アイスランド・サガ −ICELANDIC SAGA

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みずうみ谷家の人々 4

インゲムンド殺害と息子たちの復讐



 フロルレイフは、インゲムンドの屋敷に来てからも、態度を改めようとはしなかった。
 みずうみ谷の川には鮭が多かったが、フロルレイフは、許されたとき以外にも勝手に網を張り、魚を取っていた。しかも、こともあろうに、身を寄せているインゲムンドの屋敷の下男たちが注意したのに腹をたて、石を投げて追い払ったのだ。

 下男たちからこれを聞いた、インゲムンドの息子のひとり、気性の荒いヨクルは、奴に思い知らせてやると言い放ち、飛び出して行ってしまう。
 もうひとり、聡明な兄のトルステインも腹はたてていたが、フロルレイフは父の客人なのだから、このことは慎重に扱わなければならないと思っていた。
 インゲムンドは、喧嘩っ早いヨクルがフロルレイフとことを起こさないよう一緒に行け、と、トルステインに言う。
 「でも父さん。僕だって、ヨクルとフロルレイフが取っ組み合いにでもなったら、手綱を取れるかどうかは分からないよ。」
こう答えて、トルステインは家を出て行った。
 ここでも、人々はフロルレイフに対する不満を限界まで溜め込んでいたのだろう。

 川に着いたインゲムンドの息子たちは、フロルレイフに向かって警告する。
 お前はお袋の魔法を当てにしているんだろうが、あんまり思い上がるな。お前とおれたちとは対等じゃない、と。 
 だがフロルレイフは聞く耳を持たず、諍いののち、石の投げ合いを始めてしまった。インゲムンドは、この争いを止めるため、老いた体で馬に乗り、川へと急いだ。
 息子たちは、争いを好まぬ父親のやって来るのを見ると、手を止め、川から遠ざかる。しかし、フロルレイフは違っていた。
 彼は槍を手にするや、川べりをやって来るインゲムンドめがけて、投げつけたのである。

 自分が身を寄せている家の家長に手を出すということは、自ら、保護を無効にすることである。フロルレイフは、その短気さでもって、身元引受人を襲うという、とんでもないことをしでかしたのだ。

 槍が胸を貫いたのを知ったとき、インゲムンドは、すぐさま召使に自分を家に連れ帰るようにと言った。彼は、死を悟っていた。自分の高座で死ぬことを選んだのだ。
 インゲムンドは最後に召使にいいつけた。
 「お前には、もう、ものを頼むことはないだろうから、よく聞くのだ。川にいるフロルレイフのもとへ行き、すぐにどこかへ立ち去るようにというのだ。わしは一度、あの男を引き受けたのだから、ここで見捨てるわけにもいかんだろう。」と。
 自分が死んだことが分かれば、息子たちは、復讐のためにフロルレイフを殺すことが分かっていたからだ。

 そして彼は、高座に座ると、息子たちが戻るまで灯はともさないようにと言いつけ、息を引き取った。

 召使はフロルレイフの所へ行き、主人を手にかけた恩知らずだが、主人の命令なので忠告をする、殺されないうちにどこかへ行けと伝えた。フロルレイフは召使に礼も言わず、そそくさとその場を立ち去ってしまった。

 一方で、トルステインとヨクルは家に戻ってきて、灯がついていないことを不審に思っていた。しかも、なにやら床が濡れている。
 急いで灯をつけてみると、なんと、高座の上で、父が血まみれになって死んでいるではないか。

 息子たちはすべてを悟った。そして、召使の姿が見えないことで、すでに父がフロルレイフを逃がしてしまっただろうことも知る。
 聡明なトルステインは、この報復のためには、じっくりとことを運ばねばならないと言った。
 「われわれの父は、フロルレイフが自分の金であがなうことは出来ない。」
この時代、殺人は、ウニの息子オッドの時のように賠償金であがなわれるのが普通だったのだ。


 息子たちは、父インゲムンドを首領にふさわしく栄誉をもって葬った。
 そして、復讐の果たされないうちは決して父の高座に座らないことを誓い、遊びに出ることもなく、会合にも出席することを止めた。

 彼らはフロルレイフを追い詰めることだけを考えていた…。

 インゲムンドの息子たちと、魔法使いの母を持つフロルレイフとの戦いの物語は、また、次の機会に。



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