インドネシア拉致事件(18)
LAST UPDATE 2004-12-27
お前を逮捕する!


 日本領事館から事情は聞いているはずなのに、ロビンソンは俺の口から説明を聞きたいという。

 お互い片言の英語での事情聴取が始まった。お互いがおぼつかない第二外国語という会話は、以外と会話はスムーズにいくものだ。難しい単語も構文も使えないので、話の筋が伝わりやすい。語彙の解釈がずれがちだったりするが、そのずれも朗らかな笑いを誘う。
 ところがこの日の会話はそうはいかなかった。ただでさえ、警察署での取り調べなのだから、いい加減な言葉は立場を危うくするし、そのずれは致命的な結果を誘う。

 最初からつまづいた。
 「サウィーは若い女性のはずだ、そしてお前はサウィーとホテルに行ったのだろう!」と、ロビンソンは決めつけた。そして、助平の日本人男性が年輩のおばさんの後をのこのことついていく訳がないと、強く俺を問いつめるのだ。
 だいだい俺は、「飲む」は好きでも「打つ」と「買う」はしない。確かに、海外旅行先の各地各地で、助平丸出しの日本人男性を多々みてきたが、俺はそんな人間ではない。「詐欺と売買春は厳罰」というインドネシアの法対策以前に、俺という人間の誇りとして、断固拒否する俺だった。
 この押し問答だけでも、20分くらいはかかったのではないだろうか。ようやく納得してくれたロビンソンだったが、しばらく話が進んだ後も、
 「ところで、サウィーのプロポーションはよかったか?」などと、罠にかけるのである。あきれるばかりの俺だったが、こういう時こそ、適当な相づちを打ってはいけないのだ。

 随分と時間をかけて説明を続ける俺だった。日本語ができる警官が同席するという話だったが、いっこうに現れる気配がない。

 再びつまづいてしまった。
 ボブの別荘での食事中、カジノでカードゲームの親をしているという話を聞いていた場面の説明で、俺は「interesting」という単語を使ってしまったのだ。「旅の土産話として、面白い話を聞くことができたと思ったんだ」と言いたかったのだが、ロビンソンは「カード賭博に積極的に参加したい」と俺が意思表示をしたのだと解釈したのだ。そして、お前は積極的に賭博に参加したのだから特例措置には当たらないとし、こう宣言した。

 「お前を逮捕する!」

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