おちるゆめ
第三回エントリー作品  落ちる夢
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 飛ぶ夢を見た。
 明るい光に満ちた虹色の空。道みたいに一本のひこうき雲が天に伸びている。辺りはサテンの光沢。一通りでない青い色がランダムに色彩を変えていく。ずっと見ていても飽きないほど不思議。
 青いだけじゃなくて金色にキラキラ煌いている。何処からやって来るの? その光。確かめたくて、思い切り地を蹴った――
 
 彼をすぐさま忘れるなんてできない。でも、少なくとも別れた後まで負担にはなりたくないと思った。遠くで彼と彼女が幸せなら、それでもいいかも知れない。暫くは目の当たりにしたくないけれど。心が狭い私でゴメンね。
 事情を知った友達は心配している。私が明るいから変だと思っている。だけど良く考えて。メソメソしたって彼は戻って来ない。そんなの自分がもっと惨めになるだけだもの。負けたくないよ、自分の弱さに。だから笑っていたいだけなの。早く過去にするためにも。
「良かった。元気そうで」
 そう言ってくれた人がいた。馬鹿騒ぎする時の仲間の一人。今までは随分遠くにいたように思う。
「早く彼と別れればいいと思ってた」
 はっきり言うなぁ、もう。なのに不思議と嫌味じゃないんだなぁ、これが。
 この人、何に対しても、誰に対しても直球的発言をする。ウソがないから信用できると思った。キッツイ一言でも、笑って言われるとつい許してしまう。言葉はポンと投げつけても気配りは決して忘れないから。つまりアフター・フォローは万全。
 告白されたわけじゃないけど、何となく一緒にいる。約束したわけじゃないのに、いつも同じ場所で会う。時々こんなことも言うし。
「一緒にいると、何しでかすか予測がつかなくて楽しい」
 って。どう言う意味だ、それは。
 だからって笑ってばかりじゃない。私が悪い事をするとすかさず叱る。理不尽なワガママを言うと時間も忘れて諭す。それってけっこう大切。何処が悪いか言ってもらわないと、直しようがない時だってあるでしょ? この人といると自分を見つめ直すのも苦痛じゃない。
 
 自由自在に飛んでいる。空中で踊る光と一緒に。光はもっと高いところから来る。そこまで行ってみたい、行ってみよう、今なら辿り着ける。
 宙を蹴って風に乗った。どんどん高いところまで連れてってくれる。最初に飛んだ時の不安定さなんか少しもなかった。この青い風の中で飛び続けると心の中まで洗われるみたい。嫌な自分なんて飛ばしちゃえ。光の元まで飛んで行けたら、私だって生まれ変われる気がする。
 だけど。
 あんまり綺麗な光だったから、あんまり煌きすぎたから、目が眩んだ。気がつけば真っ逆さまに急降下。無抵抗に落ちていく私。
 また? また落ちちゃうの、私……
 その時、大きな手が私の腕を掴んだ。そのまま上空まで引っ張り上げてくれる。そこからずっと支えながら飛んでいてくれた。
 誰だろう? 光に包まれていて顔は見えない。でもたぶん、私には誰だかわかっている。
 もう落ちる夢は見ない。支えてくれる腕があるから。何処までも一緒に飛んでくれる人がいるから。これからは安心して飛んでいける。あの一番高い、光が生まれる場所まで。
 二人で一緒に、何処までも、何処までも――
−Fin−
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