2018/08/01 改正著作権法成立と教育 (2)
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今年(2018年)の5月18日に改正著作権法成立したことは 2ヶ月前の記事で取り上げた。
その後、いくつかの問い合わせがあった。
「いつから施行されるのか?」
「TEDコーパスとの関係が知りたい」
・・・
そこで 今回はこの2つに焦点を当てた。
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もくじ |
- 改正著作権法の施行日
- 著作権法の一部を改正する法律案の概要
- 改正著作権法とTEDコーパスとの関係
- 改正のキーワード「権利制限規定」とは
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今回の改正著作権法の施行については以下のようになっている。
- 施行期日: 2019年1月1日
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- 但し書き: Aについては公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日。
つまり、一部を除いて来年から施行される。
例外はAである。
Aとは「教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備(第35条等関係)」である。
このあたりのことは、文部科学省のA4文書1枚に要領よくまとめられている。
この文書の概要を以下にまとめておく。
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著作権法の一部を改正する法律案の概要
デジタル・ネットワーク技術の進展により、新たに生まれる様々な著作物の利用ニーズに的確に対応するため、著作権者の許諾を受ける必要がある行為の範囲を見直し、情報関連産業、教育、障害者、美術館等におけるアーカイブの利活用に係る著作物の利用をより円滑に行えるようにする。
法律で定める一定の場合 ※ は、著作者の権利が制限され、許諾を得なくても自由に利用することが可能。
(※)引用、報道のための利用、学校の授業での著作物のコピー、教科書への著作物の掲載、図書館での文献のコピー、インターネット情報検索のためのウェブサイトの情報のコピー等、様々な場合について規定が整備されている。
- デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備(第30条の4、第47条の4、第47条の5等関係)
- 教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備(第35条等関係)
- 障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備(第37条関係)
- アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等(第31条、第47条、第67条等関係)
- 平成31年1月1日
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- Aについては公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日。
Aについての改正点を詳しく見てみよう。
教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備
- ICTの活用により教育の質の向上等を図るため、学校等の授業や予習・復習用に、教師が他人の著作物を用いて作成した教材をネットワークを通じて生徒の端末に送信する行為等について、許諾なく行えるようにする。
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- 【現 在】利用の都度、個々の権利者の許諾とライセンス料の支払が必要
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- 【改正後】ワンストップの補償金支払のみ(権利者の許諾不要)
学校教育関係の施行日だけがなぜ遅れているか疑問だ。
直接の理由は「補償金支払」制度がまだできていないためとされている。
しかし、本当の理由は他にあるのかもしれない。なぜなら、今回の大掛かりな法改正をめぐっては経団連や出版業界、放送業界などを含めて意見聴取を行い長い年月をかけて検討してきたものだからだ。にもかかわらず学校教育団体・教育学術団体とは利害調整が済んでいないと言うことなのだろう。調整が手間取っている(あるいは、してこなかった)のは別の事情があるのかもしれない。この記事の最後の節にヒントが見つかるかもしれない。
注意深く見守って行きたい。
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検索エンジンについては、実は10年ほど前にすでに合法化されている。
当時の文化庁の文書に次の文言が見られる。
before / 〜 2009
インターネットでの情報検索サービス(Yahoo!やGoogle)に伴う、情報の収集、整理・解析、検索結果の表示が、著作権法に抵触する可能性があり、日本国内にサーバーを設置できないとの指摘。 |
↓
これが2009年の法改正によって
↓
after / 2010〜
国内でも安心して情報検索サービスが実施できるようになり、次世代サービス開発が加速。 |
引用元はこちらのページ
あれから10年が経ち、今回の法改正では一歩進んで、著作物全般を情報検索可能としたことに特徴がある。
before / 〜 2018(今年)
インターネットでの情報検索サービス可能なものは ウェブにアップロードされた著作物に限定 |
↓
これが2018年の法改正によって
↓
after / 2019(来年)〜
ウェブにない著作物でも、インターネットでの情報検索サービスが可能になる |
引用元はこちらのページ
紙の出版物や、DVDの映画などを、誰かがウェブにアップして検索可能にできるようになる。Googleが書籍をスキャンして検索可能にしたことを合法化したと考えれば分かりやすい。
もちろん、だからと言って著作権を侵害していいと言っているのではないことは、押さえておきたい。
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すでにお気づきと思うが、今回の法改正におけるキーワードは「権利制限規定」である。
法律用語なので分かりにくいかもしれないので、言葉を増やすと
- 著作物に対する著者の権利を一部制限する条件についての規定
となる。
「著作権は法律で保護する」がしかし「例外がある」とし、その「例外」の取り決めと言うことだ。
これまでの日本の著作権法は、世界的にはまれな仕組みであった。それは、「例外」を逐一法律の条文に書き込んでいたことである。「Can Do リスト」である。
ところが、21世紀に入るとともに、この仕組みが大きく破綻し始めていた。主な原因は電子技術(IT)の進展である。次々と新しいメディア(著作物の形態)と新しいサービス(著作物の流通)が勃興してきた。しかも、それらが、社会と経済と学術と軍事に大きな比重を占めるようになっていった。
対応にもたついている間に欧米や中国に遅れを取ってしまった。なぜなら、社会の動向にあわせて「Can Do リスト」に追加しようとするたびに、条文を作り、権利団体と調整し、国会を通すという、数年がかりの過程を踏まなければならないからだ。
決定的となったのがAI(人工知能)である。AIは「著作物」を大食いする。優良で大量の情報(つまり著作物)を与えることが大前提なのだった。
制度破綻を認めざるを得なくなった政府と権利団体(経済界)が動き、コペルニクス的転回に踏み切った。それが「柔軟な権利制限規定の整備」である。
「Can Do リスト」への追加ではなく、「Can Do 範囲」を設定したのだ。
欧米では標準の、フェアユースとかクリエイティブ・コモンズの考え方への移行である。つまり「文化の発展の視点に立ち、合理的な範囲であれば著作権者の許諾はいらない」と言う法体系である。詳しくは次回に譲る。
さて、話を教育に転じると、教育界は「萎縮」していて「理解が不十分」(文化庁, 2017)と指摘されている。
文化庁の原本はこちら ↓
教育界は、今回の法改正を機に、本格的なeラーニング時代に向けて歩みを始めなければならないだろう。
特にメディア系の学会の対応が期待されている。TEDコーパスをめぐる外国語教育メディア学会の動向がひとつの試金石になるかもしれない。
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2018.08.01 田淵龍二
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