インドネシア拉致事件(7)
LAST UPDATE 2001-07-12
ボブの別荘で

 サウィーおばちゃんが喫茶店の外に待たせていた白い車に乗り込んだ。

 後部座席は左右が向き合うシートになっていて、サウィーおばちゃんと向き合って座る。サウィーおばちゃんが、熱心に話しかけてくる。日本の話や仏教の話。ともかく喋りたそうで、間をあけずにまくし立てる。
 実は、これもワナだったのだ。おかげで、窓の外の風景をほとんど覚えていない。ある交差点でふと見た看板だけが記憶に残っただけだった。

 20〜30分も走っただろうか、車から降りると、白いおしゃれな屋敷だった。あたりは、高級住宅街という感じである。でもおかしい。
   kurochan「ヌサドゥの海岸へ行くんじゃなかったのか?」
   サウィー 「ここは、兄の別荘で、食事をしていこう」
 インドネシアでたまたま出会った人の兄の別荘で、タイ料理が食べられるなんて、食いしん坊で冒険好きのkurochanには嬉しい話じゃないか!事の意外な展開に、ワクワクしながら、サウィーの後について玄関へ向かった。

 サウィーが、タイ式挨拶は玄関で合掌するんだと説明する。kurochanも、タイ人の留学生に教わったタイ語の挨拶を覚えていたので、玄関で出迎えた兄のボブに、合掌しながら「サワディー」と挨拶した。ボブは、怖い顔をしていた。特に目つきにクセがある。しかし、そんな怖い顔とは裏腹に、ボブは俺をソファーに案内し、親しげに話し始めた。
 ここは、自宅ではなく別荘であること。たまたま今、タイからこのバリ島へ来ていること。今回の神戸の地震で、太郎という日本の友達が心配だということ。そんなことを片言の英語であれこれ話していた。サウィーは途中で、奥の部屋へ入っていった。どうやら食事の準備のようだった。

 しばらくして、食事が出来たと、奥の部屋へ招き入れられた。何と召使いが2人もいる。ドライバーも雇っているし、こりゃ大変な金持ちだ!と驚いてしまった。名前は知らないが、シーフードカレーライスのような料理がメインディッシュだった。一応遠慮がちに食べていたのだが、「遠慮するな」と言われて、正直にガツガツ食べ出したら、ボブもサウィーも驚いていた。そのあたりは「お笑いずっこけ体験辞典」を読んでいただいた方には、納得していただけると思います。

 食事中、ボブは、実はバ
ンコクのカジノでカードゲームの親をやっていると話しだした。それで納得。プロの博打師だから、そんな怖い目つきをしているんだな、と思った(これって偏見かな?)。しかし、話を聞いていると面白い。
 だいたいカジノに来る客は、大金持ちか貧乏人かに分けられる。金持ちは所詮暇つぶしだし、貧乏人は一攫千金をねらっているというのだ。なるほど。プロのカード師としては、どうせ暇つぶしの金持ちから金を巻き上げ、貧乏人に勝たせたいという。そして、それはちょっとしたトリックで簡単にできるというのである。なるほどなるほど。いつもそうしているというこのボブは、顔は怖くても、いい奴じゃないか!まるでねずみ小僧だぁ!と感心していた。ちなみに、ねずみ小僧の真相は、金のありそうな屋敷をねらったまでで、決して貧乏人の見方ではなかったんだけどね。
 「今度バンコクに来たらぜひうちのカジノに来い、勝たせてやる」という。あまり賭事はしないkurochanなので、カジノで賭けをすることはないと思うけど、そこは食事をさせてもらっている手前、「その時は、ぜひヨロシク」と答えた。

 食事も終わると、ボブに別の部屋に連れていかれた。部屋にはベッドが置いてある。そして、ボブが背後に立った。一瞬、襲われたらどうしよう!とおののいた。俺は同性愛者ではないし、強引に押し倒すのはルール違反だ。これもちなみに、同性愛者も異性愛者も、どちらもありのままに認めるべきだと思っていますが。
 ボブは、部屋の隅から折り畳み式のテーブルを持ち出してきて、俺の目の前に広げた。この位置関係も、実はワナだったんだけどね。

 「Mr.Kurodaに、さっき話した、カードゲームのトリックを教えてあげよう」と、ボブが言う。カジノのプロのカード師にじきじきトリックを伝授してもらえるなんて、実にすごい話じゃないか!「カードゲームは、何を知っている?」「ポーカー、ブラックジャック......」「じゃあ、ブラックジャックのトリックを教えてやろう」。

 さすがにカードさばきは見事だった。カードを裏向きに配るときに、チラッと表を見て、勝たせたいプレーヤーに指の動きで教えるという。テーブルに積むカードの山も、一番上のカードが何であるかを指の動きで伝えるんだから、後はよく考えてやれば、ゲームに負けることはない。俺は、13種類の指の動きをマスターした。実に自然で何気ない動きだが、暗号になっているのだ。何度か練習させられたが、分かってみれば簡単なこと。「Mr.Kurodaはマスターが早い」と褒めてくれる。
 これは面白い。日本に帰ったら、いつもの飲み屋のカウンターで、飲み友達を驚かせてやろう!と楽しみに思った。偶然の出会いから得た、ヒットなお土産だ。

 そこで、ボブが切り出した。実は、Mr.マリックという大金持ちの男がまもなくここへやって来る。昨日ここでゲームをして、負けさせたかったが、大勝ちしてしまった。今日もここへゲームをしに来るが、今日は金を巻き上げたい。どうせ、ブルネイ王国の金の商人の暇つぶしだから、負けたってどうってことない。お前がゲームの相手をしろ。というのだ。

 当然、断った。話は分かるが、危険だ。トリックを教えてもらって面白いとは思ったが、実際金を賭けたゲームとなると話は違う。だいたい、インドネシアでは、買売春と賭事は厳罰だ。旅行者であっても、処罰される。ガイドブックにも、旅行社からもらった注意書きにも書いてあった。ボブは、みんなやっているという。処罰されるので公には出来ないが、みんなこうして自宅でこっそり賭事をしているというのだ。お前なら、絶対勝てるという。それでも、このまま成り行きで、ゲームをしてしまうのは、危ないと思った。

 その時、Mr.マリックが部屋に入った来た。

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