰しの一人なのか?- ラウドは少しだけ良くない不安を感じ始めていた。 しばらくすると ラウドたちが見えなくなるところまで離されていたディルとレナ。 万が一のことを考えて今日の戦いの後に ラウドには「遠笛」というのをを渡していた。 遠笛とは名前が指すように 遠くまで音が響く笛のことである。 普通の笛よりは響くように設計されたものらしい。 万が一危険があったときは 居場所がわかるようにという配慮ではあるが 彼らは、この大会で出会っただけの仲間。 連絡を取り合うまでするほどの信頼関係はなかった。 だが遠笛を渡した真意は ラウドの居場所がわかるという事でなく、 ディルなりの信頼の表れであった。 実際ラウドが 遠笛を使うとは考えにくかったからだ。 逆に自分ならありえる。 そしてディルは ラウドがこの山で生活していたということを知っている。 それは他の者よりも 現在位置を理解できているという考えからである。 これは遠笛を使うことで 他の者にも居場所を知らせることになるが この山の中では はっきりとした現在位置を理解できるものはそうはいない。 ディルはそう考えた上で ラウドに現在位置がわかるものを渡していた。 それは自分が使う為であった。 つまりはディルも遠笛を持っていて ラウドに居場所を知らせる為の手段ということである。 だがラウドはそんな目的を知るわけがなく 『ただ、こんなもの使う機会はないんだけどなぁ』 と思っているだけであった。 こうして時間が経つにつれて ラウド・レビン組とディル・レナ組に分かれる形になった。 ラウドは最初はディルらを待っていたものの あまりにもペースが遅いので 先に行くことをディルに告げていた。 何よりもレビンは 『待つぐらいなら別れたほうがいいやろ』 という提案というか行動をしていた為に 自然的に二組に分かれた感じである。 『さっきは一人では辛いからなと言ってたくせにな』 とラウドが疑問に感じたのは言うまでもない。 レビンにとっての目的はここではラウドのようである。 彼が本当に聖剣潰しなのかどうなのか。 そんな謎を含みつつ二人は進んでいく。 辺りはすっかり薄暗くなっていた。 ピスカ山に来て、まだ数日しか経ってはいないが もう何週間もそこにいる感じがしていた。 『ずいぶんお疲れだねぇ』 レナがヘトヘトになっているディルを見てそういうと 今まで頭と顔を覆っていたフカーフのようなものをはずした。 『やっぱまだ夕方といっても暑いね』 その容姿は 髪が茶色というよりは赤茶色に近く ショートボブに近い感じである。 それよりも目が印象的で、 大きくて、うすい青緑色をしている。 まだ少しは日が残っているので 暗くなりながらもディルはそれを確認した。 が、 ディルにとっては その容姿がある人物を連想させてしまった。 『クレセア・・・』 この言葉に意外にレナも反応した。 『クレセア・・・って?』 ディルはレナの容姿を見て固まっていた。 それは彼が探している人物で、 クレセアと呼ばれる人と瓜二つであったからである。 クレセアはレナとほぼ同じ容姿で 髪だけが背中まで伸びているだけというだけの違いだった。 ところで、 固まっているにはわけがある。 ディルにとっては忘れることができない理由。 だが、レナの一言で少し我に帰った。 『いや・・・。 俺の探し人に似ていたのでな、ちょっと驚いたんだ』 『似てる?』 今度はレナが何かを考えていた。 『もし・・・そんなに似ているなら、 それはきっとクレセアだよ』 どうやらレナもクレセアを知っているようである。 『だって、私の双子の姉にクレセアっているから』 その言葉と事実にさらにディルは衝撃を受ける。 普通、瓜二つの他人の空似程度で そこまで驚かないものであるが ディルの驚き方には何か他にわけがありそうである。 『それは・・・本当なのか?』 自分の心の動揺を抑えるようにしてレナに聞きなおす。 レナもディルのちょっと以上の動揺に変な感じはしているが はっと気付いた。 『って! ちょっと待って。 ・・・ という事はディルはクレセアのことを知っているんだね!』 口調が早くなりレナも動揺していた。 しかし、レナの場合はうれしさの為の動揺であった。 『知ってる・・・。 いや。 ・・・。 いたな』 レナが嬉しそうなのを見て少し考えるように答えた。 『いた?』 過去形になったことを変に思ったが 『・・・って あ! 探し人かぁ』 探し人であることを思い出して、納得した。 レナは初めてかもしれない姉の手がかりに 少し興奮を抑えれないようであった。 というのは、レナとこのクレセアは親の都合で離婚して レナが父親にクレセアが母親に引き取られたという過去がある。 5・6歳の頃であったが、記憶には残っている。 そしてレナはクレセアという言葉を聞いて もう会えないと思っていた姉について もしくは母親についての手かがりが見つかったと確信したのである。 嬉しくならないはずがない。 しかしディルはあまり快い感じではないようである。 『って事は探してるって事は ここら辺にいるっていう事なの?』 どう考えてもピスカ山にいるわけはないのだが レナにはそこまで考える状態ではなかった。 ディルはそのことに答えづらいのか 、少しの間沈黙が過ぎた。 『生命石のあるところにいる・・・かもな』 辺りはもうすっかり暗くなって 少しだけ星が見え始めていた。 ディルの答えはディルの探す生命石と重なっていた。 しかし、レナはディルが生命石を探している事は知らない。 その答えにレナは困惑した。 また沈黙が続く。 ディルは完全に暗くなる前に明かりをつけるために 小さな薪を使って火をおこした。 しかし、動揺していたのか 周りのことを考える余裕がなかった。 いくら夜とはいえ 火の明かりが目印になることは言うまでもない。 レナは明かりに写ったディルの困惑した顔を見て はっとそのことに気付き火を消した。 『危ないよ。 またグローバーみたいな人がやってくるかもよ』 というとレナは腕を組むと 少し考えるような仕草をしたあと 思い直したように 持参していたかばんから電灯を取り出した。 電灯でも目立たないわけじゃないが 焚き火よりはましである。 レナが電灯をつけると ディル申し訳ないようにうなづいた。 何時の間にか焚き火の跡を挟んで 二人が向かい合う形になっていた。 そこは山の中でも緩やかな場所でもあった。 レナは申し訳ないようにしているディルを見て まずいことを聞いたと思ったのか その後また沈黙が続いた。 それ以上は何も話せなくなっていた。 それでも何とか話題を作ろうと先ほどの話をそらすように 他の話をするものの かみ合う感じはなかった。 一方でラウドたちも仮眠をとることにした。 しかしレビンは立ち止まったかと思うと 木に登りはじめる。 『上で寝てるのか?』 不思議な光景にラウドは興味津々である。 ラウドも別の木を登りはじめた。 頂上に着くと下のほうに少しだけ町の明かりが見える。 そしてあとは海である。 レビンがどこにいるのか探したら レビンは上を見ていた。 『星を見てるのか? 意外にロマンチストだな』 とからかったが 何も言わずに何か考えてるようであった。 -星の場所で現在地を知れ・・・か 方向音痴っていうのを直す為の一つの手段って言っとったな クレセアは。 そして、あの男・・・- その後、少し星を眺めると下に降りた。 それを見たラウドも同じように下に降りて その場所で軽く仮眠を取ることにした。 どうやら、レビンもクレセアを知っているようである。 このクレセアという人物が今後 ラウド以外の3人のキーになっていくのは もう少し先の話になる・・・はずである。 |