ニーベルンゲンの歌-Das Nibelungenlied

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謎その5.グンテルとジーフリト、
ふたりの王子の運命は…?



 グンテルとジーフリトといっても、加害者と被害者の名前ではない。

 このふたりはそれぞれ、ニーデルラントとブルグントの王子サマである。
 ゲルマン民族の中では、親戚の勇敢な人の名前をもらって子供につけるというのはアリガチな命名パターン。ジーフリトとクリエムヒルトの間に生まれた子供には妻の兄・グンテルの名が、そして、グンテルとプリュンヒルトの間に生まれた子供には、夫の義弟・ジーフリトの名が与えられている。
 だが皮肉にも、その何年か後、まだ子供たちが幼い時、グンテルの父・ジーフリトは、ジーフリトの父・グンテルとその配下によって殺害されてしまうのである

 互いの父親の名をテレコにつけたところが、その父親どうしが殺しあってしまうとは、なんたる悲劇。
 詩人、絶対狙ってた。あとあと悲劇になるよう仕組んでたね、きっと。

 さらに、グンテルの母・クリエムヒルトは復讐のため子供捨てて異国に嫁いでしまうのだから、悲劇も倍増。
 その復讐は見事に完遂され、ジーフリトの父と親戚一同は皆殺し。これは多感な少年たちにとっちゃあイタイだろう。幾ら何でも。
 後編に入った時点で、ふたりの王子はどちらも10歳ちょい、いい加減、物事の道理もわかる年令には達していたはずである。そのふたりが、互いの両親が殺しあったことを知ったらどうするだろうか。

 意外と、「ケンカは両成敗だ」と水に流してそうだ…と思うのがひとつのパターン。
 自分の名前がイヤだとグレてしまうのもひとつのパターン。(中世の騎士道に自殺は無かったものと考えて)
 また、グレて旅に出たふたりが互いの素性も知らず友人関係となり、あとで事実を知って葛藤に悩むというオイシイ設定も考えられる。

 しかし、何にせよ、彼らは無関係なまま一生を終えることは出来なかったのではないだろうか。
 続きをつくろうと思えば幾らでも創ることが出来る、けれど過去は何一つ変えることは出来ない。残酷で、物悲しくて、それでいて想像してみずにはいられない未来―――。

 前項のオルトリエプの場合と同じく、結論の出ない謎ではあるが、もう1人の「グンテル」と「ジーフリト」の物語、それこそが、詩人が未来に投げかけた、無限の問いかけのひとつだったのではないだろうか。


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