Q :始祖鳥とはなんですか?。
A:始祖鳥とはもっとも古い時代から見つかった原始的な鳥、あるいは鳥と見なされた動物です。少なくとも、鳥の最初の姿と飛行の進化を知る大きな手がかりになる動物だと言えるでしょう。
解説:始祖鳥(Archaeopteryx:アーケオプテリクス)はドイツの1億5000万年あまり前の地層から見つかった鳥の化石です。学名のアーケオプテリクスという言葉自体、暁の羽、という意味です。始祖鳥よりも古い時代から鳥のものではないかといわれた化石(例えばプロトアヴィス)が報告された例もありますが、化石としての有効性が疑われています。
そういうわけで、確実に鳥だと言える一番古い化石はやはり始祖鳥です。始祖鳥は現代の鳥と共通の特徴を幾つか持っています。それには、
:腕が非常に長いこと
:空を飛ぶための翼を持つこと
:翼の羽が左右非対称の風きり羽になっている
:尻尾をつくる骨の数が20個以下である
などといった特徴が上げられます。
ただし、近年の発見から腕が長いことや、翼を持つこと、風切り羽を持つことは始祖鳥よりも原始的な恐竜にも見られることが分かってきました。始祖鳥と現代の鳥が共通して持っていて、他の恐竜に見られない特徴、つまり始祖鳥が鳥である、あるいは鳥に非常に近い証拠になる特徴は、例えば以上に列挙したものの中では
:尻尾を作る骨の数が20個以下である
ぐらいしか残っていません。もちろん、もっと細かい特徴を含めれば始祖鳥が鳥であることを示す証拠はもう少し増えます。例えば、
:足の親指が後ろを向く
:口の裏側の骨が鳥的である
などがそれです。
しかし2005年の報告で、保存の良い始祖鳥の化石を観察したところ、上の2つ、足の親指が後ろを向く、口の裏側の骨が鳥的である、という特徴は実際にはない、ということが分かりました。それでも色々と細々した特徴を上げていくと始祖鳥はやはり鳥である、という結論が得られていたのです。
この状況に一石を投じそうなのが2011年に中国の研究者、徐星さんがnatureに報告した論文です。この論文は、始祖鳥は鳥ではなく、むしろディノニコサウリアであるという結論が得られた、ただしそれを支持する証拠はわずかしかない、そういうものでした。ディノニコサウリアというのは鳥に非常に近い肉食恐竜の一群でディノニクスやトロオドンなどが含まれています。ようするに
_______現在の鳥
| |___始祖鳥のポジション1
|_____ディノニクスやトロオドンなど
|___始祖鳥のポジション2
以上の1よりも2の位置の方がわずかだけども正しいようだ、そういうことですね。この違いはあまりたいそうなものではなくて、この人はおじいさんのおじいさんだろうか? それともおじいさんのおじいさんの弟だろうか? といった程度の違いだと言えるでしょう。こういった、始祖鳥は鳥ではない、という研究結果は幾つかありますし、正直な話、どれもあまり良い論文ではありませんでした。
しかし、徐星さんの論文は興味深いもので、それは見方を変えてきたことです。非常に大雑把に言ってしまうと、進化した肉食恐竜(より正確には派生的な獣脚類→*)は本来、植物を食べる恐竜らしい、そこから肉食に改めて進化したのが始祖鳥やディノニクスなどではないか、というものです。確かに始祖鳥は細長い顔、鋭い歯を持ち、植物食のものが多い進化した肉食恐竜の中ではかなり異彩であるとも言えるでしょう。そしてその特徴はディノニクスなど鳥に近縁で獲物を襲う恐竜たちと共通しているのです。見方を変えれば始祖鳥はむしろ積極的にディノニクスの系譜に入るのではないのか? そういうことですね。
徐星さんのアイデアが今後どうなるのかはまだ分かりません。ただ、始祖鳥は鳥の祖先である、あるいは鳥の祖先から少し外れてこれから大型肉食動物を生み出そうとする一族の初期のものである、そう理解すれば正しいと言えます。また、たとえ始祖鳥がディノニコサウリアであるとしても、始祖鳥が鳥と飛行の進化を理解する手がかりであることに変わりありません。始祖鳥は後ろ足に小さな翼と思わしきものを持っていたので、4枚の翼で飛行していた可能性が2006年には指摘されています。
*徐星さんの結論は派生形質と原始形質が逆だったのではないか? という興味深い指摘でもあります。実際、鳥の進化、ディノニコサウリアの進化や系統解析においては、こうした評価の見直しが幾つかの局面でありました。系統推定についてはこちらを参考にしてください→*