プフユー; よぉシ、それじゃア実際に「聖なる時間の書」を紐解いてみようじゃーないか。ちゃんと付いて来いよ。じゃぐぁーるどもに食われちまうからな。 いいか、この物語は全部で4つの部分から成っている。まずは、それぞれの部分の構成からいくぜ。大サービスだな。 |
||
イシュプールプヴェック; まず第一部。「天の心」と「地の心」が出会い、創造主と形成主とともに天と地と、人間とを創造していく物語だ。 そののちに二人の英雄、フンアフプーとイシュバランケーが登場する。彼らは、思い上がった半神の首長たちをやっつけていくのさ。 トリックスター的だねぇ。 |
||
プフユー; 第二部は、この二人の生い立ちについてだ。 父親、フン・フンアフプーと、その弟ヴクブ・フンアフプーがいかに死んだか、その妻となるイシュキックが、どうやって双子の英雄を身ごもったか、そして双子がどうやって天に昇ったかというお話さ。 |
||
イシュプールプヴェック; とと、ここまでが、今の人間たちが作られるより前の物語。 第二部のさいごで、太陽と月と星が現れて、世界は出来上がった。 第三部でようやく、まともな人間どもが作られる。トヒール(ケツァルコアトルと同)という名の神が現れて、人々に火を与えるのだな。 |
||
プフユー; 第四部は様々な部族の人間たちが登場する。マヤっぽい生け贄の儀式や、部族の移住についての記述が主なところだ。 最初に作られた4人の男たちがみな死んでしまい、その子孫たちの物語になる。最後のほうはほとんど、歴代王の名前の羅列で終わっているな。 |
||
イシュプールプヴェック; この書物の特殊なところは、神々が登場するのは第三部だということだ。それまでは、双子の英雄が主人公なワケだからさ、つまり太陽も月もない夜の世界、創造主たち以外はたぶん神々の一族しかおらず、しかも、それに対抗するように地下世界シ・バ・バル・バーが繁栄していた時代の物語さ。 |
||
プフユー; 第三部からは、歴史書…と言っても過言じゃァ無いもんな。 移住した民族や移住先の都市名、王名表までついてくる。 |
||
イシュプールプヴェック; おうよ。それゆえに、ポポル・ヴフはマヤの歴史書だと考える説もあるんだ。 しかしな、俺様的に、この書物の前半は、歴史ではなく「神話」、ある程度の歴史的事実が含まれるのは、後半だけだと思うのよ。 前半部分もある程度の史実を含む、シ・バ・バル・バーは実在したキチェー族のライバルだという話には、どうも疑問符がつく。 |
||
プフユー; 歴史から神話を作ることは出来ても、神話から歴史を再生することは出来ない。PCで画像処理する時の”不可逆圧縮”みてぇなモンだな(笑) |
||
イシュプールプヴェック; しかし、まぁ、神話と歴史の分岐点、細かい記述の解説なんざしてたら、夜が開けちまう。トウモロコシの人間どもが出てくる前に、俺様たちの役目を終えにゃならんのよ。 いいとこ取りで、つまみ食いといかせて貰おうよ。 |
*世界の創造者たち*
まずは創世の物語からだ。
最初の部分から、世界創造の神々の名前がまとめて出てくる箇所をひっぱってみるぜ。
暗闇のなか、夜のなかに、ただ不動と静寂があるのみであった。 そして創造主<ツァコル>と形成主<ビトル>、テペウとグクマッツ、アロムとクァホロムだけが水のなかに光り輝いていた。緑と青藍の羽根につつまれて光り輝いていた。それゆえその名をグクマッツといった。彼らは偉大な知恵者、偉大な哲人の資格を具えていた。こんなふうにして天があり、天の心があった。これが、とりもなおさず神の名前である。 「マヤ神話 ポポル・ヴフ」−A・レシーノス/林屋永吉・訳/中公文庫 |
何某か、崇高な神話的響きのある文章ではあるが、まァ、こんだけじゃ、何のこっちゃわかんねーだろうよ。
実は、この本、途中の意味不明な文章は全部はぶいちまって、単語の意味も不明瞭なものはカナ表記だけにとどめてるんだな。
レシーノスつつぅ人間は優秀な学者だったが、ぶっちゃけ、土着民の文化にどっぷり浸かってたわけじゃーないから、あんま詳しいところ、わかんなかったみてぇなんだなぁ。
何、じゃぁどうすればいいんだって?
任せときな。現地語の分かる奴が書いた本から、意味を探してきてやったからよ。
○創造主(ツァコル)と形成主(ビトル)はまんま、2柱の神だ。ツァコルが作ったもんを、ビトルが修正する。マヤの世界観は大抵が、対と成る存在を求める。このへんエジプトと同じだな。
○次のテペウとグクマッツだが、こいつは正しくはアハウ・テペウ(父なる天空)とチュチュ・グクマッツ(母なる大地)。
○アロムは「創造された者」、クァホロムは「創造された男」を意味する。クァホロムが男なら、対になるアロムは女かもしれん。
○グクマッツは、さきに言ったとおり「大地」だ。いわゆる地母神だな。物質の象徴ともされる。対する天空なるアハウは精神の象徴だとも。
各地の神話にあるとおり、創世は、天と大地の出会いから始まる。母なるグクマッツと父なるアハウが出会い、大地を創造した。ここの部分は、そう読めるだろう。
なお、テペウ・グクマッツがツァコル・ビトルと同一なのかどうかは、分からない。アロム・クァホロムと同一なのかも分からない。
次に、「天の心」というモノについて噛み付いてみるとするか。
こうして暗闇のなか、夜のなかで、フラカンと呼ばれる天の心は手筈をととのえた。 天の心はその第一がカクルハー・フラカン、第二がチピ・カクルハー、そして第三がラサ・カクルハーと呼ばれた。この三体が天の心である。 「マヤ神話 ポポル・ヴフ」−A・レシーノス/林屋永吉・訳/中公文庫 |
オイオイ、天の心って1体ちゃうんかい、三神合体ですか? ってなところだが、まぁツッコミは待ちねぇ。
これも、別の本から意味を探してきてやったからよ。
現地(グァテマラ)出身のアドリアン・イネス・チャヴェスという学者の説によれば、こうだ。
カクルハー・フラカン | キャクルハー・フン・ラカン(一本足の光) | 宇宙(銀河) | 天の心=フン・ラカン(一本足) |
チピ・カクルハー | チップ・キャクルハー(小さな光) | 水(雨) | |
ラサ・カクルハー | ルッシュ・キャクルハー | 太陽 |
−マヤ文明 新たなる真実/実松克義/講談社 より
なんで天の心が一本足なのかっつぅと、天空は、北極星を中心にしてグルグル回る、巨大な「ろうと」に見えたから、らしい。
天文学に秀でた人々にとっちゃ、統制のとれた星の動きは、ひとつの大きな意志によって動かされているような気がしたんだろう。
現在においても、マヤ・シャーマンは「天の心」たるフン・ラカンに祈るらしい。
でもって次の意味不明な3つの名前が、それぞれ、銀河と水と太陽だとすれば、真っ暗な空に出現した最初の3つとして分かり易くなる。
確かにな、空で目立つもんつったら夜は銀河、昼は太陽だな。(何で雨が入ってるのかは知らんが…トゥラロックとか、雨の神もいることだし、現地の気候によるのかも)
しかし天の心は、天と大地−アハウ・グクマッツとは違うモノらしい。「運命」とも呼ばれているから、上りもっとエラいものかもな。
この太陽も、第二部で登場する太陽とは違うようだしな。微妙な矛盾を含むのも、神話の特徴だな。
*人間の創造者たち*
じゃあもう一つ、人間がどうやって生まれたかについても説明しようよ。
最初、神々は泥で人間を作ろうとしたのさ。ところが巧くいかなくて、イシュピヤコックとチラカン・イシュムカネー、日の祖母、暁の祖父と呼ばれている二人に、人間作れーと言いつけたのさ。この二人は偉大なる知恵者で占い師だ。そして、のちに大活躍する双子の英雄たちの祖父母にあたる。
彼らは木で人を作った。こいつぁ泥の人間より丈夫だったが、心というもんが無かった。
そこで神々は木の人間たちを滅ぼしてしまう。そして、その子孫たちは猿となって、今も森の中に住んでいるのだという。
その後、再度の人間づくりが試みられるのは第三部に入ってからだ。
と、いうことは、そもそも第一部の中にある、創世の物語と、双子の英雄の物語は最初は別々の物語だったんじゃないか、ということだ。何せ木の人間たちが滅ぼされたあとも、人間(いや、神なのかもしれんが、登場人物)が大量に出てくるからな(笑)
人間づくりは双子の英雄たちが天に上ったあと、再開される。
こんどは、とうもろこしが原材料だ。とうもろこしから、最初の4人の男たちが作られ、それぞれの妻が作られた。この人間たちは最初、賢すぎたが、それでは神々に近くなりすぎるというので、目を曇らされ、普通程度の知恵しか持てなくなったんだ。
さあ、これが人間創造の物語だ。人間たちは増えていき、部族に別れ、言葉も分かれていった。崇める神も違った。
最初の男たちのもとにトヒールをはじめとする神々が下っていったが、この神を崇める部族も、崇めない部族も、また盗もうとする部族もいたってことさ。そして、神々の作った、とうもろこしの人間以外と思われる、よその部族もやってくる。
それが、第三部後半から第四部のお話さ。
イシュプールプヴェック; と、まァ、一部だけダイジェストで流して、こんなカンジだ。 分かったかね? |
||
プフユー; おいイシュプールプヴェック、オレたち、どうやら調子に乗って、じゃぐぁーるどものほうを寝かしつけてしまったようだぜ。人間どもはまだピンピンしてらぁ。 |
||
イシュプールプヴェック; しまった。じゃぐぁーるどもは言葉を話すことも、天の心を崇めることもできない連中だっけな。 |
||
プフユー; そうさ、最初に作られたもんの、全く知恵が無かったために、殺され、生け贄にさえ、食べられてしまわねばならない運命を背負ったのさ。 |
||
イシュプールプヴェック; と、いうことは、どうだいプフユー、もしかして奴らは役立たずかい? |
||
プフユー; まあ、いいじゃあないか。まだ次の館が残ってる。 さあ人間ども、門をくぐるがいいさ。次は”焔の館”、すわりどころを間違うと、ケツに火がつくぜ。ひひひ。 |