2018/08/05 改正著作権法成立と教育 (3)
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前回の記事 ⇒改正著作権法成立と教育 (2) では、今回の改正のキーワードが「柔軟な権利制限規定」にあると述べた。
そこで、今回は何が柔軟なのかについて一緒に考えてみよう。
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もくじ |
- 荻上チキ+福井健策 対談
- 許諾なしに書籍の電子データ化が可能
- フェアユースの考え方
- YouTube と フェアユース
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最初にラジオの対談を聞いてみよう。
2018年5月18日(金)放送の TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」に福井健策氏が登場した。国会で著作権改正が成立したことを受けた対談である。
福井氏は著作権問題に詳しい弁護士で、デジタル技術が生みだす大量の情報と著作権が世界規模で衝突し始めている現代に法律面から取り組んでいる。
うれしいことにこの対談はウェブに公開され、今でも自由に聞くことができる。
福井氏は、今回の法改正の3つのキーワードで語る。
- 柔軟性・・・新しいニーズへの対応
- 教育・・・オンラインへの対応
- アーカイブ・・・世界や子孫に伝えていこう
具体的には、学校の授業での電子データの利用や福祉目的で本の内容をする録音図書の規制緩和などとともに、TTPで著作権の保護期間が著者の死後50年から70年に延長されることへの危惧も表明されている。ごく一部の強い権利者への支払いが増えていくとともに、ほとんどの作品が忘れられていく現状がすでにあるからだ。
書店やアマゾンで利益を上げ続けるのは出版物のほんの一部であって、ほとんどは1年もしないうちに市場(本屋)から消えて、絶版となる。国会図書館の例外を除けば、一般の図書館で手にできない本の方が多い。
こうして死蔵される書籍の著作権は、かえって書籍の命を縮めており、著者の思いは誰にも伝わらなくなってしまう。
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さて話をもどすと、対談では、著作権者の許諾なしに書籍の電子データ化が可能になったことも取り上げている。
書籍の電子データ化による検索サービスでは、表示できる範囲はタイトルや本文の一部に限られるが、お気付きの通り、これは Google が2004年からはじめた GooglePrint Library Project (その後 GoogleBook Search Projectに拡張、現在は Googleブックス)のことである。
このサービスは米国でも大騒ぎとなり裁判にもなったが、権利団体(著作者団体 Authors および出版社協会 Associationof American Publishers)とGoogleとで和解が成立している。検索サービスによる利益をお互いに分け合うことでともに発展していく方向が受け入れられたのだ。
米国でiPod や Google のような技術革新(イノベーション)がもたらされた法制面での要因のひとつにあげられるのがフェアユースである。
こうしたことから、ようやく日本も周回遅れの部分をキャッチアップしようとして「柔軟な権利制限規定」の採用にいたったと福井氏は語る。
フェアユースは、公正な利用であれば著作権者の許諾なく作品を利用できるとの法制度である。以下で詳しく見てみよう。
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フェアユース(fair use)は、著作権の保護と利用に関わる考え方の一つだ。
日本の著作権法と比較すると分かりやすい。
日本の著作権法では、許諾なく作品を利用できる条件を個別に規定している。それが第30条から47条までだ。
- 30条 私的使用のための複製
- 31条 図書館等における複製等
- 32条 引用
- 33条 教科用図書等への掲載
- 34条 学校教育番組の放送等
- 35条 学校その他の教育機関における複製等
- 36条 試験問題としての複製等
- 37条 視覚障害者等のための複製等
- 38条 営利を目的としない上演等
- 39条 時事問題に関する論説の転載等
- 40条 政治上の演説等の利用
- 41条 時事の事件の報道のための利用
- 42条 裁判手続等における複製
- 43条 翻訳、翻案等による利用
- 44条 放送事業者等による一時的固定
- 45条 美術の著作物等の原作品の所有者による展示
- 46条 公開の美術の著作物等の利用
- 47条 美術の著作物等の展示に伴う複製
個別規定の利点
- 条文にある通りに行えば問題ないことがわかる
- 条文解釈にブレが少ない
- 条文の範囲内なら著作権者といちいち交渉する必要がない
- 安定指向型の産業や団体にとっては都合がよい
- 法務に時間と労力をかけなくてすむ
個別規定の欠点
- 条文が想定していない作品や行為が発生すると判断不能になる
- 新しい事態にスピード感をもって対応できない
- 社会の変化に対応した改正が頻繁に必要になる
- 開拓型の産業や団体にとっては都合が悪い
米国のフェアユースでは、このような個々の規定に頼るのではなく、著作物利用のフェアユース性を判断する指針がいくつか示されている。
- 利用の目的と性格(営利? 教育? ・・・)
- 著作物の性質(報道? 論文? 小説? ・・・)
- 利用範囲(全体? 一部? 重要? ・・・)
- 著作権者の利益(促進する? 損ねる? ・・・)
⇒2018/06/01 改正著作権法成立と教育 ですでに触れたが、経団連はフェアユース的「柔軟な権利制限規定」に対して次のように評価している。
- 利点: 急激に進展する技術革新に対応できる
- 欠点: 基準が明確でないので、かえって萎縮する恐れもある
さまざまな課題を抱えながらの法改正であるが、先の福井氏は以下のようにまとめている。
- 民間同士で話し合ってライセンスの約束事を決めていくことが重要だ
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YouTube のサイトにフェアユースについて分かりやすいページがある。
この中に画期的な政策を見つけた。「YouTube のフェアユース保護施策」だ。要点をまとめると・・・
- 動画の削除リクエストが多数寄せられているが
- 削除リクエストをする前に
- その動画がフェアユースかどうかを検討して欲しい
- フェアユースな動画が著作権侵害で訴えられたら
- 100 万ドルを上限とする費用を補償する
さらに日本のこれまでの常識からするとありえないような動画がフェアユースの事例として掲載されている。
- タイトル Donald Duck Meets Glenn Beck in Right Wing Radio Duck
- 作者 rebelliouspixels
- 説明 テンツの抜粋を組み合わせて、経済危機の時期の挑発的な表現による影響についての新しいメッセージを作成している
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⇒2018/06/01 改正著作権法成立と教育
⇒2018/08/01 改正著作権法成立と教育 (2)
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2018.08.05 田淵龍二
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