ドラえもんのびっくり 古代モンスター
2008年 7月30日発売
小学館
850円+税 本文執筆・イラスト:北村雄一 まんが:岡田康則
キャラクター原作:藤子・F・不二雄 概要:
おなじみ、ドラえもんのキャラクターたちが絶滅した古代生物たちを実際に見に行くという形式で、古生物たちを紹介するという内容です。北村の担当は復元イラストと本文の執筆。今回は最古のバクテリア化石から現在のセコイヤデンドロンまでと幅広く、あらゆる生物を紹介しているので監修者は立ていません。ですから基本的にスタンダードな見解だけを紹介しました。また、復元イラストは子供向けということもあってややコミカルに描かれています。
内容の構成は以下の通り
第1章:びっくりなんでもナンバー・ワン・・・・・・・生物それぞれのグループで最古、あるいは最大など古生物のナンバーワン
第2章:時代別びっくり最強モンスター・・・・・・・・アノマロカリスからスミロドンまで、時代ごとの大型捕食者たちとその特徴
第3章:すがたびっくり きみょうなモンスター・・・・ディッキンソニアからフォルスラコスまで奇妙、不思議、大きい、目立つなど面白い特徴を持った生物たち
第4章:びっくり「他人のそらに」モンスター・・・・・ディメトロドンとエダフォサウルスなど、系統は違えども姿形がよく似ている古生物たちと収斂進化
第2章でカンブリア紀から後期新生代まで時代順に大型肉食獣を紹介。それらのページで地質時代とそのおおまかな特徴や出来事を紹介したので、一応、地球のざっとした歴史を知ることができるようになっています。もう少し詳しく地球の歴史を知りたい方は教科書を読むか、さもなければ以前、北村が真鍋さんの監修で書いた「ティラノサウルス全百科」を参考のこと(小学生向け)。とはいえ、地質年代の環境やその特徴に関しては幾人かの研究者の方々から色々と教えてもらいました。
また、今回の古代モンスターではすべての生物について時代、大きさ、場所、学名の意味までスペックとして簡単に紹介しています。学名の読み方、学名の意味に関しては小学館からすでに出されている「大むかしの生物」(監修:日本古生物学会)に準じています。ただし、一部の種類に関してはより普及している呼び名の方を採用したものもあります。
また、Josephoartigasia のように一部で普及している名前ではなく、名前の元になった人名に準じた呼び方の方を採用したものもあります。
*注:最大のげっ歯類 Josephoartigasia はジョセフォアルティガシアと呼ばれることが多いらしいが、この学名がホセ・アルティガスという人名に由来することから、この本ではホセフォアルティガシアと表記している。学名は普通、名前の由来になった人名、地名に準じた読み方をするため。同じ理由でデボン紀の肉食魚 Dunkleosteus もダンクルオステウス。
なお学名の由来に関しては、その多くは「大むかしの生物」に準じることができましたが、中にはこの書籍に載っていない生物がおり、さらに一部のものは記載が古すぎて原記載論文にあたれなかったり、そもそも原記載を見ても名前の由来 (Etymology )に関する記述がなかったりしたものがあります。そういう場合はラテン語とギリシャ語の辞書から名前の意味を推論して書きました。Pterygotus はギリシャ語の”ヒレ:pteryx (pterygo- )”+”神話に出てくる暴虐な巨人Otos”の複合語(ギリシャ語がラテン語化する時に語尾がus になってる?)だと思うのですが、どうなんでしょうねえ、、、。このあたりは要検討/要調査。
また、三葉虫のオンニア Onnia に関してはほぼ間違いなく、産出した場所の地名で(なおかつ地層、層準の名前の由来でもあるらしい)イギリスのOnny に由来するようです。これも記載が1933年の自費出版であるらしく、原記載にはあたれませんでした。なおここから出ている腕足類にはOnniella という学名のものがいます。Onny はオルドビス紀からシルル紀にかけての地層がずらっと出ている場所で、三葉虫や腕足類の化石がとれるらしい。三葉虫に関する著名な研究者によるモノグラフも出ている模様。イギリスってうらやましい国だねえ。
それにしても学名の由来に複数の説がある理由とは、なるほどこういうことだったのかと納得。例えば「生物学名概論」平嶋義宏 2002 東京大学出版会 を見ると、シリアゲムシの学名 Panorpa は pan+orpe と解釈する説と pan+harpe と解釈する2つの説があるそうな。昔の記載論文は(今でも)しばしばEtymology が書いていない場合があります。
備考:アラクノモルファに関して
この本では、バージェス頁岩から見つかる節足動物レアンコイリアをアラクノモルファであるとしています。
* Briggs & Fortey 1989, Science, vol.246, pp241~243. Wills, Briggs & Fortey 1994, Paleobiology, 20(2), pp93-130. を参考のこと。また、Briggs らによる著作の和訳書「バージェス頁岩化石図譜」朝倉書店 2003 も参考。
また、レアンコイリアには目が4つある(らしい)復元はGarcia-bellido & Collins 2007, Palaeontology ,50,pp693~709 に基づいています。ただし本書で描いたようなイラストでいいのかどうかはちょっと疑問の余地ありでしょうか? また、そもそもレアンコイリアがアラクノモルファであるのかどうかも議論の余地がありますが、その説明はまた別の書籍で。なお、この本ではグールドが「ワンダフル・ライフ」で主張したような見解(バージェスの節足動物の多くは既存の分類体系に収まるものではない)は採用しませんでした。当然、レアンコイリアも普通に節足動物であり、そもそも節足動物は単系統群である、という考えを採用しています。同様に多くの研究者の見解に従って、アノマロカリスも既存の節足動物の姉妹群であるという扱いをしています。
*グールドの”違うから違うのだ”という主張はようするに系統学以前、ひいては分岐学以前の考えであって、今さら通用しないだろうということです。彼のワンダフル・ライフにおける論の展開はワンダフル・ライフ刊行当時にすでに怪しげ/あるいは根拠を失いつつあった節足動物多系統説に相当立脚しているっぽい(ここは要調査)。さらに彼のアプローチはしばしば”これは特別な事件であって現在の物差しでは推し量れないものである”という意味合いが強く、科学としては使い勝ってが悪いようにしか見えないのでこの本では採用しませんでした。
グールドの独創きわまりない見解に関しては、「バージェス頁岩化石図譜」朝倉書店 2003 や「三葉虫の謎」早川書房 2002 、「カンブリア紀の怪物たち」講談社現代新書 1997 における、ブリッグスたちやフォーティー、コンウェイモリスらによる(比較的穏便ではあるが否定的な)コメントも参考のこと。