2018/08/06 著作権とTEDとクリエイティブ・コモンズ
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この5月に著作権法が大きく改正されたことをうけ、3回にわたって教育との関係を見直してきた。
⇒改正著作権法成立と教育 (1) 改正の概要
⇒改正著作権法成立と教育 (2) 柔軟な権利制限
⇒改正著作権法成立と教育 (3) フェアユース
そこで、今回は、YouTube や TED で採用されるなど、身近になったクリエイティブ・コモンズに焦点を当てた。
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もくじ |
- 初音ミクがCCライセンスを採用
- ゆるキャラにCCライセンスを採用
- コンピュータソフト開発とオープンソース
- TED と CCライセンス
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初音ミクは、クリプトン・フューチャー・メディアから発売されている音声合成用のボーカル音源で、上のグラフィックがそのキャラクターである。
この記事の筆者である私はキャラクター画像の著者ではないし、著者から許諾を得たわけでもない。もちろん著作権の保護期間が終了してもいない。にもかかわらずこのページに掲載して訴えられる恐れはないのだろうか?
問題ないと断言できる理由は以下の事情による。
クリプトン・フューチャー・メディアは、キャラクターの認知度が高くなった2012年に、CCライセンスを採用した。
⇒CC JAPAN の参考記事
これにより、一般利用者は著作権者の許諾を得ることなくキャラクターを利用できるようになった。このページで画像を表示しているのはCCライセンスがあるからであり、CCライセンスによることを、ここでは画像のすぐ下に記している。BY-NC の意味するところは後で述べる。
ページへの埋め込みや、改変などユーザーの自由な活用に委ねることで、キャラクターの宣伝効果を高めるのが目的である。
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大崎駅西口商店会のマスコットキャラクター、大崎一番太郎
今や日本中にあふれる「ゆるキャラ」だが上のグラフィックは、大崎一番太郎である。犬山氏の著作物である。
地域おこしのキャラクターとして2006年に誕生したが、当初は、著作権が絡んで、思うように普及しなかったそうだ。
- イラストとか着ぐるみの写真とかを商店会の人にどんどん使って欲しかった
と作者の犬山氏は言う。そのあたりの事情を次のように語る。
- 犬山:
- (商店街や地域の人から利用を)申請されるたびに許可を出していると、個別に対応しているだけでも時間のリソースを奪われてしまいます。
- ご当地キャラには、タダで使わせてくれという問い合わせがガンガン来るので、使いたい人はネット上にデータがあるので勝手にダウンロードして使ってくださいという風に案内するようにしました。
- その結果、グッズは増え、問い合わせの件数はグッと減り、僕の作業効率も上がりました。
- ただし、ファンによる二次創作グッズはクオリティが高いものが多いので、それに負けないように頑張らなければなりません。そういった意味で、昔よりは大変ですね(笑)
- (⇒CC JAPAN の記事からの引用、丸括弧内は筆者の加筆)
この事例からは、著作権が地域おこし(社会の発展)と折り合わないことから、著作権による利用許諾から離れ、もっと実用的なルール(CCライセンスなど)に基づいた公共財として開放することの利点が見えてくる。
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CCライセンスなどの社会的契約の走りの一つは、コンピュータソフト開発におけるオープンソースとされる。
筆者が、コンピュータプログラミングを始めた頃はちょうどコンピュータが個人でも手軽に購入できるようになった頃で、マイコンからパソコンへ移行期だった。専門の授業も教科書も未整備な状態で、雑誌やパソコン通信などが唯一の情報源だった。そこでは、個々のプログラマが手探りの独学で開発したツール(ソフト)のソース(プログラミングコード)が公開されやり取りされていた。
プログラマはそれを手本に自分なりのコードに加工して取り込み、活用したものだった。
こうした状況の組織化が始まり、これまでになかった仕組みが出来上がって行った。有名なのが、Unix(1969)、GNU(1983)、Linux(1991)などだ。
CCライセンス(2001)は、こうした仕組みを著作物全般に広く適用したものと言えるだろう。
それらに共通する理念は、著作物を共有(社会的財産)とすることで文化をみんなで発展させようということにある。
このあたりのことをウィキペディアでは次のように記述している。
- 情報を共有しようとすると、知的所有権法や著作権法が障害になる場合があるが、この運動の基本的なねらいは、そのような法的問題を回避することにある。
- (⇒ウィキペディアの記事からの引用)
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「ideas worth spreading 価値ある考えを広めよう」を掲げるTEDはどうなのだろうか?
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実は TED はすでに Talks にCCライセンスを適用している。
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- We encourage you to share TED Talks under the terms of our Creative Commons BY-NC-ND license.
- ⇒TED / Press and media information からの引用
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- 注: このページのリンクをたどると CC BY-NC-ND 3.0 が案内される。しかし、別のページの案内では CC BY-NC-ND 4.0 にリンクされている。3.0 と 4.0 の違いについてはここでは触れない。
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Creative Commons BY-NC-ND license の意味は次のようになっている。
- Creative Commons
- 著作物を 社会共有財として 自由に利用してよい
- ただし、以下の条件がある
- (条件は、著者が自分にとって最適な組み合わせを選ぶことができる)
- BY
- NC
- NonCommercial(非営利)非営利目的に限定
- ND
- No derivative work(改変禁止)改変をしない
BY-NC-ND について詳しい日本語による説明は 次のオフィシャル・ページにある。
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BY-NC-ND についての TED 自身による説明は 次のオフィシャル・ページにある。ただ、このページの記載は、CC NC(非営利)としつつ、その冒頭に Commercial cases: の項目が続くので、非営利を条件とした創造的活用を説明するのに営利の場合の対処法を最初に書いているのでわかりにくい。
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TED と CCライセンスの関係を具体的に知るには、以下のサイトが参考になる。
- TEDxNYED などの記事
⇒TEDxNYED などと CCライセンスこのページをひらくと、いきなり小窓がポップアップし、次の文が目に飛び込んでくる。
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- Join the fight for an open and equitable world
- Creative Commons is the global community that breaks down the walls that keep people from sharing their knowledge. The future of knowledge depends on you.
Creative Commons についてとても分かりやすい説明なので、じっくりと味わいたい。
さて本題に戻る。
ひとまずは右上のばってん(X)をクリックして本文に入ると、TEDxNYED などの記事が読める。
- TEDxTokyo と CCライセンス
- TEDxKeio 慶應義塾と CCライセンス
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CCライセンスは、「著作物の共有を通して文化を発展させよう」との理念なので、「ideas worth spreading 価値ある考えを広めよう」を掲げるTEDとは相性がいい。
世界中の多くの人々の善意と良心が、新しい風を教育にも吹き込み始めていることに感謝したい。
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2018.08.05 田淵龍二
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