アイスランド・サガ −ICELANDIC SAGA

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グレティルの青年時代2



 グレティルはトルフィンのもとを離れ、トルケルという男の商船に乗り、冬の間この男のもとに滞在することになった。
 トルケルのもとには、トルケルの遠縁に当たる、ビエルン(ビョルン)という男がいた。気性は荒かったが、それほど腕がたつわけではない。
 グレティルとビエルンの仲は悪かった。

 冬のはじめのことだった。
 熊が出て家畜を荒らすというので、トルケルは身内たちを連れて熊狩りに出かけた。ビエルンは自分が熊狩りに失敗した腹いせに、グレティルに意地悪をしかけるが、グレティルはそれを気にせず、熊を仕留める。
 持ち帰った熊の前足を見て皆は納得するが、ビエルンは決して謝ろうとはしなかった。

 さて、春になって、グレティルたちは北へ向かい、ビエルンたちは西を目指して旅立った。しかし、船をガルタルという港につけたとき、そこで二人はばったり出会ってしまう。以前の決着をつけようというグレティルに、そんなことはもう時効だ、というビエルン。グレティルは、挑発のための歌をいくつか作り、ビエルンを追い詰める。
 しぶしぶ戦いに応じたビエルンだったが、彼ではグレティルにかなうはずもなく、倒れて死んだ。このことはすぐに、ノルウェーの執政を預かっていたスヴェイン候に知れた。

 候の侍従の仲に、ビエルンの兄ヒヤルランディ(ヒャランディ)がいた。
 ヒヤルランディは、弟の命は賠償金ではあがなえないと息巻くが、グレティルに家族を守ってもらった恩のあるトルフィンが弁護したため、グレティルは追放ではなく賠償金という形で罪を免れる。ただ、ヒヤルランディだけは、この判決に納得していなかった。

 ヒヤルランディはグレティルを暗殺しようと付けねらい、ある日、グレティルを待ち伏せして襲撃した。
 とっさにグレティルをかばったソルフィンの身内が代わりに重傷を負い、最初の不意打ちを逃れたグレティルは、剣を抜きざま、ヒヤルランディを斬り捨てる。かくて再び血が流され、グレティルはまたも法廷へと召喚された。
 ここでの判決は、執行猶予だった。
 猶予期間の間、グレティルは異母兄弟のトルステインをたずね、支援を求める。同時に、スヴェイン候は、殺されたビエルンとヒヤルランディの長兄、グンナルに打診していた。候は、グレティルが法を乱すものだとして、嫌っていたのである。

 打診を受けたグンナルもまた、手勢を率いてグレティル殺害を企てるが、あえなく失敗し、弟と同様、自身が命を失う。
 正当防衛だったが、グレティルを嫌うスヴェイン候が理解を示すはずもない。
 グレティルの支援者・トルフィン、遊び仲間のベルシ、異母兄・トルステインはすぐさま行動に移し、グレティルの代わりに賠償金を出そうと提案するが、グンナルをたきつけた張本人であるスヴェイン候は不機嫌だ。
 もはやグレティルへの敵意を隠そうともせず、軍を率いて出たスヴェイン候、迎え撃つグレティルと支援者たち、あわや戦闘になりかけた時、心ある人々が候を説得し、なんとか全面衝突だけは避けられた。

 グレティルは、トルフィンとともに故郷アイスランドへ帰っていく。
 そして、このときグレティルを支援した者たちのうち、ベルシをのぞく者たちは、以降、候の寵愛を受けることは無かったと言う。

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 話は少し、グレティル本人から離れる。
 その頃、アイスランドでは、グレティルの父・アースムンドが大地主となって、親戚にあたるマークの子・トルギルスを養育していた。
 トルギルスは勇敢だったため、海岸の漂着物でよく言い争いになる場所にも臆せず出かけていった。
 夏、その、揉め事になりやすい海岸に、一頭のクジラが流れ着く。トルギルスは出かけて行って皮を剥ぎ、肉を手に入れようとするが、そこで所有権を巡って争いが起こってしまう。相手は、法律を気にも留めないならず者の義兄弟、ハーヴァルの子トルゲイルと”黒い眉の詩人”トルモードの二人だ。
 激しい戦いのすえ、トルギルスはトルモードの刃にかかって倒れる。当然、アースムンドは訴訟に出る。

 訴訟の場において、トルゲイルの親戚のトルギルス(殺された者と名は同じだが別人)は、反論を試みるがすべて覆され、結局、トルゲイルは追放刑となる。
 グレティルがアイスランドへ戻るのは、この後のことだった。

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 手に負えない悪がきだったグレティル、人を殺して追放された後、久しぶりの故郷だった。離れていたのはたった3年。だが、そこに住む人々は以前とは随分違って見えた。
 グレティルは、少年の頃、一度だけ負けた年長の少年、アースムンドを訪ねる。
 「オレはノルウェーで名を挙げてきた。あんたはどうなんだ」「オレか? オレは、ここで平和に農夫をやっている。」
 再会した、幼かりし友人からはあの日の輝きは消え、いつのまにか、ありふれた大人になっていた。投げ飛ばされて悔しかった思い出も今は遠く、今では、互角に力勝負を出来るまでになっていた。

 グレティルはアースムンドのもとで、風のうわさに聞いていた、バルディという男に出会う。「ヘイダルヴィーガー・サガ」の主人公で、グレティル同様、有名な人物である。そして、近いうちに弟ハルの敵討ちに向かうことになっていた。(それは別のサガで語られている。)

 バルディは、友人アースムンドには手をだすな、と忠告し、グレティルは、かつての決着をつけることを、渋々ながら諦める。
 かわりに、バルディが行う敵討ちに自分も参加させろ、というグレティルだったが、バルディの養父トーラリンが承知せず、置いてきぼりをくらってしまう。癪に障るグレティルはバルディに勝負を挑んだが、バルディは挑発には乗らない。二人の運命はそのまますれ違い、二度とまじわることはない。


 その後グレティルは、兄アトリの馬を率いて、コルマークの家の馬たちとの闘馬に出、ここでもやはり争いを引き起こすが、両家が仲たがいするにとどまり、その後、大きな争いとはならなかった。
 暴れん坊のグレティルには、平和な日々さえわずらわしかったのか。

 故郷に帰ってもそこに居場所はなく、どこかに活躍の場はないかと目を光らせる日々。
 ある日のこと…、彼は、ついに人生最大の試練と出会う。

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