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時の話題2001-7
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「新しい歴史教科書をつくる会」教科書批判〜その2(7/16〜17筆・7/18・26加筆) 


【「新しい歴史教科書を作る会」教科書批判〜その2】vol.9
 栃木県下都賀[しもつが]採択地区教科用図書採択協議会が、7月10日・11日の協議会で8社の教科書を検討し、賛否両論の末、多数決で「つくる会」の歴史教科書を採用する方針を決めた。同地区には小山市・栃木市・下都賀郡の2市8町が含まれ、各教育委員会が今月下旬にはこの方針を承認するかどうかを最終決定する。地区内では、同一の教科書を使用することが法律で決まっており、一自治体でも承認しないと再調整の会議が開かれるが、協議会の方針が覆った前例はあまりないようである。また、「つくる会」会員で自治体教育長OBの強力な働きかけもあるようで、さらに公立小中学校教員の約98%という圧倒的組織率を誇る栃木県教職員協議会も保守色が強く、日教組へ反発しており、同地区内の30校の中学、約1万5000人の中学生が、来春から「右翼皇国史観教科書」で学ばされるおそれが強まっている。尚、「つくる会」公民教科書の採択は見送られた。

 「新しい歴史教科書をつくる会」の成立の経緯は、前回の文章を参照していただきたい。

 さて、韓国・中国との国際問題に発展し、国内でも批判が相次いでいる問題の教科書だが、遂に公立中学でも採用の動きがでてきたわけだ。すでに、各地の私立中学では採用が明らかになっているが、右翼系の学校や、理事長が自民党右派とつながりが深い学校や、宗教系の学校と思われる。宗教系について補足すると、日本遺族会が高齢化で勢力を落としている一方、右派勢力には続々と宗教組織が加わっており、神道系以外にも仏教系やキリスト教系の教団も多いようで、宗教界そのものにも右傾化の波が襲っているようなのだ。

 「つくる会」は、教科書の採択に向けて強引な活動を繰り返してきた。これは、1986年に合格した右派勢力による教科書「新編日本史」(原書房)が1993年の9300冊を最高に今では5000冊程度の採択しかないことへの反省からである。教科書会社は教科書以外に指導書や補助教材を作る必要があり、特に指導書には相当の予算が必要になるのである。「つくる会」会長の西尾幹二氏も述懐しているように、そのための資金提供に、「国民の歴史」を執筆したのであった。そして、財界を通じた万単位の大量購入による議員・教育委員への配布、期限内販売の報奨金で書店に山積みさせての販売などで「国民の歴史」の見かけの売り上げが「作り出された」のである。同時に、教科書採択から現場の教員の意見を閉め出させるために、カモフラージュした言葉で各地の地方議会に「誓願」を出して採択させる戦術をとってきたのだ。しかし、肝心の教科書が批判にさらされ、採択数が大きく見込めないことから、6月の「市販化」に走ったとも言われている。彼らとて、採算が合わなければ行き詰まるのである。

 6月12日付け産経「新聞」は、日教組の教文[教育文化運動]部長の藤川伸治氏が「つくる会」教科書を支持したかのような報道をした。「つくる会」系のホームページには、今もそのことが彼らに都合よく書かれている。上杉聰氏も指摘するように、これは「つくる会」と一体となって、教科書採択の違法でゆがんだ報道を行ってきた産経「新聞」の策略であり、いつもの汚い手口である。日教組中央内部にも様々な意見があるようだが、藤川氏は信念を持って闘う人である。というのは、先日藤川氏の講演を聴きに行き、さらにその後、少人数で食事をともにしていろいろな話をうかがい、確信を深めたのである。

 大山[だいせん]チョコレート事件というのがある。大山には男性性器と女性性器をかたどったチョコレートがお土産としてうられているが、広島の福山市立中学のS教諭が修学旅行でそれを買って帰り、自ら顧問をつとめる柔道部の生徒たちに与えたのである。問題はその与え方で、男子部員には女性性器のチョコレートを与え、女子部員には男性性器のチョコレートを与えて、それぞれなめさせたのである。当然いやがる子たちもおり、これは大問題になった。
「つくる会」の理事である藤岡信勝氏主宰の「自由主義史観研究会」のメンバーであったS教諭は当時、「日の丸・君が代」の意味を学ぶことになっていたホームルームの時間に、「日の丸・君が代」を一方的に賛美する授業を行い、保護者や市教委からの問い合わせも受けていた。追いつめられたS教諭は自民党の亀井静香議員と関係の深い県会議員のところに逃げ込み、そこから広島の人権教育への政治的圧力が突然巻き起こったようである。KSD疑惑で逮捕された小山議員もこの動きに荷担している。そして、そんなS教諭がなぜか参議院参考人陳述に突如登場するのである。現職中学教諭が国会で参考人陳述をした前例はそれまでなかった。地元での批判は沈静化してしまった。大山チョコレート事件への批判をかわし、広島の人権教育をぶちこわすための政治的策略が、これもまた自民党と産経「新聞」によって繰り広げられたのである。その挙げ句の果てが県教委の締め付けによる世羅高校の石川校長の自死であり、彼の死を逆手に悪用した「国旗国歌法」制定であった。

 「つくる会」の歴史教科書の内容は、神話と史実を混同させ、ひたすら天皇を賛美し続けるもので、近代史においても、日本の侵略を正当化し、都合の悪い部分は隠蔽し、歪曲し、ゆがんだ「愛国心」を鼓舞するもので、有害無益のデタラメな代物である。まさに、右翼皇国史観教科書である。また、公民教科書においては、憲法改正を主張し、女性蔑視に貫かれた、「お国のために死になさい」と説くトンデモナイ教科書である。詳しい分析は以下の書物を参照していただきたい。

  ・『「つくる会」教科書はこう読む!』(明石書店)上杉聰・君島和彦・越田稜・高嶋伸欣
  ・『いらない!「神の国」歴史・公民教科書』(明石書店)
上杉聰・君島和彦・越田稜・高嶋伸欣
  ・「徹底検証あぶない教科書」(学習の友社)俵義文
  ・「歴史教科書とナショナリズム」(社会評論社)和仁廉夫
  ・『ここまでひどい!「つくる会」歴史・公民教科書』(明石書店)VAWW-NET Japan編
  ・「こんな教科書子どもにわたせますか」(大月書店)子どもと教科書全国ネット21編
  ・「歴史教科書 何が問題か
」(岩波書店)小森陽一・坂本義和・安丸良夫編
  ・「教科書白書2001(中学校歴史・公民編)」日教組

 この問題に積極的に声をあげづらい状況が教員社会に漂っていることがまた問題である。また保護者としても地域で声をあげていきたい。(2001-7-16〜17筆、7/18若干修正)
※藤岡町・大平町に続いて、17日に小山市教育委員会も、下都賀採択地区協議会の方針を否決し、25日予定の異例の再協議で、「つくる会」歴史教科書の採択は見送られる方向となった。(2001/7/18加筆) ※7/25下都賀地区協議会は「つくる会」教科書不採用決定。(7/26)※「季刊Sai」に拙文掲載[→7月目次]





























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