シアトルからサンフランシスコまでは、アメリカ唯一の大陸横断鉄道"アムトラック"に乗った。今回はその中のコースト・スターライト号。アメリカの太平洋岸をシアトルからロサンゼルスまで縦断する列車だ。予約したほうがいいという話を聞いたので、前日に電話で予約をしたが、どうも伝わってるのか、伝わってないのかわからない。不安を抱えてキング・ストリート・ステーションまで行く。朝10時シアトル発、翌日の朝9時40分サンフランシスコ着。ほぼ24時間の列車の旅。チケットカウンターのおっさんはやけに陽気だ。ぼくもつられて元気が出る。名前を言うと、あった!自分の名前が。しっかり予約が取れていた。ほっとした。荷物を預けて待合室で列車が来るのを待つ。周りは旅行者が多い。しかしどこか金持ちそう。アメリカらしい陽気な熟年夫婦も結構いる。
しかし列車はなかなか待っても来ない。噂には聞いてたが本当に遅れるとは・・・。結局11時に列車は出発した。列車に乗り込むと思ったより席は広い。これがアメリカンサイズか?と思いながら席のいろんな所をいじってみる。足掛けも付いていて、快適。これならなんとか24時間過ごせそうだ。後は横に乗ってくる人次第だな、と思った。するとTシャツ、Gパンでぼくと同じようにバックパックを背負った人が来た。名前はマーシュ。ワシントン大学の学生で休みを利用して、ヨセミテ国立公園に行くらしい。やさしそうな人で向こうも日本の事をいろいろ聞きたかったみたいなので、英語の訓練のいいチャンスだと思って、とにかく話し続けた。ぼくらが話してるのを聞いてて、横の席から話し掛けてくるおばちゃんもいた。みんなすごい親切で食べ物をくれたり、家族の写真を見せたりして、周りのみんなでワイワイやってた。
これだ!と思った。これがこの旅でぼくが求めてたものだったと思った。 列車は優雅に丘陵の中を通り抜けて行く。でも速度はかなり遅い。バスで行くのと大して差はない。しかし、中は快適でスナックバーもあり、みんなラウンジカーでは読書をしたり、雄大な景色を眺めたりしている。夜は映画の上映もしている。24時間はさすがに長かったが、快適に睡眠もとれ、親切な人達に囲まれてかなり楽しく列車の旅ができた。
列車はサンフランシスコの対岸のオークランド:エメリービル駅に着いた。日差しがすごい気持ちいい。もうTシャツで十分だ。そこから連絡バスでサンフランシスコまで向かうことになっている。列車で仲良くなった人達と別れ、ベイ・ブリッジを通り、いざ見所いっぱいのサンフランシスコへ。
着いたらすぐに今日の宿の予約をしようとユースへ電話を掛ける。しかしうまく繋がらない。何度やっても掛からないので、仕方なく直接ユースへ行くことにした。遠かった。20キロぐらいのバックパックを背負って30分ぐらい歩くとやっとユースに着く。その途中では異様に多い浮浪者から"金くれ"の洗礼をイヤと言うほど受けた。
早速ユースの予約をすると、なんとソールドアウト。他に安いホテルの情報を知らなかったので、ユースの人に聞くと、近くにYMCAがあるという。とりあえず電話をすると空いているというので、今日の宿はそこに決めた。
まだ昼だったので市内観光へ出かけた。サンフランシスコはシアトルよりも坂が多くて、急だった。歩けないぐらい。下が見えない。そんな感じの坂だ。しかしそれがサンフランシスコの魅力にもなっているんだろう。名物のケーブルカーに乗って坂を下ると、ジェットコースターの気分が味わえる。丘の頂上からは素晴らしい景色が見れる。しかし何と言ってもぼくのメインはアルカトラズ島、そして行けたらヨセミテ国立公園。
始めの二、三日は市内観光で、とにかく歩いた。バスも発達してるが、ぼくの行きたい所まで行くには何回も乗り換えしなくてはならないので、途中までバスで行ってそこから歩いたりした。とにかくこの旅は歩くことが基本のようで、日本では絶対に歩かない距離を毎日、毎日歩いていた。歩いて1時間とか言われると、歩いて行こうかなーっと思ってしまう。サンフランシスコも本当によく歩いた。しかし歩いているといろんなものが見えてきて楽しい。
世界に名高いゲイの街、カストロ地区。ここを歩くと男しか目に入らない。男同士が手を繋いで歩いていて、周りもそんな事は気にしてない様子。かなり異様な雰囲気で街中みんなホモに見えてしまう。その中心にあるちいさな公園で休憩などしようものなら、スカサズ声を掛けてくる。何を言っているのかよくは分からないけど、何となく誘われてるようだった。英語がわからないと断ってきたが、タトゥーの入ったごっつい人から、いかのもって感じの人、かなりいろんな人に声を掛けられた。もしかしたらオレに素質があるのか?と思ってしまうほどモテた(日本人は人気があるみたい)。しかし男にもてるのはあまり気分がいいものではない。・・・っていうか自分が怖くなってしまった。
サンフランシスコの中華街では、店頭に並んでいる品物がドルではなく、元で表示してあったのを見た。どうやって流通してるのか不思議に思ったけど、さすがに驚いた。これが世界一の中華街なのか?
ツインピークスも歩いて登った。バスが途中までしか行かないので、最後の一時間ぐらいは半分山登りだ。でも着いた時の景色は想像を絶するものだった。正面に一直線に伸びるマーケットストリート。サンフランシスコ湾。そしてアルカトラズト島。左にはゴールデンゲートブリッジ。いつまでもそこに居たかった。途中、健康づくりのために走って登ってくる人が何人かいた。←アメリカ人は走るのが好きみたい。人が通る度にその人と挨拶をして世間話をして、帰りは仲良くなった人に、ホテルの近くまで乗せてってもらった。正直、初めは怖かったけど、気さくないい人だった。どうやら日本が好きで何回も行っているらしい。でも浜松は知らなかった。
ぼくは外人さんに日本のどこに住んでいるかと聞かれても、向こうはせいぜい東京か大阪しか知らないので、必ずこう答えるようにしていた。「Near、FUJIYAMA」これで一発で分かってくれる。浜名湖は知っていなくても、富士山はみんな知っているのだ。
ゴールデンゲートブリッジもかなり歩いたが、すごいきれいだった。撮った写真が絵葉書になる。そしてメインのアルカトラズ島。フェリー乗り場のあるフィッシャーマンズワーフはいつも観光客で賑わっていて、ストリートパフォーマーもたくさんいる。とくにシルバーマン、ゴールドマンはあちこちにいて、写真を撮ると金をねだってきた。金が無いって言うと後ろから追っかけてきたり、ボーっと見ていると他の人から脅かされたりした。こういうのを見ているだけで十分楽しめる。
しかし、アルカトラズ島は、この時はいっぱいで行くことが出来なかった。どうしても行きたかったので、予約をして行くことにした。予約は3日後。そのためサンフランシスコ滞在期間を延ばして、その間にヨセミテ国立公園まで足を伸ばすことにした。
お金が高かったけど、日本語のツアーで行くことにした。市内から車で約3時間ちょっと。移動時間が長くて、ヨセミテにいる時間はちょっとしかなかったけど、雄大な景色だった。国立公園の中はすごく広くて、キャンプでもしながら、一日ここに居たかった。そこで出会った久美ちゃん、鳥海さん、宜成くんとも仲良くなって、今でもメール交換をしている。
そしてロスに行く日の午前中にやっとアルカトラズ島に行くことが出来た。凄い行列の中、自分の順番が近づいてくると、一人一人アルカトラズ島をバックに写真撮影をする。みんなカップルか友達同士で、楽しそうに写っているのに、ぼくだけポツンとつまらなそうに写った。こういうときに一人だと寂しいなと感じてしまう。
しかし船に乗り込めばそんなのは吹き飛んでしまう。どんどん近づいてくるアルカトラズ島、映画「ロック」で見た風景そのまま。いやでも気分は盛り上がってくる。島に着いて、早速日本語のオーディオテープを借りて監獄内へ。テープのアナウンスに沿って監獄内を見ていく。本当に狭い牢獄。ベットしかなく、中に入ってみるとその狭さ、暗さ、孤独感がよくわかる。とても暮せる所ではない。入っただけで息苦しくなる。途中、その当時の刑務所内の出来事や生のアル・カポネの声、囚人の叫び声などがテープから流れてきて、背筋がゾクっとすることもあった。しかし、窓から外を見ると、美しい花が咲き、きれいな庭があり、壮大なサンフランシスコの摩天楼が見えた。
次はロス。今度の移動手段はバスに決めた。あのグレイハウンド。危ないというイメージがあったけど、いろんな人から聞く限りは大丈夫そうなので乗って見ることにした。
夜9時サンフランシスコ発、朝6時30分ロサンゼルス着。サンフランシスコで知り合った友達に見送られて、ロス行きのバスに乗った。