電話は日本領事館からだった。
詐欺事件担当の領事館男性職員が言うには、現地クタ警察署のロビンソン副署長が待ちくたびれているというのだ。
日本領事館から直接警察に事情を説明し、捜査協力をする俺を逮捕しないように要請もしたということだが、俺がなかなか出頭しないので、ロビンソン副署長から問い合わせの電話があったという。クタ警察署の署員たちは昼飯をとりに出かけたが、出張中の署長に代わって俺の事情聴取をすることになっているロビンソン副署長はお腹をすかせたまま待ちぼうけの状態だというのだ。
だから、早く警察に出頭せよ、というわけだ。
しかし、旅行社現地支店から「現地警察を信用するな」と言われたことを説明すると、それは大丈夫だという。事情はすでに説明してあるし、警察には日本語ができる署員もいるというのだ。それに、日本領事館としても俺の警護に全力をあげるし、警察にも依頼してあるという。ホテルのセキュリティガードマンや私服警官がすでに俺を完全警護しているというのだ。
「Mr.kuro○○どこいく?」と声をかけてきた私服の男性たちも、夜通しトイレ掃除をしていた従業員たちも、俺を警護していたのだ。
その上、外部から俺への電話は、ホテルの電話交換手がすべて身元を確認し、それが不明なら俺の部屋にはつながないという措置もとってあるという。
だから安心して、警察に出頭しろというのだ。そこまで言われれば、引けないではないか。
「わかりました。今すぐ、クタ警察署に行きます」
と答えざるをえなかった。
俺を尾行警護している私服警官がいるはずだったが、それがどの人物かは分からない。キョロキョロしながら、クタ警察署までの道を急いだ。
警察の受付で、「ロビンソンに会いに来た」と告げた。「副署長」という英単語なんか知らない。
「アポイントもとってある」
と告げると、奥の部屋へ案内された。
待ちぼうけをさせたうえ、敬称もつけなかったのが、俺の印象を悪くさせたかもしれないと後から気付いたが、その時は、捜査協力の打合せとは、いったいどういうものなのだろうか、ということしか考えていなかった俺であった。