Q:プロトアヴィスってなんですか?

 A:プロトアヴィスというのは一部の研究者が最も古い鳥であると言っている断片的な化石です。その正体は良く分かっていませんが、多くの研究者はキメラであろうと考えています。

 

 解説:キメラ・・・、これはギリシャ神話に出てくるヤギ、ヘビ、ライオンの首を持つ怪物の名前です。ファンタジー系のゲームでも良く使われる名前ですね。生物学でキメラというと幾つかの生き物をまぜたもの、という意味で使われます。ここでは別の種類の動物の化石を混ぜた、という意味であると考えて下さい。

 さて、プロトアヴィス(Prtoavis:プロトエイヴィスとかプロアビス、プロトアビスと読む人もいます)はテキサス工科大学のサンカール・チャタジーさんによって1985年に発見された化石です。彼はこれを鳥の化石であると考えました。プロトアヴィスが見つかった地層は2億3000万年あまり前のもので、もし、彼の解釈が正しいのならば、これは世界で最も古い鳥の化石となります。

 普通、最も古い鳥の化石は有名な始祖鳥です。こちらはヨーロッパにある1億5000万年あまり前の地層から見つかっています。チャタジーさんの意見が正しいとすると、プロトアヴィスは始祖鳥よりも7000〜8000万年は古い鳥ということになるわけですね。ただし、一部の研究者、ラリー・マーティンさんやフェデューシア教授などを抜かすと、多くの研究者はプロトアヴィスが鳥であることを疑っています。

 というよりも、多くの研究者がプロトアヴィスと呼ばれる化石のかなりの部分が鳥ではないのではないか? と考えているというべきかもしれません。

 例えばチャタジーさんが鳥の鎖骨と考えた骨は、実は鳥とは縁の遠い爬虫類の尻尾の神経棘でしかないかもしれません(神経棘とは背中を走る神経をカバーする骨の突起のことで、私たちの背中にあるごりごりしたのがそれです)。

 一方、鎖骨:さこつ:というのは、これも人間にもある骨で首の両脇にあります。人間では左右の鎖骨は離れていますが、鳥など多くの恐竜では左右の鎖骨がくっついてブーメラン型やUの字型、あるいは現代の鳥のようにYの字状になっています(こういう鎖骨を叉骨と呼びます)。

 さて、鎖骨が神経棘とはいかなることか?。これはようするに他の研究者にはチャタジーさんのいう”鎖骨”が鎖骨には見えず、神経棘に見えたってことです。この意見に従うと、チャタジーさんは1本の神経棘を、鎖骨の片側であると誤解したことになります。どちらの意見が正しいかは今後の化石の発見で確認できるでしょう。

 困ったことにプロトアヴィスにはこうした意見がひとつではなく幾つもまとわりつきます。例えばチャタジーが翼の羽毛がつくと考えた腕の骨のブツブツは単なる破損かもしれません。手と手首の骨はワニに似ているという意見もあるようです。

 他にも問題があります。例えばチャタジーさんの見つけた化石と彼が描いた骨格の復元図はまったく似ていません。また。骨のパーツは同じ動物のものにしてはチグハグな大きさや比率をしています。そんなこんなで多くの研究者は、プロトアヴィスと呼ばれる化石は何種類かの違う動物の骨を寄せ集めたキメラではないかと考えているのです。

 参考

 Sereno 1999. The Evolution of Dinosaurs. Science Vol.284. pp2137~2147

 Currie 1997. Theropods. The Complete DINOSAUR. Indiana University Press. pp216~233

 Chiappe 1995. Nature Vol.378 pp349~355 The first 85 million years of avian evolution.

 

 注:プロトアヴィスと発見者チャタジーの評価を日本語で知りたい人は「恐竜発掘」二見書房 1993 pp100~122 を参考にしてください。この本はもう古本屋でしか手に入りませんが、プロトアヴィスに関わる研究者の言動、評価の記述は、北村が幾人かの人から聞いたエピソードと照らし合わせるとかなり正確であるようです。ようするにこの恐竜発掘という本、科学的な記述には多少疑問がありますが、科学者が何を発言したのか、相手をどう評価しているのか、それがよく分かる本のです。なんというか、かなり正確な暴露本ですね。 

 

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