Tetrapoda and others

 テトラポーダ(両生類+単弓類+爬虫類とその他)、およびその類縁

Acanthostega

アカントステガ(アカンソステガ)

 デボン紀、3億6000万年前に生息した動物で、陸上脊椎動物に極めて類縁が近い生き物です。以下に述べるイクチオステガなどに外見上は良く似た動物です。初期のテトラポードがどんな姿であったのか、それを知る手がかりになる動物です。ただ、アカントステガ自体は陸上でうまく行動できるような生物ではありませんでした。主に水中で生活していたのでしょう。前足の指の数が8本であることに御注目。

 *このイラストは2003年、進研ゼミの読み物、「チャレンジ4年生 わくわく発見ブック」で使用されました。許可を得て掲載。

     

 テトラポーダとは?:

 脊椎動物の一部、サルコプテリギーのひとつの系統がデボン紀の終わり、おそらく3億6000万年前ごろに興味深い幾つかの特徴を発達させました。水中を泳ぐための鰭が変化していわゆる脚、あるいはそれに近い働きをする構造になることで、水底を蹴ったり、場合によっては地上をはいずることができるようになりました。こうして、一部の脊椎動物が陸上へ進出することができるようになったのです。

 テトラポーダと呼ばれている系統は、そうした陸上に進出した動物の集団のことで、カエルもトカゲも鳥も人間もテトラポードです。陸上脊椎動物とその子孫はすべてこの時代に陸上へ進出したものの子孫なのです。

 最小、体長1センチ程度のカエルから、最大、重量200トンのシロナガスクジラまでがいます。派生的な種類は肺呼吸をしているためにおもな生活場所は陸上ですが、空や比較的浅い水中、ある程度の時間なら深海で活動することができるものもいます。マッコウクジラは3000メートル近くまで潜水して獲物を捕まえますし、ヒマラヤ山脈を飛び越えて飛ぶことのできるツルもいます。

 またアホロートルのような幾つかのテトラポードは一生鰓で呼吸しますし、皮膚呼吸にたよって肺を完全に失ったムハイサンショウウオのような種類もいます。

 

 テトラポーダの特徴:

 4本の脚を持つことが特徴です。

 そもそもテトラポーダ(Tetrapoda)とは、4つの足、という意味です。和訳では四肢類(ししるい)/あるいは四肢動物と呼ばれます(テトラポード(Tetrapod)という言い方もあります。ちなみにテトラポー”ド”ですと類ですね。テトラポー”ダ”と言った場合は分類階級を意識した語尾変化を起こした言葉です)。

 しかし、すべてのテトラポーダが4本脚なのではありません。ヘビやアシナシトカゲのように4本の脚を完全になくしたものや、クジラのように後ろ足をなくしたものなどがいます。また陸上に進出したテトラポードからは何度も完全な水中生活をするものがあらわれました。クジラやジュゴン、イクチオサウルス、首長竜、モササウルス、一部のウミヘビやアホロートルのような水棲両生類などがそういった種類です。

 初期のテトラポーダもばんばん水中生活に戻っています。イクチオステガから3000万年後、乾燥した陸上に適応した爬虫類やシナプシダが出現する一方でクラッシギリヌスやグリレルペトン(コロステイダの一種)のように、完全な水中生活に戻ったものがあらわれています。

 

 テトラポーダ、およびその類縁の系統関係:

_______________Osteolepiformes:オステオレピフォームス(オステオレピス目)

   |____________Panderichthys :パンデリクティス

    |___________Acanthostega :アカントステガ

     |_T1________Ichthyostegaイクチオステガ 

       |________Tulerpeton :チュレルペトン

        |_______Crassigyrinus :クラッシギリヌス

         |_T2____Amphibia:両生類(Lissamphibia 

           | |__Temnospondyli:テムノスポンディルス 

           |

           | ?__Microsauria:ミクロサウリア 

           | ?__Aistopoda

           | ?__Colosteidae:コロステイダ 

           | ?__Nectridia:ネクトリディア  

           |____Loxommatidae:ロクソマティダ 

           |____Amniota &etcオムニオタ:有羊膜類(あるいは羊膜類)など 

                 (爬虫類とシナプシダ、アントラコサウルス、ディアデクテスなど)

 Ahlberg & Milner 1994, nature,vol 368, pp507~514 The Origin and early diversification of Tetrapods

 ジェニファ・クラック 「手足を持った魚たち」講談社現代新書 を参考にして描いたテトラポーダとその仲間たちの系統関係を示した図。

 テトラポーダと呼ばれる範囲はT1から先の部分のことであったり、あるいはT2より先のことであったりします。またたとえT1から先の部分がテトラポーダであり、イクチオステガがテトラポーダであるにしても彼らがほとんど水中生活者であって、陸上脊椎動物と呼んでいいか疑問であることに変わりありません。結局、どこからが脚か、どこからが陸上生活かなんて便宜的にしか言えないってことですね。

  

 どこからテトラポーダなのか?:

 一般的にはイクチオステガが最初のテトラポーダであるといわれてきました。ところがイクチオステガの骨格をよくみるととても陸上生活に適したものとはいえません。前足のひじはまがったきりですし、足の骨は平らで私達が持つ体重を支えることに適したパイプ状ではありません。むしろ水中生活をする動物のものに良く似ています。どうもイクチオステガは陸上を移動するというよりも水底をけるようにして動く動物だったようです。そういう点ではアンコウの仲間のイザリウオとなんとなく似ています。陸上に上がるにしてもアザラシのような感じだったようです。

 また外見は似ているアカントステガも同じようなものでした。

 水中生活者から陸上生活する動物が進化するまでには長い時間がかかり、じょじょに変化が進みました。ようするにどこから陸上脊椎動物というべきかなんて、そんなことはいちがいには言えないのですね。たしかに赤と青のグラデーションのどこからが青で、どこまでが赤なのかを便宜的に決めることはできますが、それはあくまで便宜でしかありません。

 じつはテトラポーダの範囲の指定には幾つか異なるものがあります。伝統的にはイクチオステガから、あるいはチュレルペトンぐらいから先がテトラポーダである、あるいはそんな感じ、といったところなのですが、次ぎのように、

 Lissamphibians と Amniotes のもっとも最近の共通祖先とそのすべての子孫

という指定もあります。この場合は以上の系統図(分岐図)のT1から先の部分がテトラポーダになります。どっちをとるかでイクチオステガやアカントステガがテトラポーダになったりならなかったりします。でもこれはあくまで呼び名の問題。どう呼ぼうがイクチオステガやアカントステガがほとんど水中生活者であることに変わりはありません。

 蛇足:

 ちなみに一般的にテトラポーダの分類階級はSuperclass(上鋼)が与えられています。しかしながら系統を反映させようとするとそうはいきません。テトラポーダはいわゆる魚類とよばれているグループのひとつの枝として呑まれてしまうからです。ようするにSuperclassがClassに呑まれることになる。整理方法としての分類階級は大幅に再調整が必要になります。例えばNelson 94 に従うとTetrapodaはsubclass、すなわち亜鋼になります。

 これは分類階級は結局のところツリー・オブ・ライフを反映させる力なんてない、という実例かもしれません。あるいは、そもそも私達は魚類と、哺乳類、鳥類を同じランクの集団として無意識のうちにあつかっていますが。こうした私達の分類自体がそもそも自然科学としては破たんしていたということなのでしょう。考えてみれば当然で、別に自然科学のために鳥や魚を認識したわけじゃあないですからね。

 実際、魚、獣、鳥って明らかに狩猟目的のためのグルーピングですよねえ、これ。

 というわけで、ここでは分類階級にとくにこだわってはいませんのでテトラポーダが上鋼であるのか亜鋼であるのかは問いません。

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