サンフランシスコからバスに乗りロサンゼルスを目指す。初めてのバスでの移動。わくわくするどころか、ずっと緊張しっ放し。チケットを買うとき、乗る前の待ち時間、乗ってから、降りた後。やっぱりバスは庶民の足でしかなく、バスディーポからして雰囲気がやばい。暗いし、狭いし、周りの人もなんとなく怖そう。
始めにバスの運転手さんが自分の名前やバスの日程、注意事項等を話すのだが、その時から乗客の何人かは運転手をやじっている。何故かファックという単語だけはぼくの耳にも聞こえてきた。みんなTATOOバリバリで、何を言っているか分からないぼくは、この先に何が起こるのだろうと不安ばかりが募ってきた。そんな中、横に座っていた"ジョニー"がぼくに話し掛けてきた。何処に行くのか?とか何をしに行くのか?という話をしたり、ロスの事を教えてもらったりと、うるさいバスの中で静かに話をしていた。
しかしバスが最初の停留所に着くと、運転手がチケットの確認のために車内をまわりだした。ぼくが当たり前のようにチケットを見せると、横にいたジョニーは何か運転手に言っている。そのうちに運転手がジョニーの体を引っ張って外まで連れて行き、そのままバスは出発してしまった。・・・ジョニーは無賃乗車をしていたのだ。夜中なので停留所の付近は何もなく真っ暗。ぽつぽつと家があるだけで、街頭の灯りしか見えない。ジョニーもジョニーだけど、運転手も運転手だ。最初はいきなりの事でなにがなんだかわからなかったけど、バスが再びハイウェイに乗る頃にはなんだか悲しい気分になってきた。これからジョニーはどうするんだろう?そんな事を考えているうちに寝てしまった。
バスは夜中でもちょくちょく止まる。止ればまた新しい人が乗ってきて、車内はうるさいくなって、全然寝ることができなかった。特に一番の原因は冷房の効き過ぎ。それを聞いていて、トレーナーを着こんでバスに乗ったんだけど、それでも寒い。体が震えてくる。しかし周りを見渡すとみんな半袖、短パンで平気で寝てる。やっぱりこいつらの感覚はおかしい。結局ほとんど寝れないまま、ロスに着いてしまった。
ロスのバスディーポ周辺はかなり治安が悪い。昼間でも一人で歩くな!本にそう書いてあった。しかしバスディーポで会った日本人と、朝?だから大丈夫だろうという事で、二人でダウンタウンまで歩くことにした。・・・間違ってた。歩いてすぐにそう感じた。道にごみは散らかってるわ、路上に人がたむろしてて、金よこせとか言って近づいてくるわ、みんな酔っぱらってるわ、で二人ともバックパックを背負いながら逃げるように走った。1時間ぐらい歩くとやっとダウンタウンの中心に着いた。彼はハリウッド、ぼくはサンタモニカに行く予定だったので、そこで別れて今度は市バスでサンタモニカに向かうことにした。
サンタモニカは思ってたよりもかなり遠く、落書きだらけで運転の荒いバスに揺られること1時間30分。なかなか着かないので何回もバスの運転手に聞いてやっと着いた。
思ったとおりの街だった。街路樹は全てパームツリーで、きれいな海と浜辺。そして映画「スティング」に登場した桟橋の遊園地"パシフィックパーク"。想像していたとおり、明るく、開放的な雰囲気だ。とりあえず今日はビーチを散歩して、かなり南国的雰囲気が漂っているユースで一泊。部屋に入ると、日本人らしき人が居たので、ぼくが日本語で「日本人ですか?」と声を掛けると、彼はきれいな日本語で「いえ、韓国人です。」と答えた。彼は日本語が話せる韓国人だったのだ。見た目も日本人と変わらず、日本語もきれいだ。アメリカ人が話す日本語とは全然違って、変なアクセントがない。ぼくが普通に日本語で話しても友達と変わらない会話が出来る。5年間韓国で日本語を勉強して、今はUCLAで英語を勉強中だとか。
それにも驚いたけど、その後そこで偶然にも、シアトルで会った”竹本くん”に会った。しかも同じ部屋。部屋で荷物の整理をしてると、竹本くんが部屋に入ってきた。入った瞬間に竹本くんだとすぐ分かった。あまりにもいきなりで、言葉にならない言葉しか出なかったが、夜はシアトルからのお互いの旅の報告をして、もう昔からの友達みたいにずっと話してた。
こういう旅に出ると、自然に人と仲良くなれる。日本では絶対に話さないだろうなーと思う人ともかなり仲良くなったりする。何故かその人に興味が湧いてくるのだ。この人はどんな人で、どんな思いでアメリカに来て、どんな旅をしているだろう?って聞いてみたくなる。それを拒む人もいるけど、大抵の人は気さくに話してくれる。そしてそういう人と話すと自分とはあまりにも掛け離れた生活があったり、今の自分と似たような環境で旅をしていたりと、いろいろな励みになることが多い。旅の情報も得る事が出来るし、話しをしていると明日への活力にもなる。だから日本人でも外人さんでも、なるべく人と話すことにしていた。とにかく声をかけてみる事が大切だ。
その日は明日からお世話になる"シィリル"のところに電話をした。シィリルはぼくが通っていた英会話教室の先生の友達で、会ったこともないけど、今回のぼくの計画を聞いて、ロスに来たらいくらでも泊めてくれるという事だった。貧乏旅行だし、本場のアメリカの生活が味わえると思ったので、お世話になることにした。シィリルは映画関係の仕事をしており、連絡すると明日はパーティがあるという事で、住所と時間を指定されてそこで落ち合うことになった。
しかしだ!いきなり住所を聞いてもどのバスに乗ってどこで降りるかが全然わからない。しかもその日は日曜日で市バスも、運休してる路線、途中までしか行かない路線がたくさんあり、地元の人でさえこのバスは何処まで行くのか運転手に聞いている。そんな状況だから何回もバスも間違え、歩き、最後は親切な運転手さんに住所を見せて、バスの路線と降りる所を聞いてやっとの事でシィリルの仕事場まで着いた。かなり困ったけど、こういう所がやっぱりアメリカらしいなと感じた。向こうでは日曜日はほとんどの店がやっていない。休みは休み。サービス業だろうがなんだろうが、徹底的に休む。それが当たり前なのだ。デパートも休んでいる所が多く、街の中に人がいない。みんな休みは家族でキャンプやらビーチやらに行って、自然に親しむのが普通のようだ。日本みたいに日曜日に買い物はほとんどしないらしい。
さてここからシィリルとの感動のご対面になるのだが・・・。着いた所が映画"英雄の条件"の完成パーティー。「誰かに声を掛ければ分かるよ」とシィリルに言われていたので、近くにいたでっかくて怖そうな黒人の警備員に「シィリルを知ってるか?」と聞くと、知らないと言う。それではこちらも困るのでしつこく話していると、バックパックを背負った日本人をかわいそうに思ったのか、うっとおしく思ったのか、事務所みたいな所に連れて行かれ、そこでシィリルを呼んでもらってやっと感動のご対面となった。しかしやっぱりぼくのこの格好はパーティには合わないらしく、バックパックだけでも預けて、パーティに参加できることになった。
シィリルはパーティの総監督らしく、みんなから「これはどうするの?」とか「こっちはどう?」とか言われて、かなり忙しそうにしてる。ぼくは暇だからあっちへブラブラ、こっちへブラブラしてた。そのうちにきれいな衣装を着た、きれいな人がたくさん集まってきて、みんなシャンパンを飲みながら優雅に話しをしてる。ぼくの方はする事もなく、相変わらずボーッとしてる。しかし向こうの人はそんなぼくを不思議そうに見ながらも声を掛けてくれる。Gパン、Tシャツ姿のぼくでも。たまーにみんなの輪の中に入って、シャンパンを飲んだりした。しかし話していることが分からないので、横に立っているだけ。そのうちに入り口に赤い絨毯がひかれ、メインのサミュエル・ジャクソンとトミー・リー・ジョーンズの登場となった。入り口にはさっきよりもごっつくて、夜なのにサングラスをかけた黒人さんが4人も立っている。"かっこいい"、思わず思った。そして白いリムジンに乗って二人が登場した。なんか異様な雰囲気だ。テレビでよく見るこの光景。それを自分が実際に見てる。しかも二人が隣にいたりして、普通にそこらの人としゃべっている、その中にぼくがいるのだ。さすがにぼくには話し掛けてこなかったけど・・・。一体ここにいる人はどんな人達なんだろう?そんな疑問が残った。
そんな開放的な雰囲気でパーティも終わり、シィリルの車に乗り、アメリカらしい、ロスらしい怪しそうなバーに寄って、やっとシィリル邸へ向かうことになった。
シィリル邸はダウンタウンの郊外、ドジャーススタジアムの近くにある。周りの住人はメキシカンばかりで、シィリルの話しによると英語も話せない人もたくさんいるらしい。しかしロスの大都会から車で15分くらいにしては静かすぎる。それが第一印象だ。夜は本当に静かだ。
夜は危ないから外出するな!ガイドブックにそう書いてあるとおり、シィリルに聞いてもロスのダウンタウンは危ないらしい。だからシィリルに泊まらせてもらった夜はほとんどシィリルと一緒に飯を食い、ビールを飲んで、話をしながら、とてもゆっくりした時間を過ごした。そのせいか始めは会話がかなりぎこちなかったものの、自然に自分の気持ちを向こうに伝える事ができるようになった。シィリルも簡単な英語を使ってくれていて、どんな時でもこの見知らぬ日本人を親切にしてくれた。そのお礼といってはなんだけど、シィリルの休日はシィリル邸のバックヤード造りに励んだ。アメリカ(カリフォルニア)の家は二階立てではなく平屋で、必ず広い庭がある。シィリル邸には裏庭もあり、夏には、そこにバーベキューが出来るようにブロックで台を造り、テーブル、イスを置いて、友達とバカ騒ぎをしたいらしい。まず草むしりから始まって、地面を平らに均して、芝生を植える。全て自分でやるのだ。2日間くらいしか手伝わなかったけど、ぼくも完成を想像してワクワクしていた。
シィリルはぼくを喜ばそうと休みの日はいろんな所へ連れて行ってくれた。とくに感動したのが、普通のアメリカ人でも入れないユニバーサルスタジオの裏側。映画で使われたセットや大道具、小道具の数々。もちろん映画関係の仕事をしてるシィリルの顔パスだ。映画で見た衣装、覆面、ハリボテなど、どれも知っているものばかり。周りではみんな忙しそうに働いている訳でもなく、なんとなくのんびりとした雰囲気が漂う。そんな中、映画上映会にも連れて行ってもらった。タイトルは"U−571"これは出来たてホヤホヤで、まだ映画関係者しか観れない映画だ。シィリルが言うには後ろの方の席には出演者もいると言う。詳しくはよく分からなかったが、Uボートの映画で、JON・BON・JOVIが出演してるらしいという事だけわかった。ユニバーサルスタジオの中の快適過ぎる映画館で、ポップコーンをただでもらい、広すぎるくらい広い席でゆったり鑑賞。しかし全て英語なので詳しいことは分からず、映像だけで楽しんだ。日本に来るのは多分、半年後だという。9月の終わり頃には日本で観れるらしい。日本に帰ったら必ず見る映画の一つにこのU―571も加わった。
ロスではレンタカーも借りた。バスでも行けないことはないが、不便なのだ。少し郊外に足を伸ばしてみたくても、時間ばかりかかるので借りてみた。そういう事があろうかと、しっかり、国際免許証も持ってきたのだ。しかしだ。ハイウェイを走るのは簡単だが、ダウンタウンを走るのはちょいと難しい。左ハンドルはすぐに慣れたけど、右側通行に慣れない。信号を曲がるとどうしても逆車線に入っていってしまう。自分でもかなり怖い。日本ではゴールドカードなのに・・・。それでも2時間も運転すればかなり慣れてきた。しかし慣れた時が危ないとはよく言ったものだ。ホテルに戻るために夜のダウンタウンを走っていると、何故か凄い渋滞。なかなか動かないので、目の前の通りを曲がると、いきなり後ろからパトカーが来た。回転灯が点いていて、しばらくぼくの車の後ろをついてくる。まさかぼくではないと思っていたので、そのまま走っていく。そのうちにパトカーに付いているめちゃめちゃ明るいライトがぼくの車を照らした。・・・驚いた。そしてマイクで何か言っている。あれっ!ぼくなの?驚いて言葉にならない。おそるおそる車を止めて、ポリスが来るのをじっと待っている。しかしなかなか来ない。こういうとき人間は物事をマイナスに考えてしまう習性があるらしい。ぼくの頭の中にはあの"衝撃的瞬間"の映像がバッチリと再現される。ここは夜のロス。何か変な動きをしたら・・・。何か変な事を言ったら・・・。あー、助けてくれー。死にたくないよー。
この待ち時間は本当に怖かった。そしてドアミラー越しにごっついポリスがくるのが見える。もちろん銃も持っている。両手をポリスから見える位置にわざと置いて、向こうが話しかけてくるのを待つ。<何故かかなり冷静>こっ、怖い。ぼくの顔をじっと見ている。やめてくれー。ぼくは無実だ。訴えるような、そんな顔をしていた。そしてやっと口を開いた。
ポリス:「THIS IS ONLY BUS.TURN RIGHT SOON.」
ぼく:「お、お、お、O.K,O.K. I′M SORRY」
こんな会話だった。そしてすぐに右に曲がって、一命をとりとめた。ふぅ、怖かった。多分ナンバーを調べて、レンタカーだと分かったんだろう。それにしてもよかった、よかった。
そしてロスの観光はというと・・・。シィリルに連れていってもらう方が楽しくて、あまり観光しなかった。有名な所を見て回ったけど、おもしろくないと感じたところが多かった。都会の観光には飽きてきて、アメリカ内陸の大自然を見たくなってきていたからだと思う。帰りの飛行機はロスからだし、まだまだアメリカは広いから、とにかく内陸に行こうと思い始めていた。
気ままな一人旅。でも思ったより気ままではない。明日は何処に行こうかとか、今日は何処で寝ようとか、自分で決めないと行けない事がたくさんある。日本に居る時はアメリカに行ってのんびりこれからのことでも考えようかと思ったけど、実際来てみるとそうはいかない。毎日やる事、決める事がたくさんあって、以外と忙しいのだ。ひとつの所でのんびりすることも出来るけど、自分の性格上、一つの場所でのんびりするタイプではないし、せっかくアメリカまで来たんだからできるだけ多くの場所を見てみたい。そんな気持ちもあって、いつも何かに追われるように観光していた。
ロス最後の日はシィリルの家の近くのECHO PARKで一日のんびりと過ごした。何をするでもなく、芝生で寝て、明日は何処に行こうかとゴロゴロしながら考えてた。
"JUST HOT":ロスで会った日本人から聞いた、フェニックスのイメージだ。「何があるの?」と聞いても、「何もない」。「ただ暑いだけ」。その日本人はそんなことを言っていた
その言葉を思い出して、次はフェニックスに行こうと決めた。