キャッシュの準備不足を許してくれたことに、義理堅く恩を感じてしまった俺は、惨敗したMr.マリックの、「もう少しぐらいゲームを続けてくれ」という申し出を受けてしまった。
Mr.マリック 「何分ならゲームを続ける時間があるんだ?」
kurochan 「.... 20分」
そこにボブが割り込んだ。
「俺も妻が出産間近で、これから病院に見舞いに行かなきゃならないんだ。5ゲームが限度だ」
ボブに出産間近の妻がいたとは知らなかったが、そういうことなら、ずるずると引き延ばされる事はなかろう。
早速ボブはカードを配り始めた。俺としては、残る5ゲームを消化試合としてやりすごせばいいわけだ。
その1ゲーム目、俺の勝利だった。続く2ゲーム目、やはり俺の勝利だった。そして3ゲーム目、Mr.マリックが勝負をかけてきた。プラスチックのおはじきを大量に積み上げている。
テーブルに積まれたカードの山から1枚とるかとらないかが、勝負の分かれ目になりそうだった。俺の番なのだが、ボブのサインが無かったのだ。見落としたのだろうか?とも思ったが、俺の耳元で、いつもその数字を小声でささやいていたサウィーおばさんも首をかしげている。ボブはサインを出し忘れたのだ。さもなくば、俺やサウィーにうまく伝わるようなサインの出し方ができなかったのだ。
一番の上のカードが何か分からない。
そのカードを俺が取るべきか、Mr.マリックに取らせるべきか。俺もMr.マリックも勝負に出るには、まだ数が小さかった。Mr.マリックはカードに手を伸ばすだろう。そのカードが何かが分かれば、俺が取るべきか、Mr.マリックに取らせるべきかが判断できるのだが、ここは勘に頼るしかなかった。
俺はカードを取った。Mr.マリックもその次のカードを取った。勝負があった。Mr.マリックの大勝利だった。俺がもしカードを取っていなければ、Mr.マリックは21をオーバーして、俺の勝ちだったのに。
まだ2ゲームを残していたが、「これで納得!」とばかりに、現金をアタッシュケースに放り込み、Mr.マリックはドアから出ていった。あっという間の結末だった。
俺は負けた。が、どれくらい負けたのだろう?ボブやサウィーが言葉もなく、うなだれているところを見ると相当負けたようだ。
「Mr.マリックはどれくらい勝ったのだ?」
「オール(すべてだ)!」
現金ボックスに、現金は何一つ残っていなかった。
ボブが激しく怒り出した。
「どうしてあのカードを取ったんだ!マリックに取らせていれば、お前は勝ったんだ!お前に貸した金をどうしてくれる?!出産費用も無くなってしまったじゃないか!」
あのカードに手を出してしまったことが無性に悔やまれたのだが、ボブの最後のセリフが俺には辛かった。大変な迷惑をかけてしまった!俺はどうしたらいいんだ!!!俺もボブもサウィーも、現金を失ってしまったのだ。今度は俺が言葉を失い、うなだれる番だった。
「お兄ちゃんがサインを出し忘れたんでしょ!私にもサインは見えなかった。Mr.kuro○○は悪くない。サインを出し忘れたお兄ちゃんが悪いのよ!」
サウィーが猛然と反撃してくれた。これは相当嬉しかった。追いつめられた俺は、このサウィーの激しい言葉で随分救われたのだっだ。ボブも、妹の反撃にすこしひるんで、やがて部屋を出ていった。
サウィーが俺に慰めの言葉をかけてくれる。
「Mr.kuro○○は悪くない。お兄ちゃんがサインをちゃんと出さなかったのが悪いのよ。」
そして、こう付け加えた。
「Mr.マリックが、また明日来る、って言って出ていったでしょ。明日もう一度勝負して勝てばいいのよ。私たちも困るけど、あなたも困るでしょ。明日は勝負に勝って、お金を取り戻しましょう」
Mr.マリックがまた明日来ると言ったことは、聞き漏らしていたが、「あなたは悪くない。明日の勝負に勝てばいい」を繰り返すサウィーの言葉にすがるしかない気分だった、、、、気分にさせられていた。
それでも、その時点では最悪の状況であることに変わりはない。俺はまだうなだれていたのだが、部屋に戻ってきたボブが、そんな俺をどなりつけた。
「You're a baby!」
うなだれながらも、「意気地なし!」という罵声はこう言うのか、英語の勉強になるなぁ、と感心していたkurochanであった。