サンマ

Cololabis saira

 

 2007年8月にスーパーで購入したサンマ。全長31センチ。なにやら2007年はサンマが豊漁で、いつもよりも大きくて価格も安いらしい。サンマはとてもおいしい魚ですが、誰でも知ってるように焼くと油がいっぱい出てきて、もくもくと煙が上がります。寿命は1年程度だったと思いましたが、確かなことは手持ちの資料ではやや不明瞭。さばいてみると浮き袋が見当たらないので、はて? 見落としたか、と思っていたらサンマは浮き袋をもっていないのだそうな。表層を泳いでいる魚だと思うのですがこれは意外。Fishes of the World 3ed によると浮き袋がないのはSuborder Belonoidei (ダツ亜目)における Family Scomberesocidae (サンマ科)の特徴であるらしい(別の文献では浮き袋があるという記述があったりしますが、そこの確認はおいおい)。

 分かりにくいですが、鼻の穴は左右に1つづつ。口は尖っていて、下顎が上顎よりも長くのび、背びれと臀びれの後ろに小さなヒレ (finlets) がそれぞれ6〜7個あります。数え間違いでなければこのサンマのfinlets は6つ。別のサンマでは7つありました。腹びれが体のかなり後ろについているのは少し変わっています。胸びれは目とほぼ同じライン。かなり高い位置ですね。新鮮なものだと体側はまばゆいばかりの銀色で、尾びれを支える部分は黄緑がかかっていたりします。体の下になにやら線のようなものが走っていますが、これは側線。ウロコの列に覆われているので盛り上がっており、もにゅもにゅした感じ。少しいじくるととれてしまいますね。なんとも変な位置に側線がある魚です。

 サンマはFishes of the World 3ed ではOrder Beloniformes (ダツ目)に所属させられています。このグループの系統関係は以下のように示されるものであるらしい。

_1____2__Adrianichthyoidei(メダカ亜目)

 |_3__4__Belonidae(ダツ科)

   |  |__Scomberesocidae(サンマ科)

   |__5__Exocoetidae(トビウオ科)

      |__Hemiramphidae(サヨリ科)

 共有派生形質はどうやら、

1: Interarcual cartilage small or absent, small second and third epibranchials, interhyal absent, etc

2: Lateral line absent, narial opening paired, etc

3: Lateral line low on body, narial opening single, elongate lower jow at least in some stage of life history, anal and pelvic fins placed far back on body,etc

4: scales small 70 to over 350 in lateral line, premaxillary canal present, etc

5: Scales large usually 38-60 in lateral line, premaxillary canal absent,etc

メダカとサンマが大きなくくりでひとつになるというのは知っていましたが、この系統仮説をサポートするデータとして上げられている Interarcual cartilage small or absent, small second and third epibranchials, interhyal absent,......というのはこれだけではさっぱり分からないので、比較解剖学的な理解は個人的に今後の課題です。

 それにしてもサンマの見た目はサバ科の魚と共通するところがあるんですね。以下は上からマサバ、サワラ、サンマですが、

 

 

3種類とも胸びれが高い位置にあって、背びれと臀びれの後ろにfinlets があります。まあ違いもあって、例えばサバ、サワラでは腹びれが肩の下にあるのに、サンマでは体のほぼ中央にあります。ようするに anal and pelvic fins placed far back on body というわけですな。また、サバとサワラは背びれが2つありますが、サンマはひとつ。サバとサワラでは背びれは臀びれよりもやや前にあるのに、サンマでは背びれが臀びれよりもやや後ろにあります。とはいうものの”違う”というデータは形態を使った系統解析では使えるものではないので、これだけではあまり意味のない比較かもしれません。

 一方、サバ、サワラには尾びれを支える部分に上下2本のキールがありますが、サンマにはありません。また、サバ、サワラの口は突出しませんが、サンマはまがいなりにもできる様子。上下のキールはFamily Scombridae (サバ科)の共有派生形質、口が突出しないのはOrder Perciformes (スズキ目)における Suborder Scombroidei (サバ亜目)の共有派生形質ということのようです。まあようするに、サバの仲間が持つ共有派生形質と同じような特徴を幾つか持つ一方で、幾つかはもっていないというわけですね。さらにサンマが束ねられるとされるダツ目と、サバとサワラが入るとされるサバ亜目は系統的に少し遠いとされています。これを単純に図示するとこんな感じでしょうか?

 

_B___________Atheriniformes(トウゴロウイワシ目)トウゴロウイワシ、ムギイワシ、ナミノハナなど

  |  |_______Cyprinodontiformes (カダヤシ目)カダヤシやグッピーなど

  |  |_______ダツ

  |    |_A___サンマ

  |__________カサゴ

     |_______スズキ

       |_AbC_サバ

B:口を突き出すことができる

b:口を突き出すことができない

A:胸びれが高い位置にある、背びれと臀びれの後ろにfinletsがある

C:尾びれに2つのキールがある

 さて、以上の関係と特徴の分布はようするにサバとサンマ、2つの魚の共通点、つまり”胸びれが高い位置にある””finletsがある”が他人のそら似であることを示しています。そしてこれはこの2つの特徴ー以上の系統樹では記号Aで示していますがーを共有派生形質ではないとして切断し、このような系統関係を示すデータが存在するということなのでしょう。

そのあたりのリサーチはまたおいおい論文を読んでから。

 

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