ニーベルンゲンの歌-Das Nibelungenlied

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ドイツ叙事詩 ニーベルンゲンの歌


【基本データ】
成立年代;紀元1200年頃(正確には1203年〜1204年頃と推測される)
著者;不明の詩人
(ハインリッヒ・フォン・オフテルディンゲン、コンラート・フォン・フッセスブルンネンなどを著者とする説がある。その他、多数者による共著説なども)
使用言語:中期高地ドイツ語



「ニーベルンゲンの歌」ジーフリトとクリエムヒルト−ユーリウス・シュノル作「ニーベルンゲンの歌」は、いくつかの史実を元に、ドイツから北欧を経て発展していった「ニーベルンゲン伝説」の一つです。
代表的な伝説のモチーフは、いわゆる北欧神話の原典である「詩のエッダ」の中に出揃っており、それを元に12世紀のドイツで宮廷風に語りなおされた叙事詩となります。
→各エピソードの相違表はコチラ

「詩のエッダ」ではオーディンをはじめとする古き神々の時代の神話として扱われ、登場人物たちも神々との血縁関係が設定されていたり、神話的な力を持っていたりしましたが、「ニーベルンゲンの歌」はあくまで宮廷物語なので、神話的な設定は極力排除され、主人公ジーフリトも由緒正しく育ちのよい王子ということになっています。また、この物語が作られた時代のドイツは既にキリスト教圏だったため、人物の神話的な属性や、神々に与えられたアイテムなどが消失し、かわりに宮廷風のモチーフが多く練りこまれるようになりました。

しかしながら、登場人物はなおも古き神々に仕えた部族の価値観を受け継ぎ、血なまぐささや名誉を重んじる伝統などが、端々に残されています。

「ニーベルンゲンの歌」の原典は明確に前編と後編に分かれてはいませんが、慣例として、第19歌章以降を後半として区切るようになっており、邦訳(岩波文庫)についても慣例に従って前編・後編で出版されています。前編は壮麗で宮廷的、後編は血みどろの戦いによる熾烈なシーン、と、雰囲気が異なります。華麗なる貴人たちの暮らし振りから一転、裏切りと英雄の暗殺、復讐に燃える英雄の妻クリエムヒルトの罠、壮絶な戦いの果てに散ってゆく勇士たち…。

その流れは怒涛の河となり、目に浮かぶ光景は、壮大な映画を思わせる出来となっています。
邦訳が手に入りづらかったり、詩文の形態が最初はとっつきにくかったりしますが、ぜひ邦訳を通読してみることをオススメします。


読むポイントは、単純な正義と悪の物語だとは思わないこと。
序盤に登場するジーフリトが「英雄」とは限りません。クリエムヒルトは「悲劇のヒロイン」では無いかもしれません。
卑劣と見えた者が最後には正義に変わるかもしれませんし、もしかすると、登場人物たちの誰もが間違っているか、誰もが正しいのかもしれません。善悪が入り混じり、それを超越した先に読み手だけの”答え”が存在します。

力強くも、人と人の戦いを歌い上げた、中世ドイツ最高の物語をお楽しみください。


【基本資料】
岩波文庫『ニーベルンゲンの歌』前編、後編  相良守峯 訳 1955初版

お手軽に手に入る完訳。資料によって、固有名詞は多少異なります。
(例 ウォルムス→ヴォルムズ、ウォルムズ)


「ニーベルンゲンの哀歌」について (2024/1/7追記分)

原典の紹介で出しているA、B、そ、3種類の写本のいずれにも付随された、本体とは別の作者による「外伝集」のような位置づけのもの。
成立は「歌」本体とほぼ同時であり、本体を書かせたパトロンが、それを世に出すにあたりキリスト教的な要素を付け加えるべく別の作者(おそらく聖職者)に依頼して書かせたものではないかとされる
あまりにも異教的かつ北欧神話寄りの価値観になっている本体の「歌」写本に対し、補足的な意味で新しい伝承を付け加えている。また、本編でブルグント一行が通過していたパッサウの町の司教が情報源だとすることにより、伝説が歴史的事実だったかのように構成されているため、「歌」本編に残る北欧神話的な要素は「哀歌」では故意に省かれている。


具体的にどうキリスト教化されたかというと、本編の「歌」では、教会はプリュンヒルトとクリエムヒルト、二人の王妃の争いのためだけの舞台だったのだが、「哀歌」では司教やミサが登場する。
本編終了後の物語がメインなので、エッツェル王の宮廷に積み上がる死者たちがキリスト教的な手続きに則って埋葬されるところからスタート。本国で悲劇の顛末を聞いたプリュンヒルトがイエス・キリストについて語り、グンテル王との間に出来ていた息子が戴冠する。異教徒の国であるエッツェル王の国はその後、跡継ぎもなく消滅する。

★大変ありがたいことにB写本付随分の邦訳が出ました。
本編を読んだあとにこれを読むと、訳者の言う「野生児にキリスト教の法衣を着せ付けて、中世の世にデビューさせる役割」という言葉の意味が分かると思います。

【邦訳資料】
鳥影社『ニーベルンゲンの哀歌』  岡崎 忠弘 訳 2021初版





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