次に挙げるべきはコレ。やはり疑問は素朴なところから入るべきであろう。
みんな無意識に「ニーベルンゲンの歌」なんて呼んでいるが…そもそも、ニーベルンゲンとは何なのだろうか?
ニーベルンゲンとは、この物語の前にジーフリトが単独の冒険で征服し宝を奪った「ニベルンゲ族」のことである。(物語中では、ハゲネによって少し語られるのみ)ノルウェーに住んでいたとされる、ニベルンク王とその一族をあわせて「ニベルンゲ族」と呼び、”ニーベルンゲン”は、その現代語形。
しかし、「ニーベルンゲンの歌」の中では、ニベルンク族はほとんど出てこない。いわば付け合せの存在である。主人公はブルグント族なのだから、正しく題名をつけるとすれば、「ブルグントの歌」になるはずではないのだろうか。
そんな疑問を持った学者さんも数多い。参考までに諸説を上げてみると、
1.ジーフリト暗殺後、その妻であるクリエムヒルトとともにブルグントの国にとどまったニベルンゲ族が多く、両者が融合したため。
2.ニベルンゲの名は、固有民族に与えられるものではなく、「ニベルンゲの財宝」を所有した一族に冠されるものなので、最終的にその財宝を手に入れたブルグント族がニベルンゲ族になってしまった。
3.ニベルンゲには「霧の子ら」という意味があり、霧深い北欧にはありがちな名前だったため、大して意味はない。
また、ドイツ語ではNibelが「霧」だが、北欧語ではNiflung(ニヴルング)となり、もともとの意味としては「地中に住む人たち」だったのではないか、との説も在る。
4.財宝を持つものは欲のために滅び行くさだめにあり、ニベルンゲの宝を手に入れたブルグント族の、霧とともに消え逝く運命を予兆している。
…など。はっきりした回答は出ていないようだ。
さて、ここで、上の諸説のうち、2を採用し、「ニベルンゲの財宝を手に入れた者がニーベルンゲンと呼ばれる」ことにしましょう。
ハゲネによってライン川に沈められ、永遠に誰にも見つかることはないニーベルンゲンの宝、アナタがそれをたまたま手に入れてしまったとしたら?
ほーら♪ アナタも今日からニーベルンゲン族です。滅び行くさだめが楽しめるかも?(楽しめんっちゅーに)
【解決編】
と、いえるかどうかは分からないが、「ニーベルンゲン」に相当する単語は、「エッダ」の時点で既に登場している。
「ニーベルンゲンの歌」の原型となった、エッダに収録されたいくつかの歌の中で、グンナル(グンテル)らの一族は、”ニヴルンガルの一族”と呼ばれる。
グンテルらの一族は、「ニーベルンゲンの歌」ではブルグント族と名前を変え、本拠地も変わったわけだが、話の舞台が移動しても、一族の意味は変わらなかったのだと考えられる。
エッダにおける物語が「ニヴルンガル族の滅亡の物語」であったように、この前段階から物語を作り上げた詩人にとっても、新しい物語が、「ニーベルンゲン族の滅亡の物語」なのは当然だった。それゆえに、深い理由はなく、新たな物語のタイトルも「ニーベルンゲンの”災い”」と、なったのではないだろうか。