世の中には、決して解けない謎も或る。
オルトリエプとは、エッツェルと再婚し、フン族のもとに嫁いだクリエムヒルトが産む王子の名で、原文(ドイツ語。当然、私にゃ読めない)の挿絵を見る限り、登場時は小学校低学年というところ。しかし、登場するとき、自分からではなく従者に「抱えられて」出てきたと表現されているところから考えると、5歳くらいか、それ以下だったのだろう。
王子様といえば幸せそのもののお坊ちゃんというのが定番だが、この子の場合、本当に哀れである。なんせ両親は愛の無い結婚、母親は復讐のために嫁いできた女なのだから。
そして、そんな母の陰謀のために使い捨てられて、出てきたかと思うと、何もしないままハゲネに殺されてしまうのである。
位置的には重要なはずなのに、セリフも無くアッサリ殺されてしまったのでは、彼が一体どういう人物だったのか、知りようも無いのである。
ひとつの謎は、「そもそも、どーしてハゲネがオルトリエプを殺さなければならなかったのか」というところである。
仮説としては、
- 直前の、エッツェル王の親バカっぷりが気に障った。(ありがち)
- クリエムヒルトが、自分の弟ダンクワルトに闇討ちをしかけていたことを知り、怒り心頭になったとき、たまたま近くにいたから。(やつあたり)
- 今や敵となったことが明白なフン族の王族は、殺さねばならなかったから。(戦争だから仕方ない)
…などというものが考えられるのだが…。
それにしたって、人質にするとか、もう少しマシな方法はとれなかったものだろうか。オルトリエプを盾にすれば、城から楽に脱出できたかもしれないのに…
…あ、でも、この時すでに手段を選ばなくなっていたクリエムヒルトなら、自分の息子の命を見捨てて戦いを挑んでいたかもしれない。ううむ、どのみち死ななければならない運命だったのか?
ハゲネが短気なことはクリエムヒルトも知っていたはずである。
そのハゲネのそばに、わざわざ息子を置き、しかも、その時に闇討ちがバレるように仕向けていたということは何ゆえか。もしかすると彼女は、ハゲネが自分の息子オルトリエプを殺すことを、最初から狙っていた?
そうすることによって、ブルグント族とフン族が、もはや後戻りできない戦いに巻き込まれていくことを狙っていた…?
だとすれば、オルトリエプは、そのための道具としてだけ生まれた存在だったとも考えられる。なんて哀れな。
せめて、近くにいるのがギーゼルヘルあたりだったら、まだ、人質として生き残れたかもしれないのに。
もうひとつの謎は、オルトリエプが、もし生き残っていたら、どんな人になっていたのかということ。やはり母似の美形だろうか…
それも、今となっては、もはや解くことの出きぬ永遠の謎なのだが。
想像力豊かな文系探偵諸君には、彼の短い生涯を思って、まくらを濡らしてもらいたい…。