■アイスランド・サガ −ICELANDIC SAGA |
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フロシは、シグフースの息子たちの他に手勢を集め、夏の終わりにニャールの一家に襲撃をかけることを画策する。ニャールの息子たちの側もそれを知っていたから、常に武装した者たちを集めておいた。ニャールの養子となっていた、ホスクルドの息子インギャルドは、フロシたちとの盟約に従ってニャール一家襲撃に加わることになっていた。
その彼のもとに、姉のフローズニューが訪れる。
フローズニューは、そんな恐ろしい計画に参加するのはやめなさい、かつてニャールの庶子ホスクルドがシグフースの息子たちに殺された時、被っていた帽子はこれだ、と、血まみれのリンネルの帽子を彼に見せる。
そう、この争いは、互いの家系に属する、同名の者ふたりを殺害したことによる、長い諍いの結果だったのだ。
インギャルドはニャールに逆らうのはよそう、と言い、フローズニューは弟から聞いた話をすべて、ニャールに話す。だが、彼らは、ただその時を待つばかりだった。
襲撃の前兆。
灰色の馬に跨った「幽霊」が、歌いながら空を駆けていく。(もちろんオーディンのことだ)
ニャールの家の近くに住む、未来を見通す力を持つ老婆は、家の裏手に生えているはこべが、やがてニャールが焼き殺されるとき火をつける材料に使われる、と予言して、はやくはこべを始末するように言うが、ニャールの息子たちは応じない。
ニャールは血まみれの食卓を幻視するが、息子たちは、立派に戦って死んでいくことを考える。
カーリは、もし生き残ったら、殺された者のかたきは討とう、と、ニャールの息子スカルプヘジンに約束する。
そして襲撃の時は来た。
フロシたちはニャールの家に火を放ち、多くの者が中で焼け死んだ。ただカーリだけは生き残った。
彼はすぐさま血の復讐のための手勢を集める。あのモルズに協力を求めたのだ。インギャルドもいた。スケッギの息子ヒャルティも加わった。
カーリは、焼き討ちによって死んだ者たちの骨を集めるため、焼け落ちたニャールの屋敷に行く。そこでは、牡牛の皮の下から、生きていたときと変わらない、ニャール夫妻の死体と、目を見開いたまま残されていたスカルプヘジンの死体が見つかる。人々はこれを、神の奇蹟だと言った。
アースグリームは、この復讐に命をかけると言う。
カーリは今まで、敵の悪口を言ったことも、脅したこともない。だが、その彼が、今度ばかりは違っていた。夜も眠れず、ニャール一家殺害を呪うケニングの歌を作るくらいに。
フロシは不吉な夢を見ていた。
山の中から現れた男が、次々と仲間たちの名前を呼ばわっていくというものだ。名を呼ばれた者は、おそらく死を免れ得ない。
それでもフロシは人々に援助を求めつつ、民会に出る。カーリ側とフロシ側につくもの、ここからは多くの島の住民たちが登場する。
首長スノリは、おごそかに言った。
どれだけの援助をとりつけたとしても、民会で互いの非を鳴らすなら、あなたがたはどちらも我慢できなくなり、結局は戦いになるのだろう、と。互いの身内を殺しあったことには、変わりがないのだ。
さて民会が公示される。
被告フロシ側にはエイヨールヴ、原告モルズ側にはアースグリームがついている。さらにアースグリームの息子、ソールハルは、かつてニャールから法律についての多くを学び取った優秀な弁護人だった。
フロシはエイヨールヴの知恵によって何度も相手の言い分を崩そうとするが、ソールハルの知恵は何度でもそれを覆す。
だが最後に、モルズは大きな失敗を犯した。それによって、ニャール殺害の訴えは棄却され、逆にモルズが追放となってしまう。
それを聞いた途端、ソールハルは激怒した…かつてスカルプヘジンから貰った槍をとりあげると、全島集会へ乗り込んでいったのだ。
瞬く間に、集会は殺し合いの怒号に飲まれていく。
フロシとその一党は逃げ出したが、エイヨールヴをふくめ、多くの者が殺された。そして、スノリ一家の殺害と、このフロシの一党の殺害とは、相殺されるようにとの判決が下される。
だが、この和解に応じない者もいた。カーリもそうだった。
彼とシグフースの息子たちは結局争うことになり、シグフースの息子たちと、その息子たちは殺される。
ニャールが死んでしまった今、ここから先、語るべきことはそう多くは無い。
カーリは焼き討ちで殺された、自分の息子のひとりとニャールの一族のため、焼き討ちに加わった者たちを次々と殺す。だが、フロシはまだ生きていた。
二人は和解せぬまま、それぞれに島を離れ、ローマへの巡礼や遠征など長い長い旅を経て、再びアイスランドへ戻ってくる。
老いた日の再会。二人はようやくここで和解する。
長い長い物語は、ここで終わる。