Mars

火星

公転周期:686.98日

軌道長半径:1.524天文単位

赤道半径:3396km

質量:地球の0.1074倍

密度:3.93

自転周期:1.026日

 

ここでは2020年、準大接近時の火星を9月28日から紹介します。

 2020年、2年2ヶ月ぶりに地球が火星を追い抜き、双方の距離が縮まる時期が来ました。前回2018年はおよそ15年おきに起こる大接近で距離は5759万kmでした。今回2020年の接近はそれよりもやや距離が離れた準大接近というべきもので、距離は6207万kmとなります。最接近は2020年の10月6日。以下、2020年の9月28日のスケッチから開始。

 

 前回の観察は9月22日。そこから台風12号が関東を直撃する形で列島へ北進。24日に温帯低気圧になるも、千葉の東で居座り続けて秋雨前線を刺激。こうして列島はずっと悪天候に。台風13号の北上と、その東進に引きずられる形で、元12号の低気圧と前線が太平洋沖合へ去ったのがようやく28日。左は6日ぶり9月28日に観察した23:10の火星。中央の経度は170度 真ん中から右がシレーンの海の”への字部分”。その左下延長、下半球に黒い斑点が見えますが、これはタルシスの山々のように思えます。

 真ん中は29日22:45の火星。中央の経度は160度で、火星の真ん中にあるのが”への字”をしたシレーンの海(Sirenum)。

 それに続いて右は日付が変わって30日、0:45の火星。中央の経度は180度 シレーンの海は火星の夕暮れの経度へ移動し、への字の先が明るく輝いています。色は白というよりは黄色味がかかった灰色。多分、夕暮れの暗闇の中で輝く雲なのでしょう。位置からするとタルシスの山々、特にアルシア山(Arsia Mons)にかかった雲らしい。1:00に顕著に明るくなりました。

 このように輝きが増す一方で、明るい領域が狭まっていきました。タルシスの三つの山は下に位置するものほど経度が夕暮れ側なので、下のアスクラエウス、パボニスと隠れていって、最後に残ったアルシアの山の雲だけが輝いていた。そういうことに思えます。

 

 左は上に続いて9月30日、3:40の火星。中央の経度は210度 0:45に輝いていたアルシア山の雲らしきものの輝きは鈍っています。中央の経度を210度として、日没の経度を単純にここから−90度だとすると、くだんの経度は120度になり、ちょうどアルシアの山(Arsia)。多分、日没して雲も光を反射しなくなった、あるいは輝きを失いつつあるということなのでしょう。

 真ん中はさらに続いて9月30日、5:10の火星。中央の経度は130度 火星の朝の経度、右側から大シルチスが姿を見せ始めています。朝焼けの経度にはモヤがかかっているものですが、この時間は下半球のモヤが輝いています。この2時間前の3:40では上半球のモヤが明るい状態でした。

 右は翌日10月1日、22:30の火星で中央の経度は130度。シレーンの海のへの字の先、下半球にある舌状に伸びる暗い模様は揺れる気流の中で一瞬一回だけ見えたもの。多分、タルシスの山々(Tharsis)で、この時点では雲がかかっていないように思えます。タルシスの山々の雲は正午にはなくて午後に冷えると現れるということでしょうか

 左は以上の10月1日22:30に引き続き、1日23:55の火星。中央の経度は145度 火星中央にあるシレーンの海、への字の先が明るく、そして白くなっている。多分これはタルシスの山々に雲がかかっている様子。そのわずか下に薄い斑点があるけれども、これはアルシア山でしょうか? この暗い斑点が見えたのは最初に一回だけ。その後、24:25まで観測した30分の後半に雲と思われる白味が強まりました。

 アルシア山(Arsia)と思われる斑点が一瞬見えた後、しばらくしたらそこの白味が強くなる。これはアルシアの山に30分の間に雲がかかったということでしょうか? しかし雲が湧き出す時間として30分は短すぎる。最初に見えた斑点は実は別の山だったのか、あるいはまだ雲がかかっていないアルシアの山の周辺だったのか? あるいはそれとも、正午がすぎて温度が冷えることで一斉に結露...というか凍結が起こって雲が生成されるということでしょうか。

 ちなみにこのアルシア山と思われる斑点の右下に、もう少しはっきりしたかすかな斑点があります。こちらはオリュンポス山(Olympus)らしい。

 真ん中は左に続いて日付変わった10月2日、1:50の火星(スケッチの書き込みでは日付が変わったことを忘れて10月1日のままになっています)。中央の経度は165度 への字を描くシレーンの海は火星の左へ回り、その延長部分が明るくなっている。この日没の雲は時間経過と共に明るくなるものの、範囲は狭く、むしろ小さくなります。タルシスの山々にかかっていた雲が順次日没して隠れて、アルシス山の雲が輝き残っていると考えると説明はつきそうです。

 右は続いて10月2日(スケッチでは1日と誤記)、3:20の火星。中央の経度は180度。腹が空いたので食事をすませて戻ってきたら、シレーンの海は隠れ始め、そしてタルシスの山々のものと思われる雲の輝きはすっかりかすかに。そして時間経過と共に明るさが鈍っていきました。日没していったということでしょう。その下側にかすかに見える明るい白斑は、もしかしたらオリンポス山にかかった雲かもしれません。こちらは時間経過と共にやや明るくなったように思えます。オリュンポス山はタルシスの山々よりも手前にあるわけで、タルシスが日没で暗くなっていく一方、オリュンポスの明るさが目立ってくるはず。理屈は通ります。

 

 左は10月2日、22:30の火星 中央の経度は120度 太陽湖(Solis)とその周辺が火星の左に見えています。太陽湖の左下、アガトダエモン運河(Agathodaemon)の左下が白く明るくなっている。この時は気に留めませんでしたが、翌日の観測から考えると少なくとも今の時期、アガトダエモン運河の周囲はモヤがかかりやすい模様。

 一方、この観測をしていた時点での主眼はタルシスの山々に雲がかかるのはいつか? でした。22:30の時点で火星中央の経度は120度で、ちょうどタルシスの山々(Tharsis Mons)が正面にきている。見るに、シレーンのへの字の延長線に沿う様に暗い筋があり、これがおそらくはタルシスの山々。白くは見えません。やはり正午の時点ではタルシスの山々に雲は出来ないらしい。

 一方、火星の左上、22:40の時点で明るく黄色い領域が目立ちます。こちらは多分、アルギューレII(Argyre II)

 真ん中の火星は以上に続いて日付変わって3日、3:35の火星。中央の経度は190度。天候は良くなく、22:30から5時間、間があいています。シレーンの海は火星の左、すっかり日没の領域に回り込んでいる。赤道付近がやや明るいように思えますがはっきりしません。アルシア山にかかった雲かもしれませんが、日没したせいか、まもなく見えなくなりました。そして10月1日の3:20と同様、その下にもやや明るい領域があります。やはりこれはパヴォニス山か、あるいはオリュンポス山にかかった雲かもしれない。

 なお、火星の右下に舌状に伸びた模様が3本見えます。これらは気流が落ち着いた一瞬に見えただけでしたが、それぞれラエストリュゴン運河(Laestrygon)、アンタエウス運河(Antaeus)、第1、第2ケルベロス運河(Cerberous)

 

 左は10月3日、21:40の火星。中央の経度は95度。太陽湖が正午をすぎて、夕暮れ側(左側)に白雲が広くかかっています。またアガトダエモン運河(Agathodaemon つまりマリネリス峡谷)の上下、南北に強く、白雲がかかっていました。火星の左上に明るい小さな領域がありますが、アルギューレIIかもしれない。

 その下の白黒鉛筆画は上に続いて22:05の火星。太陽湖の右に見え始めたへの字をしたシレーンの海。その先に見えるタルシスの山々を示す薄っすらとした帯、その脇に明るい領域があります。アルシア(Arsia)の山にかかった白雲かもしれませんが、白ではなくむしろ自然の色、つまり明るい砂漠色。白雲であるという確証は持てません。

 真ん中は続いて日付変わって10月4日、0:15の火星。中央の経度は130度。太陽湖は夕暮れの領域へ進み、アガトダエモン運河はほぼ日没。ほとんど目立ちませんが、その周辺がやや明るいように見えます。今季の火星は赤道付近の夕暮れ部分でかなり強く白雲が輝くので、状況はよくわかりません。

 右は続いて4日、1:50の火星。中央の経度は145度。月に暈がかかり、薄曇り、気流悪く詳細不明。シレーンの海が夕暮れをむかえつつあり、その先が明るく輝いています。アルシアの山にかかった雲かもしれませんが、位置がずれているように思えます。

 

 左は10月5日、22:25の火星。中央の経度は95度。太陽湖が火星の真ん中に来たところ。気流は悪いものの、色々確認できて、南極冠の左脇に輝く二つの領域は、アルギューレIとIIらしい。また前々日の3日に見えたアガトダエモン運河周辺の雲は見えません。

 真ん中は5日、23:45の火星。中央の経度は110度。気流悪く、雲が多く、15分程度で観察を断念。詳細不明。とはいえ、アガトダエモン運河周辺に雲はなく、しかし夕暮れの経度に白雲が顕著。シレーンの海の延長のタルシスの山々が帯状に見えていますが、白雲は見えず。

 右は日付変わって6日、2:15の火星。気流は極めて悪く、ごく単純なことしかわかりませんが、赤道付近に白雲があること(青フィルターでは確認可能)、タルシスの山に白雲は見えず、朝靄は顕著。

 

 左は10月10日、23:15の火星。中央の経度は50度。非常にゆっくりした台風13号はようやく偏西風に乗って、秋雨前線ごと列島の東に移動、5日ぶりに火星観測。太陽湖が朝をむかえた時刻で、火星の中央に来ているのはオーロラ湾。そして夕暮れの赤道には明るい領域が見えます。マルガリータ湾より向こうにかかった雲がどうも輝いているらしい。下は23:30の火星で、マルガリータ湾の向こうにかかって雲は北極の白雲よりも目立ちます。一方、明け方の雲はほとんどわかりません。

 真ん中は日付変わって11日、1:40の火星。中央の経度は84度。太陽湖が正午をむかえ、火星の正面に来たところ。2時間前と変わって明け方の白雲が目立ち、シレーンの海がもやのなかから見えはじめました。また、タルシスの山々が暗斑になって見えています。夕暮れの経度では赤道の雲が時間経過と共に明るくなって行きました。

 右は続いて11日、2:50の火星。中央の経度は100度。オーロラ湾は最初見えたものの、夕暮れの雲に消え、明け方の白雲は目立ち、タルシスの山に白雲なし。時刻ごとに夕暮れ雲の明るさが変わるのは、場所によって雲の粗密があるからのように思えます。

 

 左は10月12日、2:30の火星 台風14号が接近中で大気は不安定。低い高度に盆地の雲が突然現れる。気流の状態は2で観察時間は5分程度。詳細は不明。中央の経度は100度。太陽湖が正午を過ぎたところで、オーロラ湾の向こうは夕暮れの中で明るく輝いています。

 真ん中は16日の火星。時刻は22:20。台風14号は列島直前でUターンして、小笠原で熱帯低気圧に変化。しかしそのまま停滞。北の高気圧と南の低気圧に挟まれた列島の上空をえんえんと雲が通過し、16日夜、ようやく雲間から火星を観測。火星の中央の経度は10度

 右は続いて16日、23:55の火星。中央の経度は25度。マルガリータ湾が中央に来ていて、その上に見える明るい領域は多分、アルギューレ1

 

 左は18日、21:35の火星。台風14号から変わった低気圧はようやく東の海上へ移動。火星の中央の経度は310度 左では大シルチスが夕暮れで、イシディス(Isidis)盆地は白く(ただし黄色味を帯びて)輝いているところ。夕暮れをむかえたイシディス盆地が輝くのはしばしば見られます。夕暮れの経度の上の部分では明るい白雲が見られ、南極冠は右下に伸びる感じ。

 真ん中は続いて日付変わって19日、0:25の火星 中央の経度は360度。朝もやが強く見えています。

 右は翌日20日、21:00の火星 中央の経度は310度 朝焼けが顕著。ちなみに朝焼けといっても夕焼け、朝焼けを見るというよりは暗くて火星の砂漠が赤っぽく見えている感じ。

 

 左は21日、以上のスケッチに続き、日付変わって0:15の火星。中央の経度は340度 夕暮れの大シルチスの脇ではイシディス(Isidis)盆地が南極冠と見まごうほどかがやいています。サバ人の海の先端にあるアリンの爪を確認。朝もや広く、顕著。

 真ん中は続いて21日、2:00の火星。中央の経度は10度

 右は24日、22:05の火星。中央の経度は290度 大シルチスが正面に来ており、夕暮れの経度、赤道付近では雲が輝き、朝焼けの経度では朝もやが顕著。

 

 左は25日、20:35の火星 中央の経度は240度 キンメリア人の海から大シルチスが見えています。キンメリア人の海から下へ伸びるの帯をスケッチではラエストリュゴン?(Laestrygon ?)、あるいはアンタエウス?(Antaeus ?)としていますが、実際にはどっちでもなく、多分サイクロプス運河(Cyclops)で、下端がケルベロス(Cerberus)

 真ん中は続いて21:50の火星 中央の経度は260度 チュレニーの海(Mare Tyrrhenum 語源はイタリア半島の西に広がる Tyrrhenian sea ティレニア海)と小シルチスが正面に来ています。そこから下へ伸びるのはAmenthes、Thoth、Nepenthes、まで続く領域で、下端で北極の雲に縁取られる暗斑は多分、アルキオニウス(nodus alcyonius アルキュオーネの点)。

 ちなみに以上、小シルチス下の斑点群は乱れる気流の中で、それぞれ個別に一瞬、一瞬、観察できたもので、総合するとなんか五角形っぽくなっています。なるほど、昔の人たちの火星スケッチが時として奇妙に幾何学的になるのはこういうことかと。多分、過去の火星スケッチが幾何学的になるのは人間が画像を幾何図形として認識すること、スケッチとはそもそも観察したものを説明するものであり、見たものを様式的でもいいから断固として示すものであること。そうである以上、スケッチはどうしても幾何学的になること。このあたりが原因でしょう。

 右は続いて25日、23:45の火星 中央の経度は280度 大シルチスが正面に来ていて、イシディスの盆地が妙に明るく見えています。

 

 左は27日...とスケッチに書いているけど実際には26日21:30の火星 画像のファイル名も間違っていて、mars20201027-27.jpg になっています。中央の経度は240度 下の鉛筆スケッチは22:05の火星で中央の経度は255度 イシディス(Isidis)の盆地が黄色く明るく輝いていました。この明るさは23:00には消えました。

 真ん中は続いて27日...ではなく26日22:40の火星 中央の経度は260度 先の25日、21:50の火星と同じであり、小シルチスより下(方位で言うと北)の運河や斑点群がほぼ同様に状況で見えています。注目したいのは

 キンメリア人の海から下に伸びる帯(スケッチではAntaeusと書いているけども、おそらくサイクロプス運河)

 小シルチスから下へ伸びる帯の下端、Alcyonios

 この両者がさらにつながって、火星の左下を小さく縁取っています。これはおそらくエリシュウム(Elysium)の山とその周辺

 右は日付変わって27日(この日付は正しい)の2:50の火星 中央の経度は320度で、夕暮れの経度では大シルチスが夕暮れをむかえており、イシディスの盆地が明るく輝いています。

 

 左は27日、20:50の火星 中央の経度は220度 キンメリア人の海が火星を横に走っており、下へ伸びる(多分、サイクロプス運河)の先が二股に分かれており、左はケルベロス運河(cerberus)、右はエウノストス(Eunostos)、そのさらに右がアルキオニウス(Alcyonius)。ケルベロスとエウノストスに縁取られた領域がエリシュウム山

 続いて真ん中は27日、22:50の火星 中央の経度は250度 下のスケッチ概略図でエリシュウム(Elysium)と注釈して丸く囲まれた領域は間違い。その左がエリシュウムです。

 右は28日 20:20の火星 中央の経度は200度 中央を下へ下がるのは注釈ではエウノストス(Eunostos)と書き込んでいるけど、多分、サイクロプス運河。その左下の縁取られた領域がエリシュウム(Elysium)

 

 左は10月28日 21:50の火星 中央の経度は220度 盆地に入った空気が上昇して雲が発生しているらしく、そして気流が悪い。シレーンの海からキンメリア人の海が帯状になって見えており、火星の左やや下の夕暮れ部分が雲で明るい。

 真ん中は29日、21:50の火星 中央の経度は210度。快晴だけども気流が悪く、像がブレる。火星の右では小シルチスが雲に囲まれて、しかしはっきり見えています。小シルチスが明け方にはっきり見えるのは初めて。この日は明け方のもやが薄かったのかもしれません。大気中の湿度が変化した、少なくなった、冬の北半球に取られた...ということでしょうか? 南極冠の下に明るい領域がまたたいていて、チューレII?(Thyle II ?) 火星の下(方位でいうと北極方向)ではケルベロス運河(Cerberus)などに囲まれたエリシュウムが見えています。

 右は続いて29日 23:35の火星。中央の経度は240度 火星の下(方位は北端)ではエリシュウムが夕暮れを迎えており、最初は夕暮れ色だったものの、観察後半(23:55)には白くなりました。気のせいなのか、雲がかかり始めたのか?

 

 左は10月30日 22:15の火星 中央の経度は200度 明け方の白雲は顕著で、火星の下側、北極方面ではケルベロスなどに囲まれたエリシュウムがかなりはっきり見えています。ちなみにエリシュウムは特に明るくは見えません。

 真ん中は続いて30日 23:50の火星 中央の経度は220度 晴天ですが気流は急激に悪化。火星の画面下では運河に縁取られたエリシュウムが夕暮れを迎えようとしています。

 右は翌日10月31日 21:05の火星 中央の経度は180度 晴天なるも気流悪く、この時刻以後の観測は断念。というかここから10日に至るまで晴天が多かったものの気流が悪過ぎて観測できない日々が続くことになります。どうも日本上空を通るジェット気流が強まったためらしい。条件が悪すぎるために、この時のスケッチもごく単純なものしかできていません。

 

 

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