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最近読んだ本
2007年-3



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(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


◆ 「玻璃の天 (はりのてん)  北村 薫

社長令嬢・花村英子と、お抱え運転手ベッキーさんのシリーズの2作目。

これは面白かった。
本に関する様々なエピソードは、本好きにはたまりません〜
もちろん探偵小説好きにも興味深い内容。
今回は「幻の橋」「想夫恋」「玻璃の天」の3作を収録。

前作からは1〜2年経っているようですね。
ロス五輪は昭和7年で、教文館ビル完成が昭和8年、
「玻璃の天」には「ベッキーさんと過ごした2年近い日々」とあるので、
花村英子嬢も17歳くらいになっているということかな。
そのせいか、恋にまつわる話が多くなってます。

「幻の橋」
これは昭和8年のロミオとジュリエット。

内堀百合江と内堀東一郎は祖父が兄弟という、いわゆる再従兄妹。
しかし、その両祖父は犬猿の仲で一族は対立している。
そんな二人が恋に落ちて、解決策を相談される英子。
例によって答えを出したのはベッキーさんなんだけど、
あいかわらず深い人間洞察で、見事な解決策を提案する。
途中まで成功していたその策も、最後に思わぬ妨害が入る。

事件の真相には旧家の"おり"のようなものが澱んでいます。

しかし、荒熊のような明文化されてない言論統制はおそろしいですね。

「想夫恋」
これは本や映画の話が楽しい1編。
ちょっと前の学生なら(だいぶ前?^^;)「秘密の儀式」なんて、
懐かしい方もいるんじゃないでしょうか。

「特徴のある挿絵」のある本も、「玻璃の天」に出てくる"たはぶれ書き"も、
"蛍"と"雁"の本も、どれも特別に好きな本ばかり。
読みながら私まで女学生時代に戻ったような気分になりました。
ちなみにこの3冊は、あまりに面白くて原文まで読んだ本(^o^)

さて肝心の事件は華族のお姫様の駆け落ち事件。
お嬢様は暗号が好き(^^)

「玻璃の天」
これはなんと、お屋敷もの。
意外性があって面白い。すっきりしないけど、すっきり。

ベッキーさんの謎も少しづつ解けてきます。
まだまだ謎の部分も多いですが・・・
ベッキーさんと花村社長との関係とか、桐原侯爵の息子とのこととかね。

このシリーズ3作で完結予定だそうですが、もっと読みたいですね。




◆ 「ぶたぶたと秘密のアップルパイ」 矢崎在美

ぶたぶたさんの新作です。
今回のぶたぶたさんは会員制喫茶店のパティシエ。
新作デザートを作りながら、秘密のアップルパイを焼いてます。

そして喫茶店にやってくるお客さんの秘密にも関わる。
このシリーズ、一時期つらい話が多かったけど、今回はわりとあっさりしてるかな。
ちょっとだけ怖いところもあるけど。

コーヒーとアップルパイの組み合わせは最強(^o^)

アップルパイって、不思議な魅力がありますよね。
単なるお菓子ではない。
はじめてのお店でもアップルパイがあると、つい注文してしまう。
私は生地があまり堅くなくて、りんごは堅めでシナモンが利いたのが好き。
でも、ぶたぶたさんのアップルパイにはシナモンは入ってないそうです。

コーヒーを煎れる、ぶたぶたさんがかわいい♪




 「街の灯」  北村薫

元士族の社長令嬢・花村英子と、お抱え運転手・通称ベッキーさんのコンビが、
日常の謎から殺人事件までを解き明かす連作ミステリーシリーズ。その1作目。
中編3作を収録。
いかにも北村作品という雰囲気を持ったシリーズです。

2003年1月に発行された本なのですが、読むのははじめて。
今回、シリーズ第2作「玻璃の天」が出たので、
1作目から読み始めることにしました。

時代は昭和7年、士族出身で社長令嬢でもある花村英子は女子学習院に通う
女学生。学友には侯爵や伯爵の令嬢がいる。
お嬢様が外出する時は専属運転手とお付きの女中が付き添うような世界だから、
想像もつかないというより宝塚の舞台を見るような感じ。
でも中身は正統派の謎解きなので、男性でもひくことはありません(笑)

虚栄の市
サッカレーの小説はタイトルを聞いたことがあるくらいなので
この本でやっとあらすじだけでも知りました(^^;)
こういうストーリーなんですね。
これをシリーズの第1作目のタイトルにしたということは、やはり伏線なのかな。

扱われる事件は自ら掘った穴の中で死んでいた男の謎。
とても上流社会のお嬢様が関わる事件とは思えないけど、
このお嬢様は乱歩も読むような女性なので、あの「名作」も絡んできたりして、
最後はニヤリとする謎解き。

銀座八丁
これは暗号もの。ただし何かの事件ではなくて学生の暗号遊び。
ベッキーさんの新たな一面が明らかになることで、
彼女の謎がますます深まります。

街の灯
タイトルはもちろんチャップリンの名作。
何気ない冒頭のエピソードから幾重にも伏線が絡み合う、これは見事なパズル。

財閥の御曹司が軽井沢の別荘で自作映画の映写会を行っていたが、
それを見ていた家庭教師が急死する。
侯爵令嬢が同席していたことも慮って、その場は穏便に片付けられたが、
やはり招かれて映写会にいた英子は、のちにいくつかのおかしな点に気付く。

何不自由ない立場でも、身分が付けば責任や義務も生じてくる。
それなりの苦悩はあるのかもしれませんね。

時代背景と身分差ということで連想するのは宮部みゆきの「蒲生邸事件」。
そして北村さんはご存じなかったという「はいからさんが通る」も思い出しました。




◆ 「ヴィズ・ゼロ」   福田 和代

台風で封鎖され、孤島となった関西国際空港にハイジャックされた航空機が
降り立った。
ハイジャック犯人の要求は給油とパラシュート、
そして犯人が指摘したURLをマスコミに公開しアクセスすること。
急遽、管制塔に対策本部が設置されたが、
その管制塔も潜入していた犯人一味に占拠される。

アクションとサイバーテロ、さらに孤島の犯人探しまで織り込んだサスペンスで、
1つ1つの設定はたいへん面白い。

ただ残念なのは文章がこなれていないこと。説明文が多く、それが流れを止めてしまうのでせっかくの緊迫シーンも緊張感が滞る。

説明文でも緊迫感を出すことは出来るんだけど、そこまで行き着いてないんですね。
後半、会話が多くなるとスムースに流れるので、少しは読みやすくなりますが。

とにかく盛り沢山のアイデアは面白いので、何かもったいない気がする小説でした。




  「いつもの朝に」 今邑彩    2007.10.26.Fri / 23:34

「いつもの朝」じゃなくて、「に」が付くところが不穏なものを感じさせるタイトル。

そんな予想通り、冒頭は不気味な絵を並べた個展のシーンで始まる。
個展会場に並べられている絵は、顔の描かれていない家族の肖像画や、
真っ白なテーブルクロスにこぼれた真っ赤なケチャップなど、
胸騒ぎを感じさせる絵ばかり。

この絵である程度、事件の想像をしてしまうと思うのですが、
そんな想像に反して、それらの絵を描いたのは二人の男の子を持つふつうの母親。
ちょっと肩透かしかと思うと、母親の家族が謎めいた事故で亡くなっていたりして、
やっぱりこの一家には過去がありそうな気配。

そしてある日、次男が子供が頃から大切にしていたぬいぐるみのお腹から、
父の手紙を見つけたことから、事件の話は一気に現実に。

でもここまでで、まだ本の厚さの三分の一も進んでいない。
父の手紙で真相と思われる事件をすべて描いてしまって、
この先、何が続くのだろうと心配していると、
話はさらにとんでもない方向へ進んでいく・・・
このあたりはかなり怖い。

ここまでで三分の二。

最後の三分の一は・・・
まあ、途中までは予想がついたけど、最後は意外。
いえ、この作家さんなら当然の結末かもしれませんね。

私としては、怖いまま最後まで突き進んで欲しかったです。


◆  「夜想」 貫井徳郎   2007.09.23.Sun / 17:59

14日に書いた「光と影の誘惑」の巻末解説で、貫井さんはミステリーと社会派、
この2つの読者の間で宙ぶらりんの状態をさまよっていると書かれていたけど、
これはその社会派ファンへ向けた作品。
宗教と救いを扱っています。
検索でヒットした数や好意的感想を読むと、こちらのファンの方が断然多いのだと実感。
それにしては、内容はちょっともの足りないですが。

妻と子を事故で一度に失った男・雪藤と、
その悲しみに共感して男を救いたいと願う、若き美女・天美遙。
このふたりの葛藤と救いの物語。

こう書くとメロドラマのようですが、ただのメロドラマじゃありません。
天美遙が救いたいと願っているのは雪藤だけではなく、
生きていく上での様々な問題に苦しんでいる多くの人々。

そう、遙が解決するのは心理的なものではなく現世利益が中心。
恋愛の悩み、商売の悩み、家族の悩み。
だからこそ短期間に多くの人が群がってくる。

人が増えれば、それが組織になり団体になる。
しかし元々個々の悩みを解決してもらうことを目的として集まった集団なので、
組織に求めるものが違う。あるいは何を求めるべきなのかわかっていない。
その思惑の違いが 小さな分裂になり、やがて崩れていく・・・

「流されもの」ジャンルかと思ったら、ラストは予想外でした。
なにか組織論のようですね。

雪藤にしても遙にしても、どうしてその方向に行ってしまうのかな?
流されるままなのが、もどかしかった。

そういう意味では、雪藤より天美遙に共感しました。
遙に心酔している人たちのはずなのに、
遙の真意が伝わらないのが恐ろしい。
いっそ宗教にしてしまえば、もっと簡単なのかもしれないけどね。

人間の集団をコントロールする難しさを感じます。

娘を探している子安嘉子の存在は、ミステリーファンへのアリバイなのか、
社会派ファンへの抵抗なのか。
私は子安嘉子のストーリーをメインに書いてほしかったけど、
そういう読者は少数派のようです・・・




◆ 「光と影の誘惑」 貫井徳郎   2007.09.14.Fri / 14:53

中編4作を収録した作品集。98年発行。
これは当たり。
図書館であまり期待もせずに借りてきた本だったのですが、
4編とも仕掛けもののミステリーとして完成度の高い作品。

私、貫井さんについて完全に勘違いしてました。
貫井さんはこういうミステリーっぽい作品も書かれるんですね。
デビューは鮎川哲也賞候補作だそうで、それならトリック好きも納得。

本書の巻末で我孫子武丸さん解説されてることですが、現在の貫井さんは、本来書きたかった「トリッキィな どんでん返し」と、話題になってしまった「重い社会派的、ドロドロした人間の暗い情念」、「この2つの読者の間で宙ぶらりんの状態をさまよ」っている状態だと。

たしかに私も情念作家と思っていました。
でもトリッキィな作品もこれだけ書けるなら、この分野をどんどん書いてほしいですね。

それにこの4編は単なるどんでん返しだけじゃないんですよ。
トリック自体はそれほど珍しいものでもないけれど、
そこに至るまでの人間描写や心理描写がうまいんですね〜、やっぱり。
だから1つ1つの作品が読み応えがあります。

「長く孤独な誘拐」 「二十四羽の目撃者」 「光と影の誘惑」 「我が母の教えたまいし歌」

▼ネタバレを含む各話感想



「長く孤独な誘拐」
結末は唐突な気もするけど、身代金受け渡しシーンは緊迫感がある。
森脇夫妻の子供が殺されてたのはショックだった。

「二十四羽の目撃者」
いきなりサンフランシスコの話になるので、ちょっと面食らいました(^^;)
動物園を舞台にした密室もの。トリックはう〜ん・・・

「光と影の誘惑」
最近似たような作品を読んでしまったので、ちょっと残念だったけど、
伏線が効いてて見事。ちゃんと矛盾が描かれてます。

「我が母の教えたまいし歌」
父の死後、ほとんど外に出ることもなかった母。
その母の秘められた過去。
トリックがわかってからドラマで見たいと思うような作品。
まず映像化は無理でしょうけど。

布川さんは母親になってる初音を見て不審を持たなかったのかな?
「お変わりなく」と言えるかな?
入れ替わったのが初音18歳と母36歳の時。
それから20年で初音は現在56歳。変わっていると思いますが






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