「女性にとって、あなたさまに勝る殿方はおいでになりますまい。
女友達をおもちなら、その方にとってはきっと最高の方でしょう。
恋人をおもちなら、その方にとって最高の恋人に違いありません。」 −リネット
この物語は、のちにクリティアンの筆を経て、ハルトマンの叙事詩「イーヴェイン」へと発展していくものの原型と思われる。
オウァイン(Owain)は、イーヴェイン(またはイウェイン Iwein)のこと。
古伝承的な要素はあまり無く、ずいぶん洗練されたイメージの物語でもある。
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あるとき、アルスルがカエル・スィオン・アル・ウィスクでくつろいでいる前に、ウリエンの息子オウァイン(イーヴェイン)、クリドノの息子ケノン、ケニルの息子カイ(ケイ)がいて、グウェンホヴァル(グウィネヴィア)と侍女たちは窓辺で縫い物をしていた。
アルスルはしばし昼寝をすると言い、残る三人は、ミードを飲み、肉を食べて楽しみはじめる。その楽しみの場で、ケノンは、自分の体験した不思議な話のことを語る。
それは彼が、まだ血気盛んな少年だったころ、地の果ての、美しい国へ行こうとしたときのことだ。
そこは素晴らしい場所で、案内された宮殿と出迎えの乙女たちは、とても美しかった。
ケノンはこの宮廷で、「世界一強い男が誰かを見極めたい」という自分の旅の目的を話し、そのための回答を得る。すなわち、巨人のいる広場への道だ。この道をたどり、巨人に問うと、巨人は、進むべき道をこのように教えてくれる。
大木の根元には泉があり、その側には、大理石の板と鎖でつながれた銀の椀がある。板に椀で泉の水をかけると不思議が起こり、黒い騎士が現れる。
この騎士は、泉の守り手であり、最も強いといわれる騎士なのだった。
ケノンは言われたとうりにし、はたして、その騎士が現れた。
彼は一騎打ちを挑むが、あっさりと敗北して馬を奪われてしまう。仕方なく徒歩で、最初に道を教えてもらった城へまた戻ってくると、城の人々の手厚いもてなしが待っており、奪われた馬のかわりまで調達してくれたのだった。
話を聞いて、カイは、そんな話はウソに違いないと信じないが、オウァインは信じ、ぜひその場所を探しに行ってみようと言う。
そうこうしているうちにアルスルが目を覚まし、一同は食事の席に着く。ここで話は一端打ち切りになったかに思えるのだが、オウァインは、例の話のことをまだ忘れてはおらず、ひとり、こっそりと宴の場を抜け出して、ケノンの語った国へ向かうのだった。
果たしてそこには、語られたとおりの光景が広がっていた。
この世のものとも思われない、美しく壮麗な城でもてなしを受け、泉の騎士のもとへ至る方法を聞きだしたオウァイン。
だが、ケノンと彼が違っていたところは、この騎士に挑戦して勝利してしまったというところだ。(強ッ)
瀕死の傷を負った騎士はどこかへ逃げ出す。その後を追いかけたオウァインは、輝く城にたどり着く。
だが門をくぐろうとしたとき、吊るし鉄格子が勢いよく落ちてきて、馬は真っ二つにされ、彼は門に閉じ込められてしまう。
あわや、というとき、通りかかったのは、一人の召使の娘だった。この娘はリネットといい、貴婦人に使える召使いだった。
彼女はオウァインに姿を消す指輪を貸してくれ、城内の人々に見つからぬよう逃げる手引きをする。しかも、館に招き入れると、丁重にもてなしてくれるのだった。
次の日、オウァインは、城の中から大きな泣き声を聞く。城の主が瀕死になっているのだという。
さらに再び泣き声を聞く。今度は、城の主がたった今死んだのだという。
続いて叫び声を聞いた。城の主の遺体が、これから教会へ運ばれて行くのだという。
それは、昨日オウァイン自身が討ち果たした、あの騎士の葬儀だった。
彼は窓から見た葬列の中で、ひときわ美しい貴婦人に一目で恋をする。だがそれは、彼が殺した、泉を守る騎士の妻、<泉の貴婦人>と呼ばれる女性だったのである。
オウァインをもてなしてくれた娘は、この貴婦人の侍女で、彼が女主人の夫を殺したことを既に知っていた。だが彼女はオウァインのために女主人のもとへ行き、このまま寡婦でいては泉と領地は守れない、新しい夫を迎えるべきと進言し、自分がアルスル王のもとへ伺って立派な騎士を連れてこようと言う。
もちろん彼女は、実際にはアルスルの宮廷へは行かない。
オウァインをかくまっている部屋で時間を過ごし、ころあいを見計らって、彼を貴婦人の前に連れていくのだ。
泉の貴婦人はオウァインを見て、自分の前夫を殺した人物ではないかと疑うが、リネットは、ならば尚のこと都合が良い、なぜなら、そのことで前の夫より強いことは証明されているのだから、婿として申し分あるまい、と言う。
(ここに古代の母系社会の名残が見られる。)
人々との相談の結果、泉の貴婦人はオウァインを夫とすることを決めた。オウァインは、新たな「泉の守り手」となったのだ。
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一方で、オウァインが姿を消したことを気に病むアルスルは、グワルッフマイに相談し、探しに行くことを決める。
案内にはケノンが立ち、彼らは、オウァインの向かったと思われる泉を目指した。
果たして、泉に現れたのは、新たな守護者となったオウァインだった。まずカイが挑むが、ぼろぼろにやられてしまい、その後に続く者たちもあっさり負けてしまう。
最後にグワルッフマイが挑戦するが、勝負が付かず、何日にも渡って戦い続け、やっとお互いが誰なのかが分かったところで、双方が槍を引いた。
オウァインはこれまでのことを話し、アルスルたちを自分の城へ招待する。豪華な祝宴が張られ、人々は楽しい時を過ごした。だが、別れの時は来る。
オウァインはこの城にずっと留まるつもりだったのだが、なにしろ突然姿を消していたので、城に残っている人々も心配しているのだという。アルスルのたっての頼みでは、むげに断れない。彼は、三ヶ月だけ宮廷に戻ることを決め、泉の貴婦人は、渋々ながらこれを承知するのだった。
だが、アルスルのもとでの日々は楽しく、気がつけば、三ヶ月のかわりに三年の月日が流れてしまっていた。
ある日、彼のもとに、馬に乗った乙女が現れる。乙女は彼を裏切り者と呼び、約束の指輪を取り上げて去っていく。オウァインはようやく戻らねばならなかったことを思い出した。(遅いよ・・・)
沈み込む彼は、深い悩みのゆえに荒野をさ迷い、半狂乱になる。死に掛けていた彼を救ったのは、とある伯爵夫人。だが彼女は、夫を失ったあと、結婚を迫る若い伯爵に戦いを挑まれ、領地を失いかけていた。
丁重なもてなしによって健康を回復したオウァインは、この親切に報いるため、攻めて来る若い伯爵の軍と戦い、これに打ち勝つ。
それは、親切な伯爵夫人への恩返しのためであり、彼女の愛を得るためではなかった。
オウァインは、さらに旅を続ける。
途中、蛇に襲われていた白い獅子を助け、なつかれたことから、以後は、この獅子が常に彼の側につきそって冒険を助けることとなる。。
道中、彼は、あのリネットがとらわれている場に遭遇した。
彼女は、オウァインが泉の貴婦人のもとから去ったことで責任を取らされて、閉じ込められていたのだった。
オウァインは乙女を何故かすぐには助けようとせず、近くの城に出向き、たまたま知り合った公爵のために巨人を倒してから戻ってくる。するとなんと、リネットが火あぶりにされようとしているではないか。もうちょっと遅かったらリネットは死んでいたところだ。
オウァインは何故か、自分がオウァインだとは名乗らず、オウァインのかわりに戦いますと言って、火あぶりの刑を実行しようとしている騎士ふたりと戦うことになる。さすがに一人で二人と戦うのは大変だったのだが、途中、あの獅子が飛び込んできて騎士たちを代わりに倒してくれてしまう。(とりあえずリネットが助かったので良いとは思うが。)
こうして、オウァインはリネットを連れて再び泉の貴婦人のもとへ行き、よりを戻すのであった。
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と、ここで話が終われば分かりやすいのだが、「マビノギオン」の冒険まは、まだまだ続きがあったのだ。
オウァインはまたも冒険の旅に出かけ、ディ・トラウスという騎士と戦って、とらわれていた二十四人の貴婦人たちを救いだす。
獅子はこの戦いにもついてきたが、戦いが終わると、いずこかへ行ってしまったらしい。
代わりに、「三百本の剣」と「鳥の軍団」が、彼の持つ財産となった。
三百本の剣は、彼自身が使ったというよりは、三百人の部下だったのではないかとも取れる。
また、「烏」は死体をついばむもので、彼が多くの戦で勝利を収め、敵を倒したことを意味していると思われる。
なんも説明されていないので、白い獅子が何だったのかが気になります…。