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最近読んだ本
2008年-1



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(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


◆  「絹の変容」 篠田節子

絹の変容というよりは「蚕」の変容なので、
ちょっと気持ち悪い描写がありますが面白かったです。


八王子の繊維メーカーの2代目社長である長谷康貴は土蔵の内部から虹色に輝く絹布を発見する。この虹色の絹織物を自社復興の切り札にしようともくろむ康貴は、天才的技術者と組んで密かに研究を始める。
しかし康貴にはひとつ不安があった。それは、これほど美しい絹織物が、なぜ土蔵の奥にひっそりと隠すように保存されていたかということ。この絹には、なにか問題があるのだろうか?
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あらすじから想像する通りにストーリーは進みます。
つまり、変異した蚕が街にパニックが起こしていくわけですが、
被害が出てからラストまでが短いことが、なにかもったいない気がしました。
あっさり終わってしまうんですよね。
被害者が出るのも早すぎるのではないかと。
自然の変化や被害と絹織物の関係がなかなか結びつかず、
その間に被害はさらに深刻になっていく・・・というような
崩壊のプロセスをゆっくり楽しみたかったですね

余談ですが「康貴」って変換できる名前なんですね。

ここからネタバレ。反転させて読んでね。



変異した蚕が外部にもれる前に絹が商品化されてしまう方が怖いですよね。
そしてモデルが死ぬこともなくショーは無事終わる。

売り出された絹織物で被害者が出るが、
商品が高価なので被害者は限られていて単なるアレルギーと診断されてしまう。

その間に徐々に被害は広がるが、アレルギーの原因は特定されない。
そのあたりで蚕が外に持ち出される。
そして直接的被害が広がる・・・
こんなところでどうでしょう・・・?







◆ 「サイン会はいかが」  大崎梢

成風堂シリーズ3作目。
2作目は長編ということでパスして3作目を読みました。
やはり1作目に比べると無理やりなところが目立つような気がしますね。
一番感じたのは、「もっと言葉を使おう。言葉で伝えよう」ということかな。


このシリーズを読んで感じたことは、私は小説を読むことは好きだけど(ノンフィクションでもなんでも)
「本」そのものにはあまり興味がないのかもしれないということ(^―^;)
作家さん個人にもまったく興味ないしね(笑)

「取り寄せトラップ」
同じ本の取り寄せを4人の人物が依頼していたが、
入荷の案内を連絡すると、全員が依頼した覚えがないと断ってきた。

いかにもミステリー的な謎の提示。事件もミステリー的。
でも、もっと正当な解決方法を選んだ方がいいのではないかと思います。

取り寄せといえば町の本屋では、ほとんど頼んだ本が届かない。
その後、某書店の店長さんが、「どうせ取りに来ないから放っておけばいいよ」と
言っているのを聞いて届かないわけを納得。
今はネットがあるから便利になりました。ネット書店にも不満は多々ありますが・・・

「バイト金森くんの告白」
ふたりとも不器用と言ってしまえばそれまでだけど、
こういう自分の視点でしか物事を見られない人が増えたよね。
ちゃんと言葉も添えようね。

「サイン会はいかが?」
う〜ん、この作家も友人も、どっちもどっちじゃないかと。
友人の方もストーカーまがいのことなんかしてないで、
ネットで反論して、作家の推理を論破してしまえばいいのにね。

「ヤギさんの忘れもの」
これはかわいいお話。解決したらちょっと笑ってしまった。




 「配達赤ずきん」  大崎梢

先日読んだ「片耳うさぎ」の大崎梢さんのデビュー作。
駅ビルの書店を舞台に、そこで起こる不思議な出来事を書店員たちが解いていく日常の謎シリーズ。

謎解きはちょっと無理やりかなと思ってしまったので、それより書店の内部事情が面白かったですね。昔、母が雑誌類を書店から定期購読してたけど、今でも配達ってあるんですね。大型書店だけがやってるのかな。

タイトルも昭和テイストだけど、内容もそんな感じでした。
かなり勘が鈍い杏子さんと、謎が解けてても独りで納得してもったいぶる多絵ちゃんが、ちょうどホームズとワトソンみたいで、その他の登場人物も含めて昭和の雰囲気です。

まあ、勘が鈍いのはワトソン役の宿命みたいなものだし、だから現代ミステリーでは登場しなくなったんだと思うけど、やっぱりあまりに鈍いと、そこで話が止まるし、ちょっと不満に感じてしまいますね。

面白かったのは表題作の「配達あかずきん」。正統派の謎解きです。

「六冊目のメッセージ」も素敵な話だったけど、人に本を薦めるのは難しいですよね・・・

「ディスプレイ・リプレイ」いかにも現代的な話だけど、逆に真相も漏れそうな気がしますが。




◆  「透明な一日」 北川歩実

ずいぶん前に「猿の証言」を読んで、なんとなく読みにくい作家さんだと思った記憶が
あるけど、やっぱり読みにくかった。
ではなぜ読んだのかというと、例によって「どんでん返しが見事」というコピーに釣られたから(笑)

記憶が再生できず永遠に同じ一日を繰り返す父親、
娘の成長も父親の記憶の中では12歳で止まったまま。
そんな娘が婚約者を連れて父の元にあいさつにやってくる。

実は、娘とその婚約者は過去のある事件の被害者という共通点があった。
ふたりとも一連の放火事件で母親を亡くしていた。
そのふたりが結びついたことが、あらたな連続殺人に発展する。

女性の登場人物が性格的にきつい人間ばかりで、そこでつまずいてしまいました。
でも、伏線も充分だしトリックも意外。
この世界になじめる人には面白いかもしれません。 

続きはネタバレです。


この父親は脳の記憶に障害はあるが、それ以外に悪いところはない。
そんな大人の男が、ちょっと妻の姿が見えないからといって
一日中妻を探すのはおかしいだろうと思っていたら、
それが重要なファクターだったんですね。
そこから始まって、どうも人物描写に納得がいかなくて物語に入り込めなかったので、
最初から読み方を間違えていたということかもしれません。







◆  「片耳うさぎ」  大崎 梢

主人公が小学生で表紙もほのぼのしてるので、ジュブナイルかと思って気軽に読み始めたんですが、内容はちゃんとした謎解きでした。
殺人事件は起こりませんが。

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小学6年生の蔵波奈都は父親の会社が倒産したことで東京近郊のマンションを出て父親の実家に身を寄せることになる。
しかし父の実家は田舎の旧家で古くて暗い大きな家。
心細い思いを味わいながら暮らしていた奈都だが、古い屋敷に興味を持つ中学生のさゆりが泊まりに来たことから、屋敷内の探検に出かけることになった。
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すらっと読んでしまったので、あまり書くことが思いつかないのですが、
軽く読める1冊でした。

古いお屋敷、隠し部屋、夜中に徘徊する怪しい影。
舞台装置はおどろおどろしいけど、主人公が子供なので
夏休みの冒険譚みたいなテイスト。

最初の方で、「あの大きな家で独りで留守番」と書いてあったから、
本当にたった一人で留守番するのかと思ったら、
同居する家族がぞろぞろ出て来たところは、ちょっとびっくり(笑)

ちょっとしたノスタルジーにも浸りました。
昔の家って、なぜか複雑な作りになってましたよね。
1階に4部屋作るとして、今なら正方形に並べるだろうけど、
昔はジグザグに並べてあったりする。
それを廊下でつないであって、廊下の隅には納戸があったり、
使ってない小部屋があったりする。
子供には探検するところが多くて、面白かったです。

ネタバレにいくつか疑問を書きましたけど、どれも些細なことです。
本格謎解きの不整合場面とは違うので。
そのつもりで見てください。

続きはネタバレ。反転させて読んでね。

【 

さゆりの姓が「うの」って、これは宇野じゃなくて卯乃とか?
もしかして惨劇が始まる予告・・・じゃないよね(笑)

でも、さゆりの一家はなぜ故郷に戻ってきたんだろう?
田舎でそのことは話題にはならないのかな?

みやバアは目が悪かったとして、他のお年よりは
なんで八重子そっくりのさゆりに気が付かなかったんだろうね?
田舎だけど若い人しか残ってないのか?
そこが腑に落ちなかったところですね。 

 】




◆  「ゴールデンスランバー」 伊坂幸太郎

基本は脱出もの。味付けは青春ノスタルジー。

この分野は古今の名作が数多くある上に、
日本では生死をかけた脱出を必然とする設定がなかなか成り立たないという
難しさがあるので、作品は少ないですが、これは果敢な挑戦。

権力によって首相暗殺犯に仕立て上げられた青年が、
封鎖された仙台から脱出するストーリー。

舞台を近未来に持ってきて、地域を仙台という狭い範囲に設定、
何とか脱出の必然性を出そうと頑張ってるけど、
やっぱり甘いという印象になってしまうのは仕方ないですね。

最後は禁じ手のような気もするけど・・・


脱出ものでは
「謀殺のチェスゲーム」山田正紀
「プラハからの道化たち」 高柳芳夫
なんか好きですね。

五木寛之の「戒厳令の夜」も脱出ものに入るかもしれないですね。




  「サクリファイス」 近藤史恵

本を開けたときの第一印象は「わ〜、行間が広い」(笑)
だから長編でも、あっという間に読めてしまいます。

以下はかなり否定的感想なので、この作品が好きな人は読まないでね。



さて、いいですか。
残念ながら、この本は苦手。

ミステリーとしては面白いです。
ミスリードからの逆転と、次々に予想を裏切られていく展開。
最後まで引き込まれて読みました。

でも読み進むにつれて嫌な気持ちが残ってしまいました。
それは登場するすべての人物に対して。

自転車レースのことはなにも知らないけど、本当にこういう世界なの?
団体競技なのに勝利は個人に与えられること、
アシスト役はアシスト役に徹すること、
エースの自転車にアクシデントがあったら、
アシスト役は自分の自転車を差し出して、自分はリタイアするなんて、
見てて辛くなるだけのような気がする。

もちろん選手はそういう競技だとわかってやってるんだから、
エースが勝てればそれでいいんだろうけど、私は見たくないですね。

これがヨーロッパで人気の競技というのも意外。
なんか個人主義のイメージが強いので。

でもむしろ日常的に集団に忠誠であることを要求されている日本人の方が
スポーツとしてこういう競技をやることは苦手かもしれないですね。
ある意味、冷静な駆け引きだけの世界だから。
やっぱり日本人は駆け引きより人情が大事。

あ、そうか、日本人は団体競技なのに
最終的に個が勝つことが苦手なのかもしれない。
勝つも負けるもみんな一緒というのが好きなのよね、たぶん。

以下はネタバレで隠してあります。反転させて読んでね。




冒頭の、事故を暗示するモノローグは白石誓の言葉だと思っていたから、
頭角を現しそうになると「危ない〜」とハラハラしながら読んでいたけど、
途中から、事故に遭うのは伊庭ではないかと思い始める。
白石誓は、けっこう上手く立ち回りそうなキャラに印象が変わったので。

白石誓は回りの人間が脱落していくのを、自分は関係ない、
俺は競争が嫌いだからと傍観しているようで、実は回りを拒否している。
そして最後に勝ち残るタイプ。

232ページに書いてある香乃が白石誓を評した言葉がとてもわかる。
文章では袴田が語るんだけどね。
「自信のあるようなことはひとつも言わないくせに、
本番になるとさらっとなんでもこなすんだ。あいつはそう言ってたよ。
そして、それで誉められたとしても、困ったような顔をするばかりで、
少しも自慢しないんだと」

石尾に対する誹謗中傷と、
白石誓が語る石尾の印象が違うところもあやしいので、
このまま白石誓が伊庭を陥れるストーリーなら
人間らしい小説になるかと思ったけど、
最後まで鋼鉄人間は変わらず、やっぱり独り勝ち。

う〜ん、やっぱり読後感は悪いです。






◆  「追伸」  真保裕一

往復書簡だけでつづる、ある夫婦の離婚。
読んでる途中で苦手なパターンだと気づいたけど、
とりあえず最後まで読んでみました。

夫はギリシャへ単身赴任中。
妻は渡航直前に事故に遭って日本に残っている。

そこから手紙のやり取りが始まるわけだけど、
この手紙がやたら長い。
さらに手紙なのに相手も知ってる事情が説明的に書いてある。
これは手紙というより手記で、手紙にする意味がわからない。

こんな分厚い手紙貰ったら誰でも離婚したくなるよ〜
というのは冗談にしても、「長々説明を書くより話し合えばいいのに」
と思ってしまうのは今の時代なら当然の感想でしょう。

手紙のやり取りが進むうちに妻が離婚を言い出した理由は、
祖母の事件に関わりがあるということがわかってくる。
妻の祖母は何かの理由で警察に捕まったことがあるらしい。
そこから祖母の事件とは何かという真相になる。

キャッチコピー的に言えば、
「戦中戦後から現代へと続く女の3代の妄執」ということかな。
そのまま午後1時半からのドラマになりますね。



 「家鳴り」  篠田節子  旧題「青らむ空のうつろの中に」

短編7編を収録。

ミステリーではありません。なかなかジャンル分けの難しい小説集だけど、
ホラーというより恐怖小説、というより「日常の崩壊」というのが一番近いかな。


震災難民、介護、ペットロス、育児放棄、倒産、住宅ローン破産、不倫、
日々ニュースに取り上げられる現代の課題が一味違う視点で描かれています。

問題提起をするような、ありがちな重苦しい小説ではありません。
まあ、暗いのは暗いけど、なにより結末が予想外。
「このテーマだと、こういうふうに進んで、こう終わるだろうな」と予想して読むと、
見事に裏切られて、話は違う方向に進んでいく。
その裏切られ方とラストが恐怖小説なのに快い、不思議な読後感でした。

篠田さんは犬好きというのも伝わってきました。
動物好きな人が持つ現実肯定観みたいなものが
恐怖を描いているのに重くならない素因かもしれませんね。

以下は各話の感想。
ミステリーではないのでネタバレというわけでもないけど、
細かいあらすじも書いてあるので、未読の方はご注意。



幻の穀物危機
ペンション地区でパン屋と喫茶店を経営する一家。
そこへ首都の震災で避難してきた難民が押し寄せる。
突然の人口流入で食料は底を付き、略奪が始まる。
「まさかそこまでは」という衝撃と、
逆に徹底的に戦う人たちがゲーム的でバイオレンス映画を思わせる。
いつどんな状況でも食料を持つ人は強いというのはたしかでしょうね。

やどかり
世間知らずの若者と、男を得ることに知恵のすべてを使う女。
中学生だけど、少女というより女だよね。
騙されてるよ〜と思って読みながら、どこか笑ってしまう。
少女が18才くらいなら、ふつうの恋愛小説かも(笑)

操作手
嫁の手より介護ロボットの手が優しいと感じる老女。
機械に介護されることは非人間的なのか、逆に気楽なのことなのか。
この感覚は時代と共に変わっていくことかも。

春の便り
娘も寄り付かない寝たきりの老婦人。しかし最近毎日お見舞いが来る。
・・・こういう病院があるといいのに。

家鳴り
ペットロスの話は多いけど、これは妻を犬の代わりにしたということなの?
餌をあげるというのは、やっぱり生き物と接する楽しみの第一なんでしょうね。

水球
学歴の無さをカバーするために人一倍働き、郊外に家を建て2時間半かけて会社に通い
出来の悪い息子を三流大学に入れ、「世の中をナメるな」と言っていた男が
女はナメてたって話かな(笑)

青らむ空のうつろの中に
これも人でないものの癒しという話なのかもしれませんが、
難しい話でした。




 「1950年のバックトス」 北村薫 

短編集。
95年から2007年まで様々な雑誌に掲載された短編23作を収録。

それぞれの作品の趣向も様々で、ホラーから謎解き、日常のスケッチ、
人情話まで、いろいろな話が読めます。
感想はとにかく「上手い!」の一言に尽きますね。

タイトルになっている「1950年のバックトス」は野球の話。
意外性と種明かし、ラストの感動と、短編小説のお手本のような1編。
やはりこれが一番面白かったです。

「昔町」は現在の昭和ブームを予言したような作品。
でも昭和ってそんなにいい時代だったのかな?
懐かしいというのはわかるけど。

ノスタルジーといえば「小正月」も、しみじみさせられました。

「恐怖映画」も、ある意味ほほえましく味のある作品でした。


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