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最近読んだ本
2007年・
その1


「ダブル」
「欲しい」
「天使の眠り」
「制服捜査」
永井するみ
永井するみ
岸田るり子
佐々木譲
「出口のない部屋」
「帝都衛星軌道」
「UFO大通り」
「乱鴉の島」
岸田るり子
島田荘司
島田荘司
有栖川有栖

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(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


◆ 「ダブル」  永井するみ

これは面白かった。
分類すると異常心理もの。それと同時に心理サスペンスでもあります。

発端となる事件は「いちゃつきブス女事件」(-_-;)
登場人物の一人、ゴシップ週刊誌の編集長が言った言葉ですが。

28歳の女性が突然国道に飛び出しトラックに撥ねられて死亡する。
誰かに突き飛ばされたようだという目撃証言もあり
交際中の男性が取調べを受けるが、証拠がなく釈放される。
ある理由からその事故に興味を持った週刊誌の記者・相馬多恵は
独自に調査を始めた。

ある理由とは被害者の女性の容姿が非常に特徴的なものであったこと。
つまりは、見ている人間が不快になるほどの美しくない容姿だったのだ…

そして多恵が調査を進めるうちに、同じ町でもうひとつ不可解な事件が起こる。
新たな被害者もまた、人に不快感を与えるような特徴を持っていた。


読み始めた時は、被害者の方が社会から疎外された人物かと思ったのですが、
読み終わると、犯人とその周りの人々こそ社会から隔離されていたのだと
わかります。

社会の一員であること、そして社会性とは何かということを考えさせられました。
それはたぶん多様性を認めること、角度の違う視点を持つことなのかも
しれませんね。

警察ではなく週刊誌の記者が事件を追うことで、
犯人探しや犯人に近づく過程が個人と個人の接触になるので、
そこがサスペンス要素。
気が付かないうちに落とし穴に近づいてく多恵に、ハラハラドキドキでした。

さて、あなたが感情移入するのは多恵ですか。犯人ですか。

そういえば途中で、アシモフの「黒後家蜘蛛の会」の一文を思い出しました。
それは晩餐会に招かれたゲストにメンバーが最初にする質問。
「あなたは何をもってご自身の存在を正当となさいますか?」
正当とする理由が見つからないことが、心の落とし穴につながるのか。

もうひとつ連想した本があるのですが、
それはネタバレになるかもしれないので、続き↓で。

【  新井素子さんの「おしまいの日」
追い詰められていく過程が似てませんか? 
  】




◆ 「欲しい」 永井するみ

これは久々の中ヒット。

人材派遣会社を経営する紀ノ川由紀子には付き合っている男性がいる。
取引先でもあるMISAKI商事の取締役の久原啓治。
もちろん不倫関係。
しかし、その久原がストーカーと間違われて殺されてしまう。
久原を殺したとされるのは由紀子の会社に登録している女性で、
MISAKI商事に派遣されていたことはあったが、久原と面識はなかった。

派遣会社、出張ホスト、ストーカー、出会い系サイト、ネカマ、
お題話か週刊誌のネタのような話題を取り込みながら、
それでも一気に読める面白さは登場人物の描き方がリアルだから。

特に「ありさ」は、最近増えてるタイプのような気がする。
肝心な所がヌケているところも含めて。

単行本だけど長さとしては中編くらいなのも、まとまっていてよかったです。

「ダブル」 永井するみ 2007.04.20.Fri / 23:56




◆ 「天使の眠り」 岸田るり子

同僚の結婚式で偶然昔の恋人と再会したのだが、
その彼女は記憶にある女性とまったく違う人物になっていた。
同名の別人かと思ったが、相手も自分のことを覚えていた。
いったい彼女になにが起こったのか。

非常に興味をひかれる謎なんですが、そこから解決までが長い。
しかもその長さは謎を突き詰めていく過程ではなくて、
彼と彼女の思い出話。

ミステリー仕立ての恋愛小説と思ったほうがよさそうです。

この作家さんの小説は2作目なんだけど、
どうしても登場人物の思考についていけません。

以下ネタバレ↓

看護師が偽者って、問題があるんじゃないだろうか。





◆ 「制服捜査」 佐々木譲

北海道の小さな町の駐在所に赴任した警察官が、
地元の閉鎖性に戸惑いながら、町内で起こった事件に関わっていく連作短編集。

小さな町の駐在さんの小説ということで、
地味で奥深いストーリーを想像していたんですが、
まったく違う、現代的な凶悪事件を扱ったものでした。

いじめリンチ、虐待、小児誘拐、最近どこでも多い事件が起こり、
当然その解決も予想がつく範囲のもの。
新しい趣向としては、その事件に閉鎖的な町の事情が絡むところなんですが、
今の時代に、こういう町が本当にあるんだろうか?
なにやら時代劇や捕物帳の設定のような気がしてしまいました。

警察組織の矛盾は描かれてますけどね。

ただトップの「逸脱」はよかった。
このテイストで最後まで書いていただけるとよかったんですが。

でも、これが「このミス」2位なのか・・・




◆ 「出口のない部屋」  岸田るり子


評価の難しい作品。

出口のない部屋に閉じ込められた三人の人物が、
自分たちが閉じ込められた理由を探るために、3人の共通点を探す。
そして現在の自分たちの共通点が見つからないことから、
それぞれが過去の人生を語り始める。
閉じ込められたのは、大学講師、開業医の妻、売れっ子作家。
もちろん、職業も性別も世代も違う。

と、あらすじを書いたけど、ここまでは実は新人ホラー作家が書いた小説の一部ということになっている。
そしてこのあとも、小説と現実が交互に語られる…ように描かれている。

もう、どこまでが事実か、わからなくなるのですが、
その構成が謎になっているという、複雑な小説です。

トリックは物理的なものではなく心理的謎なので、
内面描写ばかりが続くわけですが、それがみんなゆがんでるわけですよ。
だから事件になるわけだけど。

これがミステリーにしては見事に人間を描いた作品だとしたら、
私は人間が描けてないミステリーが好きだと思ってしまう(笑)

ただ解決編を読んだあとは、最近起こったある事件を連想して怖くなりました。




◆ 「帝都衛星軌道」  島田荘司

収録されているのは中編2作。

・帝都衛星軌道(前編)
・ジャングルの虫たち
・帝都衛星軌道(後編)
という構成。

では、真ん中に挟まれた「ジャングルの虫たち」は、
帝都衛星軌道のサイドストーリーなのかというと、違うんですよ。
小説としてはまったく別の中編。
でも、それなのに伏線になっているところが面白い。

つまり、この本のテーマは2つの中編を通して描かれる「帝都東京」。

「帝都衛星軌道」は誘拐ものとして始まる。
都内のマンションに住む紺野夫妻の中学3年の長男が誘拐され、
身代金を要求する電話が入った。
しかし要求された身代金はたった15万円であり、
受け渡し役に指名された母親は、意味もなく山手線を周回させられる。

事件が起こった時には、ありがちな誘拐事件と思われたものが、
犯人の意表をつく要求から警察はことごとく裏をかかれ、
身代金を持った母親が姿を消してしまうという予想外の展開になる。

後半になると、今度は犯人側から描いた事件の真相になり、
誘拐事件はまったく別の事件になる。

ちょっと疑問を感じたのは、中学3年の男の子を誘拐するのは、
かなり難しいだろうということ。どうやったんだろう?

「ジャングルの虫たち」
これは東京で小さな詐欺を重ねる小悪党の話。
詐欺の手口はいくらでもあるのだなと感心してしまった。
あの両替詐欺は私も騙されると思う。

全体としてはミステリーというよりファンタジーとして読みました。

面白さの順で言うと、
1.帝都衛星軌道(前編)
2.ジャングルの虫たち
3.帝都衛星軌道(後編)

以下はネタバレ注意↓



納得できないいことがひとつ。
331ページ。
東京は衛星軌道の街だから特殊である、ということだけど、
パリもローマも放射状の街で、大阪も環状線になっている。

大陸では要塞都市だから、日本では城下町だから、という理由で
昔の町は放射状になる条件があっただけなのではないの?

東京だけが衛星軌道の街で特殊であるというのはちょっと納得できない。






◆ UFO大通り  島田荘司

「UFO大通り」「傘を折る女」の、中編2作を収録。

しかし、これはどうなんだろう?・・・
この二つの作品を1冊の本に収めるというのは。
内容は不可思議ミステリーなので、真剣に謎解きに挑戦する人はいないだろうけど、
ちょっと疑問を感じました。

「UFO大通り」は、かなり無理やりなところも目立つけど、
でも、「自分の部屋を密室にして、その中で体にシーツを巻きつけ
フルフェイスのヘルメットを被って死んでいた男」なんて謎は楽しい(笑)

おまけに、その家の外の通りでは宇宙人が戦争してたというのだから、
こんな不可思議な謎にどういう解決をつけるのか、興味がわきます。
いかにも中編的なアイデアですが、気軽に読める作品。

「傘を折る女」は、もう少し現実的な謎。

雨の夜、道端で傘を折る女を目撃したという話から、
その理由を推理し、やがてそれが事件に結びついていくというもの。

ただし、発端は現実的でも展開は飛躍的(笑)
こんな戦闘的な女性ばっかりじゃないと思うけど、
作者は、なにか女性から攻撃されてるのでしょうか?

けっこう厚い本だけど、改行が多くて、ちょっと水増し気味。
なので、厚みの割に短時間で読めました。

ここからネタバレです。



どちらの事件も死因が同じアナフィラキシーショックというのは、
あまりに都合がよすぎるようで興ざめでした。
なにも1冊にまとめなくてもいいのに。





◆ 乱鴉の島 有栖川有栖

孤島ものではあるけれど、ミステリファンが期待する孤島ものとは一味違う作品。
主になるのは犯人探しではなくて、島に集まった人たちの共通点を探すこと。

有栖川有栖と火村英生助教授は、休みを利用して離島の民宿で骨ね休めをするために旅立ったが、ある手違いと勘違いから、二人がたどり着いたのは、謎めいた人々が集う無人島だった。

島を間違えたからといって、すぐ立ち去ってしまっては小説にならないので
迎えの船が手配できないとか、いろんな事情でその島に滞在することになる。
当然のごとく殺人事件が起こり、電話線が断ち切られる。

このあたりは孤島ものの様式通りなのですが、
なにしろ殺人が起こるまでに小説の半分が費やされるので、
ミステリー好きとしては、ちょっとまどろっこしい。

事件が起こるまでの前半は、島に集まった人々の説明が描かれている。
でも登場人物の設定が似ているので誰が誰か、なかなか区別が付かない。
実はこのことにも意味があるのだけれど。

事件が起こってからは、お互いの行動を検証したり、
被害者の過去を探ったり、正統派の孤島ものになります。
ここからは、島の情景など、有名作品を思い出したりして楽しめました。

隠された謎については、ある程度想像出来るかもしれないですね。
ヒントがいろいろ書かれていますから。
そういう意味ではフェアです。


ここからネタバレ↓


殺人の動機が隠された謎とは別の問題であることが残念。
クリスティの某作品みたいな動機かと考えてました。

そして拓海と鮎がすでにクローンかと思ってしまった。
  】


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