◆ 「氷の華」 天野節子
2007.09.29.Sat / 00:55
ネットで評判がよかったので図書館で借りてみました。
感想は、なんと言うか…、特に書くことがない(^^;)
たしかに面白いことは面白い。
でもなにか惹き付けられるものがなかったんですよ。
選評風に言えば、「インパクトに欠ける」かな。
2時間ドラマの原作のようだ、という印象から抜け切れませんでした。
そんな風に感じた理由としては、
いろんなことが都合よく起こりすぎること。
きれいにまとまりすぎてるということ。
そしてもう1つ、もしかしたら期待が大きすぎたのかもしれない。
この本のキャッチコピー
「誰かを殺してまで、守りたいものは何か…。
たった1本の電話が、何不自由なく暮らしていた主婦を殺人者へと変えた。」
これではつい「邪魔」のような話を期待してしまうではないか〜
でもあそこまでの緊迫感はありません。
むしろ地道に捜査する刑事ものに近い感じです。
でも人気作家、有名作家の作品でも、このレベル以下のものはたくさんあるから
合格ラインは越えていると思います。
自費出版で、このレベルの小説に出会ったら感動するでしょう。
さらに著者は還暦にして、これがデビュー作だそうです。
◆ 「生還者」 保科昌彦
2007.09.11.Tue / 19:36
渓谷沿いに建っていた旅館が土砂崩れで崩壊、
数十人が生き埋めになる。
しかし山間部のため救助活動は難航し、
崩壊から4日後に奇跡的に生き残った6人が救助された。
それから1年後、その6人が次々と謎の死を遂げる。
この作者は知らなかったのですが、ホラー小説大賞をしてるんですね。
そのためか帯にはサイコ・サスペンスと書いてあるのですが、
あまりサイコでもサスペンスでもないような・・・
文章が妙に冷静なのかもしれません。
たたみかけるような圧迫が感じられないので。
それよりも、ふつうのミステリーと思って読んだほうが面白く読めます。
なかなか仕掛けが凝ってます。
一言で言うと、ホラーにありがちな「前半だけは面白い」小説でした。
▼続きはネタバレ。反転させて読んでね。
【
生き埋めになっている男と司書の青年が別人だとは思わなかった。
生き埋めになった状態での殺人なので、
ふつうの精神状態ではないとはいえ、あまりに簡単すぎませんか?
もっとすごいことがあったのかと想像してたので、肩透かしでした。
それにしても、わけありの人ばかり泊まってた旅館ですね。
】
◆ 「闇の底」 薬丸
岳
あらすじや書評を読んだ時は、どうしようもなく暗くて重い小説だと思ったけど、
イメージしていたものとは、かなり違った内容でした。
幼女に対する性犯罪、その犯人たちを連続して襲う猟奇殺人、
事件はセンセーショナルでテーマは重いものだけど、
小説の内容は、その重さを突き詰めたものではありません。
犯罪をどの視点で描くのか。
遺族なのか、犯人なのか、警察なのか。
そのすべてを描くには短かすぎましたね。
それぞれの内面描写が浅くなってしまったと思います。
むしろ犯人探しミステリーの要素のが強い。
真犯人については、油断してたから騙されました。
結末については、小説なんだからいいと思うけど、
警察や国が適切な方策を講じてないからあんなことになってしまったわけで、
そこが一番深いところかもしれません。
でもこの小説の構成だと、国家の責任という視点では描けないよね。
だからミステリーとして描いたということかな・・・。
◆ 「吉原手引草」 松井今朝子
平凡な内容と言ってしまえばそれまでだけど、吉原随一の花魁・葛城が起こした事件の謎に興味が引かれて、最後まで楽しく読めました。
冒頭から独白が始まるので、とりあえず読者に与えられる情報は、
花魁の葛城が何かの事件を起こした、あるいは巻き込まれたらしいということだけ。
その事件について、なにやらいわくありげな若者が葛城に関係のある者たちに聞き込みをするというかたちで話は進みます。
最近、幾つかこういうインタビューを連ねる形式の小説を読みましたけど、
それらの作品と違うのは、特定の人物について語ることによって語っている人物の人間性が浮き上がるという趣向ではなくて、応える人たちは単なる証言者であって、情報を与えるだけ。
要するに裁判記録を読むような感覚です。
主眼は吉原についての記述なんでしょうが、私の場合は学生時代に樋口一葉について勉強して、そのときに吉原についてもある程度知識を得たので、あまり驚きはなかったです。
まったく知らない人が読んだら、ああいうシステムは意外に感じるものなのかな。
結末については、予想できる範囲でした。
聞き込みをする若者の素性がある程度推理できること、花魁の生まれについてもところどころ語られているので、あまり意外性はありません。
上にも書いたようにミステリーとしては平凡な内容でした。
◆ 「百万のマルコ」 柳広司
帯に「黒後家蜘蛛の会」「邪馬台国はどこですか?」などがお好きな方へー
と書いてあったので読んでみました。
捕虜になってジェノヴァの牢に入れられたマルコ・ポーロが
同じ房に囚われている捕虜たちに旅先であった不思議な話を披露し、
その謎解きをするという連作。
文庫本1冊に13編の短編といえば、1編の長さは想像つきますよね。
黄金の国や常闇の国、パズルやなぞなぞのような話、
お題話のようなものもあり、それぞれ気軽に読めます。
特に避暑地でのんびり読むには適当でした。
◆ 「さくら草」 永井するみ
いわゆる業界シリーズの1作。
今回は少女向け高級ブランドを巻き込んだ連続殺人事件。
ジュニア向け高級ファッションブランド「プリムローズ」
その人気ブランドの服を着た少女がラブホテルの駐車場で殺された。
警察はプリムローズの服を着た少女に執着する「プリムローズロリータ」と
言われる男性たちに焦点を絞って捜査を続けるが、
進展がないまま次の殺人事件が起こる。
いきなり事件発生の場面から入る導入部は、緊迫感もあって、
このままサスペンス的に話が進むのかと期待したのですが、それは中盤まで、
その後はブランドの内幕が延々と描かれます。
特にプリムローズのゼネラルマネージャーである日比野晶子が
前面に出てくるようになってからは、事件の謎解きというよりも
ファッションブランドに関わる人々の生態を描く小説になって、
なにかワイドショーのような展開。
娘に流行の服を着せたい母親
選別された服を着ることで自分の価値が上がったと思い込む少女たち。
その少女たちに執着する男たち。
自らの自己確立をブランドに投影するマネージャー。
ブランドに思い入れがない私には、
刑事以外の登場人物の行動がすべて謎でした(笑)
事件としては平凡です。
ということで中盤までは面白い小説です。
◆ 「空白の叫び」 貫井徳郎
主人公は14歳の3人の少年。
生活環境がまったく違う3人の共通点は殺人犯であること。
上巻では3人の少年の生い立ちや事件に至る経緯、
事件後のことなどが丁寧に描かれてます。
ただ少年院の中の描写は長いような気がして、ちょっと飛ばし読み。
下巻になると、社会に戻った少年たちのまわりが一気に動いて、面白くなります。
私の好みから言うと、下巻だけでよかったと思ってしまったけど、
それでは犯人の視点、犯人の置かれた状況を描いたことにならないんだろうね。
少年たちの内面は、幼児性から成長できない孤独そのもの。
小さな子供は自分の心理状態を言葉で表現する能力はないけれど、
もし3〜5歳くらいの子供が心で思ってることを言葉にしたら、
こういう表現になるのではないかと思えてしまう。
とにかくなにがなんでも自分の感情が絶対的に中心。
まわりへの配慮は欠片すらない。
そして気に入らないものは排除。欲しいものは、もぎ取る。
葛城の事件は、お気に入りのおもちゃを取られて癇癪起こした子供そのもの。
幼児なら相手を叩いても泣いて終わることが、
14歳の腕力では殺してしまうということ。
そして彼らは最後まで、その幼児性から成長することが出来ない。
自分がいかに幼いかも自覚できない。
3人とも決して頭が悪いわけではない。
なにが原因で精神的成長が妨げられてしまうのか?
それはやはり身近にいる大人が、彼らと正常な人間関係を築けなかったことが
原因としか思えない。
人間の幸福は、ものごころついた時に
まわりにどんな大人がいるかで決まるのかもしれない。
◆ 「密室殺人ゲーム王手飛車取り」 歌野晶午
ビデオチャットで殺人推理パズルを楽しむ5人。
ただし他の推理ゲームと違うのは、1つ1つの事件が実際に出題者によって
実行されたものであることだった。
実行された殺人でも机上のトリックでも、小説にしてしまえば同じこと。
無理やり殺人を実行させるには、なにか仕掛けがあるのかと思ったけど、
特になかったような…
あえて言えばQ7のためかな。
ただ、ネットの世界というのは「小説より奇なり」のさらに上を行くことが
実際にあったりするので、このくらいで驚く人はあまりいないんじゃないでしょうか。
私はもっとすごいことこと考えてたし(^^;)
ネットをネタにして読者を驚かすのは難しいですよね。
出題者が犯人だから、犯人当ては出来ないけど、
その代わり動機は考えなくてもいい。
そこは書くほうには楽かも。
トリックも前例があるものばかりなので、あまり考えずに読めます。
電車の中などで読むにはちょうどいいかもしれません。
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