Arthropoda

アルスロポーダ:節足動物

適当に集めた節足動物の主要グループ

Insecta:昆虫・画面の虫はゴミムシの仲間

Crustacea:甲殻類・画面にいるのはダンゴムシ

Myriopoda:多足類・画面にいるのはヤスデの仲間

Chelicerata:鋏角類・画面にいるのはクモの一種

 節足動物とは?:

 眼につく動物のなかでは地球上最大の種数を誇り、陸上、海洋、空中、砂漠、氷河や雪の上、数十度の温泉、極寒の南極から深度10000メートルを越えるマリアナ海溝最深部にいたるまで地球上のありとあらゆる場所と環境に分布します。脚を広げると最大4メートルになるというタカアシガニから単細胞生物とほとんど同じ大きさの種類までいます。

 現在の節足動物は主に4つの大きなグループに分かれていると考えられており、それぞれ、昆虫(Insecta:インセクタ)、甲殻類(Crustacea:クルスタキア)、多足類(Myriopoda:ミリオポーダ)、鋏角類(Chelicerata:ケリケラータ)と呼ばれます。

 これら4大グループはそれぞれひとつの系統であると考えられていますが(一部についてはそれ自身が単系統であるのかどうかについて議論がある模様)、グループの間の違いが大きく、4つのグループを節足動物としてひとつにまとめることは無理であるとしばしば言われてきました。いわゆる節足動物の多系統説です。この考え方は非常に詳しい解剖学的な証拠に基づいたものだったのですが、実際には系統解析とその手法が普及する以前にできたもので、系統を推論する適切な方法を持たないままに系統について言及してしまった例であったようです。

 系統解析の手法が普及すると分子データや形態データでもおよそ節足動物の単系統性は支持されています(そうでない結果もありますが)。そういうわけでこのコンテンツでも節足動物をひとつの系統として扱います。

 

 節足動物の特徴:

 節足動物とは読んで字のごとく、

”身体の表面がキチン質でできた殻(外骨格)に覆われており、脚の曲がる部分に節がある=節のある脚”

という共通点を持つ動物達のことです。他にも、

 ”身体が節のつらなりで出来ている”

というのも目立つ特徴のひとつです。

 とはいえ、かのダーウィンが指摘したように、すべての節足動物がこのような特徴を共有しているわけではありません。中には脚を失ったものがいたり、さらには”節で構成された身体”という節足動物らしい特徴をすべてなくしてしまったものもいます(フクロムシなど)。また、系統によって見た目の違いが大きく、脚の数や身体全体のプロポーション、さらに解剖学的にも非常に大きな違いが見られます(P.ウィルマー 98 pp317~347を参考のこと)。

  

 節足動物それぞれのグループについて簡単に:

 節足動物は現代も存続する4大グループ、および三葉虫に大別できます。詳しいことは系統のところでそれぞれリンクするとして簡単に各々の特徴を述べてみましょう。

 昆虫:1対の触角を持ち、物を噛む顎を持っています。身体は頭、運動を担当する胸、内臓を収めた腹の3つに分化しており6本脚です。もっとも分化の程度はさまざまでシミのように体節の形があまり変わらないものからハエのように高度に分化したものまでいます。主な生活場所は陸上。淡水中にはかなりの種類がいますが、海にいるものは例外的です。

 代表:シミ、トンボ、ゴキブリ、バッタ、セミ、チョウ、ハエ、カブトムシ

 

 甲殻類:物を噛む顎を持っています。そのため、昆虫+甲殻類、そして以下の多足類でひとつのグループ、大顎類(Mandiblata:マンディブラータ)を作ると伝統的に言われてきました。このサイトでもおよそマンディブラートとしてまとめていますが、異論もあります。甲殻類は昆虫と違い基本的に2対の触角を持っています。とはいえ、触角の様子、脚の本数、身体の分化の程度は様々です。異常なまでに形のバリエーションが多く、甲殻類どころか節足動物にさえみえない種類もいます。ダーウィンは種の起源のなかで、甲殻類をひとつに束ねる共通の特徴などない、と言いましたがさもありなん。主な生活場所は海と淡水で、陸上でも繁栄していますが昆虫ほど目立ちません。

 代表:カブトエビ、ミジンコ、エビ、カニ、ヤドカリ、ダンゴムシ、ワラジムシ、フジツボ

 多足類:物を噛む顎を持っています。また一対の触角を持つことなどから昆虫に近縁ではないかとも言われますが、はっきりしたことはわかりません。身体は頭と胴体に分化していますが、分化はその程度で体節ごとに同じような脚を持ちます。陸上にしかいません。

 代表:ヤスデ、ゲジゲジ、ムカデ

 鋏角類:以上のすべてのグループと違い触角がありません(議論はありますが解剖学的な証拠や系統解析から考えると退化したか、あるいは次に述べる鋏角に変化したようです)。また甲殻類や昆虫のような顎はありません。代わりにハサミ状の付属肢(鋏角:Chelicerae)があり、これで獲物をかじったり、あるいは毒液を打ち込んだりします。どうも系統解析をすると次ぎに述べる三葉虫とひとつの系統をつくるようです。鋏角類+三葉虫その他で作るグループを例えばアラクノモルファと呼びます。また、バージェス頁岩などの化石や系統解析の結果から見る限り、昔、鋏角類とそれに類縁のある動物は海中で甲殻類と勢力を争えるくらい種類が多かった可能性があります(解析次第では状況が変わってしまいますが)。しかし現在は海では衰退して、カブトガニとウミグモ類以外は陸棲です。

 代表:カブトガニ、クモ、サソリ、ダニ、絶滅したウミサソリなど

 三葉虫:まったく絶滅したグループです。1対の触角を持ち、おそらく顎はなく、鋏角もありません。しかし身体の特徴からするとどうも鋏角類とひとつのグループを作るようです。2億5100万年あまり前のペルム紀末の大量絶滅で滅び去りました。かなりユニークな特徴を持った節足動物だったようです。海棲で泥の中で生活するものや遊泳生活を送るもの、サンゴ礁の砂に身を隠すものなど様々な種類がいました。

 その他の絶滅節足動物:”節足動物的な特徴”を持っていながら、なおかつ以上の4つの系統+三葉虫に所属しない絶滅動物も知られています。バージェスのブランキオカリス(Branchiocaris)やチェンジャンのフクシアンフイア(Fuxianhuia)はそうした動物のようです。議論の余地はありますが、おそらくは現在の節足動物すべての外群のようです。

  

 節足動物の系統:

___ ?_____Leanchoilia

   | ?_____Yohoia

   | ?_____Sanctacaris

   | ?_____Fuxianhuia

   |   |___Odaraia

   |     |_Branchiocaris

   |_A_____Arachnomorpha (Chelicerata +etc)鋏角類+三葉虫etc 

     |     クモ・サソリ・ダニ・カニムシ・ザトウムシ・三葉虫・ウミサソリなど 

     |

     |_ ?__Myriapoda:ミリアポーダ:多足類・たそくるい 

       |   ヤスデ・ムカデ・ゲジゲジなど

       |___Insecta:インセクタ:昆虫・こんちゅう 

       |   トビムシ・シミ・ゴキブリ・カメムシ・チョウ・カブトムシ・ハチなど 

       |___Curstacea:クルスタキア:甲殻類・こうかくるい  

           エビ・カニ・ヤドカリ・ダンゴムシ・フナムシ・カブトエビ・フジツボなど

 

 Budd 2002, A palaeontological solution to the arthropoda head problem, nature, vol.417, pp271~275などを参考。またアラクノモルファ(鋏角類+三葉虫その他)と、マンディブラータ(甲殻類+昆虫+多足類?)の2大系統として描いています。

 ちなみにマンディブラータが持つ顎という特徴が彼らだけの特徴なのか、あるいは実は原始形質にすぎないのか、はたまた甲殻類と昆虫の顎は収斂なのか。そしてまた多足類の系統上の位置はいずこなのか? そもそも節足動物の単系統性はいいとしても、4大グループ個々の単系統性はどの程度妥当なのか? などについては、北村の理解が及ばないか、あるいはもともと不確定です。

 

 節足動物は単系統か多系統か?:

 節足動物の4つの大きなグループ、昆虫、甲殻類、鋏角類、多足類はそれぞれまるで違う姿をしています。ですから節足動物はたまたま同じような姿に進化しただけであって、見た目が似ているだけの他人のそら似さんたちである、そういう意見もありました。この考えに立つと、節足動物の特徴である、外骨格、節のある脚、節が連なった胴体はそれぞれ別々に進化したことになります。これが節足動物の多系統説です(P.ウィルマー 98 . Budd 93)。

 節足動物の多系統説は昔からしばしば言われることで、特に70年代から80年代あたりまで栄えていた仮説です。ただし少なくとも、違うから違う系統であろうという根拠。これに関して言うと、根拠としては薄弱ですね。それでいったらクジラは哺乳類ではないことになってしまう(あるいはすべての哺乳類の外群になるだろう)。

 例えば共通の祖先baaaaaからそれぞれ4つの子孫が次ぎのように分化したとします。

_________baaaae

 |_______bbaaac

   |_____bbaaad

    |____dbdddd

 4つ目の子孫dbddddは他の子孫たちにくらべて違いが非常に大きいですね。ようするに同じ祖先から枝分かれしてから、この生き物だけが非常に多くの変化を経験したわけですが、これらの子孫たちを似ている、似ていないで非常に直感的に系統を再現するとこうなります。

_________baaaae

 |  |____bbaaac

 |   |___bbaaad

 |

 |_______dbdddd ←違いが大きいので他から離れた場所に出る

 これ↑、かなり大きな間違いですよね。違いが大きいから違う系統だろうって考えてしまうとこうなるわけです。違いがあれば違う系統である。このことはそれぞれの系統で変化の頻度が同じ程度なら成り立ちますが、その前提が崩れると成り立ちません(注:ちなみにここで言っていることは類似の度合いで系統を再現するのが間違いだということではありません。類似度で系統を再現する時はこういう事柄を考慮した方法論を使います。逆にいうと系統学者は違うから違うのだと単純にいったりしません)。

 また場合によると同じ程度の変化であってもそれが積もり積もるとお互いがまるで別物に見える時があります。

_________baaaae________bzzzze

 |_______bbaaac________bbannn

   |_____bbaaad________bbjjjd

    |____dbdddd________dkdppd

 これは非常に安易な図ですが(baaaaeから直接bzzzzeが進化したかのように示してある)、このようにあまりに変化が大きいとまったく類縁がないように見える場合があります。実際、とくに右側だけを見たら彼らに類縁関係があると考えるのはちょっと難しいのではないでしょうか?。

 とはいえ、それでも節足動物は”節足である”という共通の特徴を持ってはいるわけです。

 また絶滅した化石種のような資料もこうした問題を解く手がかりになるでしょう。事実、バージェスやチャンジャンのような先カンブリア紀の節足動物化石はそうした手がかりになりえるものです。

 近年になって行なわれるようになった分岐学や分子系統学の多くの研究は、すべての節足動物がひとつの祖先から進化してきたことを示しています(Budd 96. Boore et al 95. Wills,et al 94 参考に山崎 00)。

 つまり、すべての節足動物は外骨格、節のある脚、節に分かれた胴体、これらの特徴を同じ祖先から受け継いだ単系統であるということですね。多くの研究者は昆虫類(インセクタ)と甲殻類(クルスタキア)を近縁と見なします。いわゆる大顎類(マンディブラータ)。さらに昆虫(インセクタ)と多足類(ミリアポーダ)をより近縁と考えています。とはいえ、多足類(ミリアポーダ)の系統上の位置に異論があったりします。だもんだから上の系統の模式図では多足類と甲殻類、昆虫の系統関係が良く分からん、という状態で示しています。多足類はもっと別の場所にいってしまうという意見もあります(多足類がそもそも節足動物ではない、という推論もあります)。

 

 参考:

 Boore, Collins, Stanton, Daehler, & Brown. 1995. Deducing the pattern of arthropod phylogeny from mitochondrial DNA rearrangements. Nature. vol.376. 13. pp163~165

 Budd 1993. A Cambrian gilled lobopod from Greenland. Nature. Vol 364. 19, pp709~711

 Budd 1996. The morphology of Opabinia regalis and the reconstruction of the arthropod stem-group. LETHAIA, pp1~14

 山崎柄根 2000 有爪動物 Onychophra . 動物系統分類学 追補版 中山書店

 P.ウィルマー 無脊椎動物の進化 蒼樹書房

 Wills, Briggs, Fortey 1994. Disparity as an evolutionary index: a comparsion of Cambrian and Recent arthropods. Paleobiology, 20(2), pp93~130  

 

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