■アーサー王伝説-Chronicle of Arthur |
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アーサー王伝説について語ろうとすれば、色んな切り口があると思うが、ここは入り口的に…さらりと流してみる。
「アーサー王伝説」と、一口に言っても、それは、一人の人間によって書かれたものでは無い。
アーサー王の伝説に関する、”ただ一つの原典”は、存在しない。もちろん、「アーサー王伝説」という名前の小説があるワケではないので、ご注意を。
たとえば、日本でいちばん有名なのは15世紀に書かれたサー・トマス・マロリーによる物語だが、この物語は「アーサー王の死」と呼ばれている。元ネタは同名のフランス語の作品であり、彼自身の「オリジナルな創作」ではなく、それまでに書かれた数多くの伝説、叙事詩などを下敷きにして書かれた、言ってみればリメイク版の物語に過ぎない。
また、アーサー王と円卓の騎士たちは、歴史上に実在した人物ではない。
実在したという証拠は今のところ掴めておらず(※それらしい人物というのは見つかっているが)、実在したとすれば、「アーサー」という名前では無かったはずだ(※アーサーというのは新しい時代の名前)。アーサーが「過去に存在した偉大な王」という設定になったのは、おそらく12世紀ごろの話で、「アーサー」に相当する名前の英雄が過去に存在したらしいことまでは、ある程度の証明ができても、それ以上の具体的な業績や仲間関係は、ほとんど分かっていない。
また、「円卓の騎士」に名を連ねる騎士たちも、別々の物語、別々の伝説から引っ張ってきてあとから伝説に組み入れられた人が多く、昔から「アーサー王の家臣だった人たち」ばかりではない。元は全然別の世界の人たち、別の物語の主人公である場合が圧倒的に多いのだ。
アーサー王の伝説には、歴史的な事実と、創作とが入り混じる。
先に書いた円卓の人々のように、ある時代からとつぜんアーサー王の物語に登場するようになる人々もいれば、ある段階から忽然と消えてしまった人々もいる。また、最初から登場し続けていても、リメイクされるごとに設定が変わっていった人々もいる――
そんな、物語としての変化、後付け、リメイクされた部分、すべてひっくるめての、壮大な「アーサー王伝説」なのだ。
だからこそ、ここを見ている皆さんには、「アーサー王伝説」と聞いたとき、「どのアーサー王伝説だろう?」「どの時代の、どの物語のアーサーのことだろう?」と、疑問に思ってほしい。伝説は、時と場所によって姿を変えるものだから。
伝説に関する、諸前提
●歴史か創作か?
アーサー王が実在したかどうかという議論とともに、物語の中に歴史的事実はあるのか、という議論も過去何度となく繰り返されてきた話だ。
少なくとも、初期段階では「歴史」と認識されていたようだが、宮廷詩人たちによって美しい騎士叙事詩に書き換えられていったあたりから、虚構が入り始める。どの段階から「創作」と呼ぶのかは、かなりグレーゾーンだが、後の時代に付け足されたエピソードには歴史的根拠は無いと言っていいだろうと思う。
歴史的な背景のもと、「偉大な族長」アーサー像、というのが作られたことは間違いない。が、アーサーという名前の人物が実在したのか、実在した誰かを元にアーサーという人物を創造したのかは現在のところ、分からない。
●アーサーと円卓の騎士の家系図
中世の上流階級の人々は、アーサー王の伝説をプロパガンダとして利用した。
たとえば自分のご先祖がアーサー王だと主張する王家の人々や、アーサー王の家臣に名をつらねる騎士の誰かを親戚だと主張する人々が、伝説を都合のいいように書き換え、次の世代に広めていった。国によって活躍する人物が違うのは、そのためでもある。
物語を書く人も、生活のためには貴族のパトロンをつけなくてはならなかったし、そもそも文字をかけるのが騎士や聖職者などに限られていたことも、物語の変化に関係していると思われる。
●「アーサー王はケルトの英雄」ではない
かつては、アイルランドやブリテン島のウェールズ、スコットランドなどは「島のケルト」と呼ばれ、先住民もケルト人だと言われてきた。
しかし最近の研究では、ケルト人が大陸側から島に移住した痕跡が見つからず、そもそもケルト人が「ケルト語」を喋っていたかどうかも怪しくなっている。「島のケルトは存在しなかった」、これがほぼ定説となってきている。
そのため、アーサー王伝説は「ブリタニアの古い伝承」ではあるものの、ケルト文化と繋げて語るのは適切ではない。
また、「アーサー王はイングランドの王」というのも正確ではない。アーサー王のいた時代、イングランドという現在の国は存在せず島は統一されていない。(これは例えば、ジャンヌ・ダルクのいた時代にフランスという国が存在しないのと同じことである)
ただし民族的にはだいたい同じであることが、遺伝子調査から判明している。アーサー王が実在したかもしれない時代の民族に、アーサーの敵であり、ブリトン人を追いやってブリテン島の大半を制圧したノルマン人など後からやってきた移住者たちが混血したものが現在のイングランド人である。
●詳細まとめは↓
>>歴史における「アーサー像」
>>「アーサーのいた」時代