ニーベルンゲンの歌-Das Nibelungenlied

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正しくて、正しくは無い物語。



 ここに今、もう一つの物語を語ろう。
 長い年月を経て、それでもなお、人の心を惹きつけて止まない、ある一つの物語から生まれた、「もう一つの」物語だ。

 神話も伝承も、それ自体ひとつの世界として解釈すれば、歴史を背景にして見るのとは、違った模様を織りなすだろう。
 どのようにして作られたのか、何のために語られたのか、
 誰によって作られたのか、どんな場所で語られたのか、
 私たちは本当の本当なる真実を、決して知ることは出来ないのだから。

 私は今、この物語を、物語として解釈しよう。
 彼らは13世紀の勇士だった。と同時に、古代北欧の英雄だった。
 4、5世紀、あるいはそれ以前、それ以後の、多くの激動の時代を生きた人間だった。
 竜殺しの英雄だった。半分だけの女神だった。
 栄ある一族の王だった。冷たく暗い復讐を決意する姫君だった。一族随一の剣士だった。
 詩と音楽で人々を和ませながら、戦場に恐怖の赤い旋律を奏でる剣士だった。

 あるひとりの高貴な男に、一人の女による、愛と死の物語があった。
 至高の英雄を愛し、英雄に裏切られ、その英雄とともに燃え尽きた女の伝説は、いつまでも変わることなく生きつづけた。

 ある一族に、一人の女による、悲しくも壮絶なる復讐の物語があった。
 幾度も書き直される物語の中で、復讐されるべき王は、異国の英雄から彼女の兄弟たちへと摩り替っていった。

 運命が何度、塗り替えらようと、結末だけは変わらない。
 予言された未来だけは決して変わることは無い。一族は滅び、勇士たちは皆、死に絶える。
 だが結末は変わらなくても、彼らは違う場所を目指し、違う粗筋を辿る。
 魂は変わらなくとも、彼らの心は違う答えを見つける。

 それを書いた詩人たちさえ予期しなかった世界へと、彼らは今、足を踏み出していく。
 私は今、彼らの道に新しい花を添えよう。
 それが、今からこの物語へと入っていく誰かの、夜明けの時へと通じるように。

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