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アイスランド・サガ
−ICELANDIC SAGA
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みずうみ谷家の人々 3
インゲムンドの移住
女の予言を忘れられないインゲムンドは、ラップ人の占い師たちを雇い、失われたフレイ神の像を探させる。だが像は見つからず、占い師たちは、自分たちが見た光景…三つのフィヨルド大きな湖、荒涼とした尾根を語り、その像は、尾根の下にあるのだ、と言った。そして、この像を見つけたければ、インゲムンド自身が探しに行くほかないのだ、と言った。
フィヨルドと湖は、アイスランドを意味していた。
フレイ神の像がその場所を指し示したのだとすると、インゲムンドは、その場所へゆかねばならない。
運命を受け入れることを決めた彼は、祝宴を催して、人々を招待し、アイスランドへ行くことを告げる。多くの人々は、指導者であるインゲムンドとともに行くことを決めた。
移住したインゲムンドたちは、先にアイスランドを訪れていた義兄弟のグリムによって迎えられる。一冬をグリムのもとで過ごしたインゲムンドは、春になると居住地を探し始め、ラップ人の占い師たちの告げたのと同じ風景を持つ場所を見つけて、ここを住まいと決めるのだった。
彼は湖の側に、神殿を持つ屋敷をたてた。
そして、まさに予言のとおり、屋敷の柱をたてるために掘られた穴の中から、あのフレイ神の像が見つかったのである。
(湖の側に屋敷を立てたことから、インゲムンドの家系は「みずうみ谷家の人々」と、呼ばれるようになる。)
移住はうまくいった。
インゲムンドについて来た人々は屋敷のまわりの土地を手に入れ、何年か立つうちに、牧場には家畜たちが群れなすようになっていた。村が出来、インゲムンドは民会の主宰者となって、人々をよく治めた。
屋敷にある神殿には、インゲムンドが、とあるノルウェー人を奸智にかけて無償で譲り受けた、エッテタンゲと名づけられた立派な剣が収められている。
何もかもが上手く行っているように見えた。
だが、ふたりの息子、トルステインとヨクルが一人前に成長するにつれ、インゲムンドは年老いて、かつてのような肉体の勇敢さは無くなっていた−−−
そんなとき、禍いの種はやって来る。
インゲムンドの義兄弟、セームンドの甥である、フロルレイフという名の男が、母親のリョットとともにアイスランドにやって来たのだ。
義兄弟の親戚ということは、自分の親戚とも同等である。
もてなさないわけにはいかなかったが、インゲムンドよりも、セームンドがこの男の来訪を好まなかった。
セームンドは言う。「お前と親戚であることを拒みはしないが、お前は母親よりも高貴な父親を持っていて、しかもお前自身は母親に属しているのではないか?」と。
分かりやすく解釈すると、「フロルレイフとは親戚だが、フロルレイフの母親、リョットは身分違いで、親戚とは思いたくない」と、いうことだろうか。
このリョットという女は魔女で、魔法を使うことで人々に忌み嫌われていたのだ。
フロルレイフは横柄な男で、何かにつけて人々といさかいを起こし、多くの人々の恨みを買っていた。しかし、母親の魔術によって守られていたため、容易に傷つけることは出来なかった。
あるときフロルレイフは、ウニという農夫の家へ行き、そこの娘を自分の情婦にしてやる、と言い出した。農夫ふぜいの娘にはそれで十分だろう、と。
ウニは息子のオッドに、あの男をどうにかしろと言うのだが、オッドは、フロルレイフには魔術に長けた母親がいるため、片付けるのは困難だ、と答える。オッドとて、姉妹がいいようにされるのを黙って見ているつもりはなかったが、我慢していたのだ。
そうこうしているうちに、オッドとフロルレイフの仲はますます険悪になってしまった。
オッドはセームンドのもとへいき、すでに多くの人々が苦情を持ち込んだだろうが、フロルレイフがこの地方に与えた不安と侮辱は大きすぎる、と文句を言う。
みな、セームンドの親戚だから我慢しているのだ、と。
セームンドはなにも答えない。オッドの殺意を知りながら、親戚を庇い立てしなかったのだ。
一方で、フロルレイフは母親から魔法のかたびらを貰い受けていた。このかたびらには、刃が通らないのだ。
オッドは下男たちとフロルレイフを待ち伏せし、4人がかりで襲ったが、この魔法のかたびらのせいで、傷つけることが出来ない。逆に、フロルレイフによって斬り殺されてしまう。
この殺害で、農民たちはついに辛抱を切らした。
人々はセームンドのもとへ押しかけて、あの男をどうにかしてくれ、あんたの親戚なんだろう、と口口に責め立てた。
セームンドも、これ以上かばいきれなくなって、オッド殺害に対する賠償金を払い、フロルレイフの屋敷を、息子を殺されたウニの所有とし、殺人の罪を犯したフロルレイフを地域から追放した。
しかし、追放したとはいえ、フロルレイフは親戚だ。
セームンドは、インゲムンドに、この男を引き受けてくれないか、と頼み込む。インゲムンドは迷った。自分がよくても、息子たちは、この男と決して打ち解けないだろう。
それでも彼は、友情のために、この頼みを聞き入れることにした。
そしてこれが、彼の死をも招くことになるのだが… それはまた、次の機会に。
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