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最近読んだ本
2006年・
その3



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(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


◆ 「氷菓」 米澤穂信

いわゆる「日常の謎」パターン。
高校生が学校にまつわる不可解な謎を解いていくわけだけど、
実は最初のフレーズで挫折しそうになった。

  「高校生活といえば薔薇色、薔薇色といえば高校生活、
   と形容の呼応関係は成立している」

これってアイロニーだとは思うんだけど、その後のストーリーを見ると
そうでもないのかなと思ったり。
でも現役高校生が読んだらギャグだよね。

それでも読んでみようかと思ったのは「犬はどこだ」が面白かったことと、
お姉さんの手紙に興味を引かれたから。
このお姉さんはなかなか面白そうな人だから、お姉さんの話の方が読んでみたい。

「氷菓」についての謎解きは、あまりにアレなんだけど、作者としても
非難回避のためか、伏線&予防線は、これでもかってほど書き込まれてます。

読んでいる時はそれなりに面白いので、時間つぶしにはいいかも。

shortさんにいただいた本です。
変な感想でごめんm(__)m


ここからネタバレ↓

【 

学生運動はすでに歴史ですか・・・

読者層が2世代くらい上だと、全員「夏のお嬢さん」を歌うね(笑) 
  】




◆ 「空飛ぶタイヤ」 池井戸潤

実際に起こった大型トレーラーの脱輪死傷事故、その事故を元にして描かれたフィクション。

02年1月、横浜市瀬谷区で起こった母子の脱輪死傷事故は、その後トレーラー製造メーカーのリコール隠し事件に発展して大きなニュースになったので、まだ記憶に新しいと思う。

これは事故を起こしたことで倒産の危機にさらされながら、
自らの潔白を証明しようとする運送会社の社長をメインに、
財閥系自動車メーカーの傲岸な体質を暴き出してた作品。

事故原因が整備不良とされたことから事故車両を所有してた赤松運送は
得意先を失い、取引銀行に融資を断られ危機的状況に陥る。
小さいながら堅実な経営をしていた社長や社員は、整備不良という原因に納得できず、
製造メーカーに再調査を依頼する。
しかし自動車会社の対応はまさに門前払いで、
調査結果の提示にも、さらには部品の返却にも応じない。

素人の私としては事故車両の調査を、その車の製造メーカーがやるということに
まず驚きました。なんだか、いくらでも誤魔化せる気がする。

そして財閥系といわれる大企業グループの体質にも驚愕。
会社に属する人間の根拠のないエリート意識、隠蔽と自己保身に終始する会社。
薄々は感じていたけど、ここまで腐っているんでしょうか。
もちろんフィクションではあるけれど、実際の事件の裁判での応答なんか考えると、
これに近いことはあるんだろうなと思ってしまいます。
まして作者が、作中に登場する財閥系銀行を連想させる銀行の出身ということを考えると余計に。

公的な事実の進展はほぼこの通りだったのではないかと思うので、勧善懲悪的結末も予想できるわけですが、そこに至るまでの運送会社社長の苦悩、思いがけないところから差し伸べられる援助など、二転三転するストーリーは文句なく面白い。

企業が利益を追求するのは権利なんだから、それを正当に追行しなくてはならないはず。不良品を販売するということは権利放棄だと、なぜ気が付かないんでしょう。

この事件のあとも製品不良事故は後を絶たないけど、
このままだと日本が倒産危機になるでしょうね。

強いてこの作品の難点を挙げれば、本のタイトルと「罪罰系迷門企業」なんていう章題。
これでちょっと退きました・・・




◆ 「毒 poison」 深谷忠記

世の中には強い毒がある。
効力の強い毒薬や犯罪を重ねる人間のような存在。
それはもちろん恐ろしいものではあるけれど、実は毒に見えない毒もあり、
それこそがふつうの人間を脅かす一番の脅威である。

つまりめったに起こらない凶悪犯罪よりも、
身近な人間が日々吐き出す毒の方が人を痛めつけるということ。

それがテーマらしいのだが、この中で語られる毒も
それほど一般的ではないと思われるので、あまり実感が湧かないというのが感想。

それより病院の中の殺人事件という方が大問題だと思うのだが、
そこは意外にあっさり片付けられてしまっている。

被害者になったのは入院中の傲岸な老人。
全身に悪意をたぎらせ、それを周囲に吐きかけるとんでもない男。
妻には暴力を振るい、看護師にはわいせつな行為を仕掛け、
入院患者には暴言を吐く。

ここまで嫌な奴だと殺されても仕方ないと思ってしまうが、
こういう誰にでも分け隔てなく悪いことをする人間という場合は、
それなりに対策が出来るんではないのかな。
院長のコネで入院してるから手が出せないということらしいけど、
ここまでひどかったら方法もあるんじゃないのかな。

それより他の人には当たりがよくて、
限られた人にだけ毒を吐きつける人間の方が悪質なのは間違いない。

それなりのトリックもあり、二転三転する解決も考えてあるのだが、
社会派なのか謎解きなのか、中途半端な感じで終わるのは残念。

ただ、みんな秘密を持ち過ぎるよ。
それはミステリーだから仕方ないと言われればそうなんだけど(笑)
特に仕事上のことは個人で秘密裏に解決しようとするとトラブルになる。
もっとオープンになんでもしゃべってしまいましょう(笑)
それだけで解決する問題もあるのではないかと思う。
少なくとも振り込め詐欺は減るよね。




◆ 「ナイチンゲールの沈黙」 海堂尊

「チームバチスタの栄光」に登場した不定愁訴外来の田口医師と、
厚生労働省技官の白鳥圭輔が再び登場。

でも前作と比べると別物のように違った小説になっています。
前作でうっすら見えていた軽いノリの部分が変な方向に出てしまったという感じ。
少女マンガ、いや少年漫画のような小説です。
金田一少年とか、そんな雰囲気。

ちなみにこれは、けっしてあのハイパーマン・シリーズのことを言ってるわけでは
ありません(笑)
むしろあの部分が一番面白かったくらい(^^;)

とにかく事件の展開や犯人が、あまりに単純。
登場人物もどこかで読んだようなキャラクターばかりで、
みんな地に足が着いていない。
田口先生も白鳥も、初登場の時ほどのインパクトがなくなってしまいましたね。

医療ミステリというより、むしろ音楽ミステリと思った方が
まだ少しは面白く読めるかもしれません。
ある種のメロディによるイメージの共有という発想は面白いと思います。
だったらそのテーマをを追求して欲しかったな。
バッハでトリップする人は多いから。
実は私も経験者。

ということで忙しい方には、あまりお薦めしません。




◆ 「ヴェサリウスの柩」 麻見和史

第16回鮎川哲也賞受賞作。
鮎川賞だけどサスペンスです。

解剖学教室で解剖中の遺体からチューブが発見された。そのチューブの中には謎めいた4行詩を書いた紙が封入されていて、その詩の暗示通りに事件が起こる。

このように冒頭のあらすじを書くと、おどろおどろしいイメージを持たれると思いますが、2時間ドラマのような、あっさりした印象の小説です。気持ち悪い描写は多いですけどね。

腐敗した遺体に群がるねずみの集団など、これでもかというほど不気味な描写を並べているのに、ここまで重さが感じられないというのは、逆に見事かもしれない。

事件を追う役である主人公が女性であること、その他の登場人物も記号的で単純化されていること、文章に無駄な修飾がなく平易でわかりやすいこと。そんな全体的にわかりやすい描写になり、暗いテーマにもかかわらず、サクサク読める小説になっているのでしょう。

単純化された登場人物+修飾のない文章というと、パズル的と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、パズル性はありません。

犯人探しも、一応ある仕掛けは施してあるのだけれど、それが推理にはならず、ただ時系列で事実が明らかになるだけ。

この方は鮎川賞にこだわらず、他の系統に進んだ方がいいかもしれない。
文章の読みやすさは優れているのだから。

一番面白かったのはむしろ巻末の選評。笠井潔、島田荘司、山田正紀の3氏が書かれているのですが、それぞれの作風と比べて読むと面白かったです。




◆ 「神様からひと言」 荻原浩

shortさんからいただいた本です。
荻原さんの作品名はあちこちで見かけるけど、読むのははじめて。
あらすじを見ると、 お客様相談室に配属されたサラリーマンの奮闘振りを描いた小説らしい。 お客様相談室といえば、苦情処理。 想像しただけでもハードそうです。

冒頭は新商品開発会議のシーンから始まる。
主人公の佐倉涼平も、もちろん参加している。 会議にはややこしそうな符丁や数字が並び、 どんな新しい商品が開発されてるのかと思ったら…、オチがあった(笑)
ここで「やられた〜」という感じですね。

会議はよくあるように社内の派閥争いで紛糾し、涼平は思ったことをそのまま口に出してしまう性格から上司に噛み付いて、お客様相談室に追いやられる。

ここからがメイン。
リストラ要員が集められる部署だけあって、相談室にいるのはおかしな人間ばかり。 第一線の営業から異動させられてプライドの置き場所に困っている室長。 ロリコンオタク、ギャンブル狂のオヤジ。

そして、さっそくかかってくる苦情電話。
電話の目的はストレス解消、強請り、暇つぶし…
世の中いろんな人がいます。
ただここでちょっと残念だったのが、 どのクレームも読者の想像の範囲内を出ていないということ。 もっととんでもないこと言う人がいそうだけど(笑)

さて、これからどこまで追い詰められるのかと思ったら、 なんと順応してしまう涼平くん。 さらに商品の苦情を整理しているうちに、ある社内の裏工作に行き当たる。

ここから先は小説を読んでいただくとして、
組織に属したことがある人間には、すっきりすること請け合い。

面白かったは、その謝罪のテクニック。
これはけっこう参考になるかも(笑)


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